第3話 barにて

今宵もバーに行く。

こことはもう3年のつきあいになる。

ドアベルを鳴らし、店の中に入った。

やっぱり情報量の多い雑多な感じが落ち着く。

「いらっしゃい。月子ちゃん」

バーのママが私の名前を呼ぶ。

ママは若くて可愛いお嬢様然としていて、いつもゴスロリ服を着ている。

「ママさんこんばんは。今日も可愛いね」

「あらやだ月子ちゃん。正直ね。好きよ」

今日は何する?と言われて、ヴァージンモヒートを頼んだ。

ここのは、ミントがすごく効いていてうまい。

私は飲むととんでもない醜態をさらすので、基本的にはノンアルコールカクテルをたしなむ。

俗に言う、大トラというやつだ。

「最近ね、可愛い子が来てくれるようになったのよ。今日も来ると思うよ。多分……月子ちゃんの……」

と言いかけたとき、ドアベルが鳴り中に人が入ってきた。

「ママ、来たよ」

小太りの中年男性が入ってくる。

サトルさんだ。

「ママ、これ、みんなで食べて。ボクから」

ボクからという語尾を強調する様に言いながら、ケーキの箱を渡す。

「あら、ありがとう。じゃあ、いただくね」

夜からケーキかあと思いつつ、ママが切ってくれたそれを一口食べる。

甘ったるいだけの味が口の中に広がる。

「サトルちゃん、彼女は見つかった?」

「なかなか、あの女を超える奴はいないな」

「サトルちゃんは面食いだからね。仕方ないのよね」

「どこかに女優級の綺麗な女いないかなあ」

かかかと笑いながらサトルさんは口の周りを白くし、口から舌を出してケーキを一口頬張る。黒いドクロマークのTシャツの襟ぐりや胸、出っぱったウエストの窪みの部分に白い食べかすやらクリームが点々と付いている。

だが、誰もが思いそうなことは言わない。

それがこの店のルールだからだ。

ドアベルが次々と音を奏でて人がたくさん入ってきて、狭い店内が人で賑わうようになった。

そんな中、ある女の子に目が離せなくなった。

彼女からは後光が差しているように見える。

紫のインナーカラーが入った黒く長い髪に頭頂部は黒地のフリルにピンクの編み上げリボンがついたヘッドドレスを飾り、フリルとリボンをあしらった白の丸首の襟からほっそり伸びる華奢な首、パフスリーブから伸びる二の腕は白くて長く、夜色のジャンパースカートはその細身の体をフワッと包んでいる。

アーモンド色の目の周りは花魁さんのように紅色に縁取られ、その上にアーチ状の優しげな眉。

ピーチ色にぽっと染まっているような頬もなんとも言えない愛らしさがあり、ミルキーピンクの唇は彼女が喋るたびにぷるんぷるんと光っている。

マスクを顎にかけ、ストローでビールを飲んでいた。



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