お昼ごはんデートをしましょう


「ろうえい先輩、そろそろお昼ごはんはどうでしょう。お腹と背中がくっ付く頃だと思いません?」

「んんッ、お昼ごはんかっ。そ、そうだね、いいかも知れんっ」


 先程まで恋人つなぎなデート記念撮影をしたばかりで、ちょっと意識しすぎなおマヌケな反応を返す俺とは対照的にスズネちゃんはケロリといつものスズネちゃんだった。こういう時は、女の子の方が気持ちを切り替えるのが早いのかな。それとも、俺が変に意識しすぎなのかしら?


「ええとぅ、そういえばお父さんはレイモンさんのカレーを食べなさいと言っていましたねぇ? レイモンさんはどんなお店なんですかぁ?」

「ああ、うん。玖球で唯一無二の本格的なカレーライスを食べさせてくれる欧風レストランレストハウスだよ。カレー以外のメニューもあるけど、地元民にとってはカレー屋さんのイメージが根強いけどね」


 スズネちゃんはマイペースに話を進めていくので俺も意識するのはやめる事にして「レイモン」の魅力を伝える事にした。


「まず、カレーを注文すると食前に蒸かしたじゃがいもが二つ出てくるんだけど、これをバター塗ってジンワリと熱で溶かしてホクホク熱々を食べるのがすごく美味いんだよねぇ。カレーはスゴく辛いんだけど、食べるとね、とっても元気が出るんだよ。あと、ハンバーグとステーキも美味しいよ。こっちは食前にコンソメスープとかクルトンの浮いたポタージュスープが出てくるね。食べログとかを見てるとハンバーグとステーキ目当てで食べにくる人が多いみたいだけど、カレーのファンとしてはここがちょっと不満かな? あ、だいぶ前にミュージシャンでタレントの関口メンディーさんもテレビ番組企画で来店したらしいんだよね。あと、俺のオススメはやっぱりエビカレーかなぁ。でもスタンダードなチキンやビーフも美味しいよ。それとライスの上にもチーズがパラパラ散りばめられててさ、横に添えられたピクルスとカリカリな小さな小梅も──」

「おおっ、思った以上にガチ勢なのですねろうえい先輩」

「あ、ごめん。子どもの頃から俺も美咲花も大好きなお店だから、ついついヒートアップしちゃって」

「いえいえ、今の素敵なプレゼンですごくお腹が空いてきましたよぅ。スズネも食べてみたいです。他にもオススメなお店があったら教えてください」

「んー、そうだなぁ」


 俺は玖球町内で行きつけのお店をスズネちゃんに紹介した。


「まず玖球中近くの国道沿いにある全国チェーン店「ラーメン山小屋やまごや」でしょ。小学校裏の元力士の店主さんがやってる焼肉とちゃんこ鍋のお店「古狼山ころうざん」に駅近くのソースが濃厚なデッカイお好み焼きがテイクアウトできる「お好みのぎんさん」もうちょい先にあるちょっとお高めな魚料理のお店が「ちゅうてい」農協と玖球小学校の近くにある中華料理屋「中華之拳ちゅうかのけん」なんかも俺のオススメかなあ?」

「うわぁ、いっぱい食べ物屋さんがあるんですねぇ。どれも聞いてるだけで美味しそう。あ、そういえばこの前のボウシちゃん先輩がお弁当時に話題にしてた「いろり山賊」も玖球でしたよね?」

「あぁ、あそこは国道の山中だから、車を使わないと行けないんだよ。全国的にはあそこが玖球で一番有名店だけど、歩きじゃどうしても無理だね。それに、主に他県からくるお客さんでいつでもいっぱいだから待ち時間も一、二時間は覚悟しないといけないんだよ」

「えぇっ! 想像以上に凄いお店なんですねぇ。むうぅ、車を使わないと無理となるとあきらめざるを得ないのですかぁ」


 うん、まぁ有名なお店は興味が湧くよね。また別の機会にぜひ食べに行って欲しいな。


「で、どこに食べに行こうか?」

「そうですねぇ……やっぱり、最初に言ってたカレー屋さんにスズネは興味津々かなぁ~って。ろうえい先輩のお父さんオススメでもありますし、口の中がスゴオォくカレーになっちゃっているのですよぅ」

「了解、じゃあレイモンに決めようか。実は割とこっから近いんだよね」


 俺たちは、レイモンで食事をする事に決めるとお店に向かって歩きだした。






 並木通り運動公園から、ほんの十分程度歩いたところにあるスーパーマーケット「MAXバリュー」の裏手から駐車場を抜けるとあら不思議、お隣の洒落た外装のレストランにご到着だ。ここが目的地の欧風レストラン「レイモン」である。


「おー、本当に近いんですねぇ」

「うん、だから言ったでしょ。さ、入りましょうか」


 俺が先導して店の扉を開けるとカランカランとした子気味の良いベルの音がなる。


「いらっしゃいませ。何名さまでしょうか?」


 ちょうど目の前を歩いていた店員さんが会釈をして挨拶をしてくれる。俺も頭を下げて店員さんに「二名です」と告げると店員さんはニコリと笑って「テーブル席にご自由にどうぞ」と言って窓際席のお客さんへと注文を取りに行った。


「奥のテーブル席でいい?」

「はい、どこでも大丈夫ですぅ」


 スズネちゃんはお店の内装が気になるのか大きなお目目をクリクリと動かしながら頷く。うーん、内装は普通の欧風レストランと違いは無いと思うけど、やっぱり初めてくるお店って緊張したりワクワクしたりするもんなのかなと微笑ましく思いながら奥のテーブル席へと移動する。


「はい、こっちどうぞ」


 お店の雰囲気に興味津々なら壁側の席がよく見えていいかなと椅子を引いて勧めると、スズネちゃんは頷いて壁側の席へと座った。俺も向かい側の席に座ると立てかけてあるメニュー表を手に取ってスズネちゃんの方に開いて見せる。


「カレーに決めてるって言ってたけど、何にする?」

「そうですねぇ、あぁオムライスもあるんですねぇ写真で見せられるとちょっとグラッと誘惑されちゃいそうです」

「あぁわかる、写真付きだと美味しそうだよねぇ。昔は文字だけだったから強い意志で推しを注文できたんだけど」

「ほぅ、そうなんですねぇ。子どもの頃からのカレー屋さんと言ってましたけど、お店を始めて何年めなんでしょう?」

「うん、うちの太郎が幼稚園か小学校くらいに開店したって言ってたから三十年以上かな?」

「へー、けっこう歴史があるお店なんですねぇ」


 スズネちゃんが驚いた様子で目をクリクリとさせながらメニュー表と格闘をしているのを眺める。俺の推しは断然カレーだけど、スズネちゃんの好きなものを注文するといいよ。ハンバーグやステーキ、オムライスだってどれも美味しいからね。


「よし、決めましたぁ」

「あ、ご注文はお決まりになりましたか?」


 スズネちゃんが注文を固めて顔を上げると同時に店員さんがちょうどお冷とおしぼりを運んできてくれた。スズネちゃんはちょっと恥ずかしげに縮こまりながらメニュー表を指さして注文をする。俺も予め決めていた推しを注文する。


「ビーフカレーをお願いします」

「俺はエビカレーの大盛り中辛チーズ有りで」

「ビーフのお客様は辛さとチーズはどうしますか?」

「ええっとぅ」

「レイモンのカレーは普通でも辛い方だから甘口でいった方がいいかも。チーズは好みだけど、トロッと濃くが出て美味しいよ」

「うーん、いえ、ここは辛さを堪能するということで辛──同じ中辛で。チーズもオススメを信じて有りでお願いしますぅ」

「かしこまりました。注文を繰り返させて──」


 辛さを中辛にしちゃったけど、スズネちゃん大丈夫かなぁ。結構ピリピリだよレイモンのカレーは。

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