ニンジャ宇多原

@MichikoMilch

第1話 フリーター宇多原(27)

「べつにいいんだよ、隠す事じゃないし。本当に。」

「そうなんですか?オレ、ニンジャってなんかもっと…秘密の存在みたいな感じかなって、思ってました」

「はは、そういう仕事もあるけどね」

無駄に乾いた笑いをしてしまった。鼻持ちならないやつだと思われただろうか。ニンジャの家に生まれただけのフリーターのくせに。

「俺はいま忍者で仕事してないし…」

「知ってますよー、だって今日も深夜シフト入ってるじゃないですか」

「そうだよなあ、あはは」

今度は妙にデカい笑い声をあげてしまった。空々しいと思われただろうか。ニンジャの家に生まれて、両親から厳しい訓練を受けたのに、国のため、ひとびとのためにこの伝統ある高度な技能技術を活かさず、24時間スーパーでバイトをしているフリーターの内面が空虚な声に滲み出てしまっただろうか。

「じゃあ、オレ上がりなんで。おつかれす。よろしくお願いします。」

「うん、おつかれさま。」

「今日リアタイで授業聴く。へへ。」

「おお、頑張ってね。」

彼は、通信制の大学で福祉を学んでいる。

『高校はあんま行ってなかったんですよね、行っても…なんか。あ、グミ食べます?授業とかむずかしいし。だいたい寝てて。なんとか就職したけどすげえきつくて速攻で辞めて。あ、うわ、うっまいなこれ、甘いコーヒー大好き。へへへ、なんだっけそれで、ニートしてたけど、親がなんかうるさいんで…どうしようかなって考えて、通信制入っちゃえばとりあえずニートじゃねえよなって思って。でも親に今さら学費とか払わせるのもアレなんで。なんかムカつくっていうか。そんで、ここでバイトし出したんですけど。』休憩中に彼が語ってくれた事を思い出す。そのたびに目の奥がキンとなる。生まれにも両親の言葉にも捉われず自分の人生を選んでいる彼が妬ましかった。ひどく。今でも。だめだ、品出ししないと。俺はニンジャになるのも、ならないのも怖い。怖いままダラダラしてたらこの歳になっていた。考えるな。段ボール箱を開封しろ。野菜ジュースを並べろ。考えない。俺は27歳、フリーターでニンジャだ。

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