マジカルストライク! 〜政府公認のプレイヤーキラー〜

獅子亀

大混乱のゲームイベント

 バーチャルな世界に意識を飛ばす──いわゆる完全没入型のVR技術が確立されてから数年、その技術は未だに一般人に普及するレベルには達していなかった。

 人々が期待に胸をふくらませる中、ついに日本の大手ゲームメーカーが全世界に先駆けて、完全没入型VRゲームのリリースを発表した。

 そのゲームに対する期待と不安が入り交じる中、追加で解禁された情報は、抽選で100人のプレイヤーを選びリアルでイベントを開催するというものだった。

 完全没入型VRゲームの試金石となるそのイベントに参加すべく全世界から抽選が殺到したが、日本語のみの対応のため基本的には日本からのみというアクセス制限がかけられた。 

 そして、イベントの情報が解禁されてから翌年、全世界待望の日が訪れた。

 お披露目イベントとして行われたのは、抽選で選ばれた100人のテスターによるゲーム攻略生配信であった。

 選ばれたテスターは1週間に渡りゲームを行い、クリアを目指すことになる。

 その攻略状況は各プレイヤーそれぞれに与えられた100の配信チャンネルによって配信され、それを見る人々も楽しめるイベントとなる……はずだった。


『このゲームはログアウト不能になりました』


 全プレイヤーがゲーム専用筐体──揺り籠に搭乗し、ゲーム開始のAIからチュートリアルの説明を受けている際、それは起こった。

 そして突如、ゲーム内に響き渡るワールドメッセージ。


『プレイヤー諸君、そしてゲーム開発者、さらに、このゲームの配信を見ている視聴者たち……はじめまして。早速で悪いが、このゲームはハッキングさせてもらった』


 ゲームシステムがハッカー集団に乗っ取られたのだと、全ての当事者が理解した。

 続いて、ハッカー集団のリーダーを名乗る男はこう宣言した。


『プレイヤーひとりにつき100万ドル、金額が指定の講座に振り込まれ次第、プレイヤーを開放していく。あぁそれと、プレイヤー諸君の生殺与奪の権利は私が握っていることをゆめゆめ忘れることのないように。賢い選択を期待する』


 ──以上だ。

 短い犯行声明、しかし効果は絶大だった。

 それもそのはず。

 現在進行形で配信中の100の配信チャンネル、そしてイベント当日に会場入りしているメディアの生放送に乗った前代未聞のゲームハック事件。

 この事件は瞬く間に全世界が知ることとなった。

 ゲーム開発側のセキュリティ問題が取り沙汰され、また、すぐにプレイヤーたちの安全を心配する声が挙がる。

 だが、開発側が何も想定していないわけではなかった。警察のサイバー犯罪対策チームとの協力は、ゲーム開始前から行われており、つまり、こういったハッキングテロが起きるのは、予想の範囲内であった。

 対策チームによる反撃が開始され、ハッキング手口、および犯人の特定がなされるのは早かった。

 時間にして半日、それが犯人の逮捕までにかかった時間だった。

 そしてすぐ、ゲーム開発者による安全宣言が公表される。

 しかし、その内容は少々歯切れの悪いものだった。


 1 犯人は逮捕され、ゲームは正常な進行に戻った。

 2 だが、ログアウト可否権限やその他機能がいじられ、開発側からの強制的なログアウトが無効になった。

 3 プレイヤーがゲーム内で3回死ぬことでゲームオーバーとなり強制ログアウトされる仕様はそのまま維持されている。

 4 ゲーム専用筐体──揺り籠は医療ポットとしての機能も搭載しており、およそ1週間の生命維持機能を保証している。


 要するに、100人のゲーム参加者はゲーム内で死ぬ以外、ログアウトすることができなくなったということだ。

 そして、そのタイムリミットは1週間。

 揺り籠を破壊してプレイヤーを救助するという方法やサービスを強制終了するというやり方は、プレイヤーの意識が戻らなくなるかもしれないという危険性から採用されず、ログアウトはプレイヤーたちの自主性に委ねられた。

 ただ、開発側と世論は楽観視していた。

 ゲームイベントの参加者たちは、ゲーム内で自殺し、すぐにでも現実世界に戻ってきてくれるだろう、と。

 だが、プレイヤーに対してもそれらの説明が行われたあと、事態は思わぬ方向へと向かうことになる。


 それは──全100人中99人のプレイヤーの、ログアウト拒否であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る