第22話 お前らスパイか(ちょい修羅場)

「また美少女かいな!しかも二人て!坂本君、君どないなっとんねん!しかも、思えば吉乃さんとも手ぇ繋いではったよな!君、ほんま!どないなっとんねん!」


と、年甲斐もなくはしゃいでいるおっちゃんをとりあえず無視し、「GPSが…GPSが…」とか言ってズビズビ鼻水をすすりながら泣いている二人を「せやなぁ」と肯定しつつ宥める。


しかし、汗だくで、髪も呼吸も乱れている彼女らに一体何が?と不安を抱きながらしばしあやしていると、店の奥から着替えを終えた涼がやってきた。

なので俺は「エリマリが来たよー」と言おうと思ったのだが、何故か涼がこちらを見る表情が冷え切っており、それがとても恐ろしくて言葉が出なかった。


側にいたおっちゃんはそれを見るなり「さ、仕事せな」と言ってそそくさと奥の方へ逃げていった。

後で吉乃さんに悪評を流しておこう、俺はそう誓った。



「で、何しに来たの?」



もの凄く冷たく、低い声だった。

男バージョンの涼からでさえ聞いたことのないその声色に俺は冷や汗が止まらない。

なんなの??こいつら喧嘩中だったの??


すると、その声を受け、泣きべそをかいて抱きついていた二人がパッと俺から離れ、真理が「とりあえず宿二人分追加しといて」とこれまた低い声で言い、「早くしろよ」とドスの効いたエリナ。


え、しろよ? え、エリナちゃん?ちょっと施設上がりが顔出しちゃってるよ?


あぁ、懐かしいなーあの頃…と感慨にふけるフリをしながら現実逃避をしていると、涼は俺の手を引き「もう取ったよ。ご飯も間に合うみたいだし、良かったね」と二人の顔を見ずに店外へと歩きだす。

俺は「お、お世話になりました!」と、なんとか声を振り絞って店を後にした。

そして二人は涼を睨んだまま無言で着いてくる。

そのまましばらく黙って歩いていたが、ちょっとこの空気に耐えられなかった俺。



「やっぱ……リンがいないからか?ごめんな、俺がバランス崩しちゃったから……」



三人に何があったかは知らないけれど、俺の中で一番可能性が高く、そして一番キツい理由がこれだから先に謝っておいた。

だって、俺達がパーティならば、勝手にリンを追放したの俺だし、リーダーとして今後の方針みたいなのも示してないし、今後私達ってどーなっちゃうの?!みたいな不安はきっとあるだろうから。

そんな不安感から、俺の知らない所でこいつらがバチバチしていたのならばそれは俺の責任。

今回の旅で俺の傷心を癒やして、その後から崩れたバランスを整えていこうって思ってたけど、なんか既にヤベェ。

このままではパーティ崩壊で追放ざまぁになりそうなので、ここは謙虚さと誠実さを前面に押し出していこう。



「いや、やっぱリンが必要ならさ、俺あいつに謝って仲良く出来るように努力するから…」


でも、もう少しだけ時間くんない? と続けようと思っていたら



「「「 違うっ!! 」」」 と三人。


「鈴音の話はしないで!!」 と涼。


「これは私達の問題だからあのバカ女は関係ない!!一生ね!!」 と真理。


「そうだよ!涼君が悪いだけ!リンリンはもう死んだ!!」 とエリナ。



いや、この姉妹酷くね?特にエリナ。

つーか、リン嫌われ過ぎてて草生える。

まぁたしかに教室で「お前らに構ってる暇ねーから!」みたいな事言われたけど、それぐらいの喧嘩は別に珍しくないはずなんだけどな。

まぁ、とりま俺のせいじゃなさそうでよかった。

だけどさ、じゃーなんの争いなの??

つかさ……何で涼の女装スルーなの?!

ほんと、こいつら目ん玉ついてのかよ!!見ろよ!!涼が女になってんだよ?!

マジで、マジで……



「おい!お前ら何で涼の姿スルーすんだよー!!こんっなに可愛いんだよ?!スカートだって履いてのに!!だいたい、何で京都いんの?まぁそれはおいでやすぅ〜だけども!なに?涼とわざわざ喧嘩しにきたの?京都まで?!なんなの?全国制覇でもすんの?お兄ちゃん京都まで来て喧嘩とか良くないと思います!ん?もしや涼が呼んでくれたの?あれか?サプライズ的な?だとしたら、ありがとうございます!!」


「おにーちゃん!涼君はぜんっぜんエリナ達を呼んでないよ!むしろ着拒&ブロックしてハブにしたよ!クズ!ほんとクズ!」


「そーだよ!兄さん!しかも、コイツはねぇ!ずっと私達を騙してたんだよ!女の癖に男のフリしてさ!私達を安心させといて、今日兄さんにキスしやがった!!ウソつきで汚いクソみたいな奴さ!こんな奴、可愛いくなんかないね!」



はぁ?何でキスのこと知ってんの?しかも、女装にめっちゃキレてる。

いや、別によくね?自由じゃんそんなの。

だいたい、俺を騙して女装させたお前らが言えたことか?

まぁ着拒&ブロックはよく分からんが。

それより何で京都にいるのか答えねーしバカどもが。

あーあ、見ろよ、涼唇噛みしめて泣きそうじゃんか。

しかも2対1で、可哀想に。



「いや、涼は今日俺の彼女だからこれ以上責めたら許さない。涼は着拒&ブロックについてだけ弁明なり謝罪なりして?あと、真理、女装も男装も涼の自由だろ?キスだって、俺は嬉しかったからいーんだよ。だいたい何でキスの事知ってんだよお前らスパイか。すげーな」



俺がそう言うと、涼は俺との時間を邪魔されたくないからブロックした、と謝った。

いやいやいや、ほんと今日の涼は可愛いが行列作っててヤッバい。

それに対し、「私達も言い過ぎた」と二人ともテンプレのような謝罪をして一応場は収まった。

ただ、二人は女の涼との距離がまだ掴めず、いつものような会話が出来ず道中ずっとギクシャク。

我が娘ながら頭が固くてごめんね涼。


そして、とうとう変な感じのまま宿に着き、本来であればワイワイと館内探検したり写真撮ったりするんだろうけど割とお通夜状態。

空気変えようと部屋ですっぽんぽんで歩いてみたら、エリナだけ「おにーちゃんいいよーキレてるよー」とパシャパシャ写真撮ってたけど二人はチラチラするだけでノッてこない。

結局エリナのスマホに『兄全裸』のフォルダが増えたのと、俺がチラチラ視線に変な興奮を覚えただけだった。

これは時間掛かるな…と内心凹んでいたのだが、真理が二人を誘って大浴場に行き、戻って来た時には「お涼」と真理が呼び、「涼ちゃん」とエリナが呼び、三人でキャッキャッしながら「夕食楽しみだねー」なんてさ……。

一体ここの温泉にどんな効能あんだよ、と思ったりしたがまぁ結果オーライめでたしめでたしだよね。


そして、俺達の楽しい夜はこれから始まる。

と、思う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る