接触者
「
「うん?」
「私、もう少しゾンビを狩ってきてもいいですか? 物足りないので」
「——え?」
物足りない?
物足りないって言った?
振り返ると
俺がなにか言う前にバリケードの向こう側から立ち去り、走り去る足音がする。
足元からゾワゾワと冷たいものが這い上がってくるようだった。
顎に触れた指先が氷のように冷たくて、自分の手を自分で握る。
パワードスーツの影響、だったっけ、あれ。
すべてのパワードスーツパーツを手に入れたら、
けれど、さっきのような戦闘狂のような様子が増える。
あのパワードスーツには、人を好戦的にするらしいのだ。
ゲーム中もそうして攻略対象たちと溝ができ、怯えながらも支えてもらい絆を深め合う。
けど、いざ自分がその好戦的になった
ゾンビの頭を一撃でかち割るのだ。
その力がこちらに向けられたならば当然、トマトでも潰すように生身の人間も潰される。
いっそあの様子ならば、この階にいるゾンビは任せて大丈夫と思うことにでもするか。
溜息を吐いてから改めて
とはいえ、バリケードを外さなければならないから、起きるのはゆっくりで構わない。
***
地下三階を探索し、水と食料を得た俺たちはいよいよ地下四階に下った。
最初の一部屋にバリケードを作り、引きこもる。
「では、ゾンビたちを殲滅してきます」
「くれぐれも気をつけてね。この階には
「はい、頑張ります」
いや、頑張るのではなく気をつけてほしいんだけど。
謎にウキウキして走り去る
包帯なんて贅沢なことは言わないから、清潔なタオルでもありゃいいんだけど……それも贅沢品だよな。
「
「す、すみません」
「な、なぁ、俺と
「外へ出る時は一緒の方がいい。ゲームをクリアした時や、映画のラストの定番展開って言えばわかるだろ?」
「定番展開?」
「爆発だよ爆発。証拠隠滅」
「げっ」
「だから出る時は全員一緒の方が安全だ。そしてそのためには少しずつでも進む方がいいと思う。瓦礫に押し潰されて死にたくないだろう?」
と、言うと
俺としても
だが、『おわきん』のラストは脱出&爆発。
海外映画のお約束的な展開になる。
「ク、クソ……もう嫌だぜ……! なんで俺たちがこんな目に遭わなきゃいけないんだっ」
「
「っううう……」
怪我で気が弱くなってるんだろう。
疲れも溜まっているし、気を遣ってはいるが緊張続きでそろそろ限界が近いはずだ。
「あ、あの」
「!」
俺たち以外の第三者の声に、鉄パイプを握りしめて振り返る。
バリケードの外、廊下に白衣の男が立っていた。
青白い顔で、目元は窪み、唇はひび割れている。
コイツは——!
「な、何者だ?」
「君たち、地上から来た人、だろう? よく無事だったものだ。なあ、入れてくれ。ゾンビがあっちこっちにいて、このままじゃ食われてしまうっ」
本気で怯えたような声と態度。
バリケードに使っている椅子やテーブルの脚を掴み、ガタガタと揺らされてブワッと冷や汗が出た。
「お、おい、やめろ。ゾンビが来るっ。そもそもあんたは何者だ。敵かもわからないやつを、バリケードの中に入れられるわけがないだろう」
「俺はここの研究者だよっ。研究中のゾンビを逃して、追われてるんだ! 頼むよ、助けてくれ」
研究中のゾンビを逃した?
それを理由に追われてる?
色々気になること言ってんなぁ。
ゲーム中では研究者に誑かされて裏切る攻略対象たちだが、具体的には「安全な逃げ道を教えるから」という条件で
しかし、せっかく向こうから接触してきてくれたのだから、もう少し情報を引き出してやるか。
「ゾンビを研究していたのか、この施設」
「そうだ。なあ、早くここを開けて入れてくれよっ」
「いやいや、ふざけるなよ。その程度で信じられるわけないだろう。地上がどうなってるか知ってるのか? ゾンビが溢れて、キャンプ場の客は俺たち以外の全滅したんだぞ。お前がゾンビを逃したのが原因なら、上の惨劇はお前のせいじゃないか」
「そ、それは……でも仕方なかったんだよ。俺は上に言われたことをしてるだけの、下っ端なんだ。自分の研究もさせてもらえない。だから、その……自分でゾンビを研究して、結果を出そうと思って……それでうっかり」
「うっかりでキャンプ場の人間を皆殺しにしたのか? それになにも思わないのか?」
「うう、わ、悪いとは思ってるよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます