第3話

   

「……あれ?」

 短い回想を終えた私は、小さな驚きの言葉を呟いてしまう。

 人間というものはおかしなもので、無意識のうちにおかしな行動を取っている場合がある。今の私がそれであり、自分でも気づかぬうちに、部屋のゆかを拭いていた。

 彼が倒れた周辺だ。その胸から流れ出た血を、きれいに拭き取る格好だった。ゆかはカーペットではなくフローリングなので、掃除も簡単。血の跡は完全に消えていた。

「何やってんだろ、私。人が殺されたら、現場に手をつけちゃいけないのに……」

 ミステリー小説や2時間ドラマで覚えた知識を口に出したところで、改めて冷静になり、今さらのように意識する。

 これは殺人事件であり、その犯人が私であることを。

「……!」

 急に怖くなった。

 足がガクガクして、ブルブル震えるような感覚が全身に走るが、視線を落とせば、私の足はゆかをしっかりと踏みしめているし、手にも震えは全く見られない。

「人間って凄いものなのね……」

 他人事のように呟いたのは、完全に現実逃避。気持ちとしては、怖くて怖くて仕方がなくて、彼の死体の横にいられる精神状態ではなく……。

 逃げるようにして、私は部屋から飛び出した。

   

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