勇者パーティ全員俺 〜ステータス割り振りの悲劇〜

辺理可付加

上.

 ここは剣と魔法のアイウエ王国。その中心の国立勇者広場で、祖母と孫といった風情の二人がベンチに座っている。


「ねぇおばあちゃん。この前他所の国のお友達が遊びに来たんだけどね?」

「はいはい」

「その時お部屋に『聖虫せいちゅう』が出たの」

「ほうほう」

「そしたらその友達が、『Gだーっ!』って叫んで『聖虫』を潰しちゃったの!」

「あらあらまぁまぁ!」


孫の語る声と握る拳に力が入る。


「『聖虫』を潰したらダメだって友達に言ったら、その友達は『こんなの崇めてる方がおかしい。他所の国じゃ何処でもこの虫は嫌われてるのに』って!」

「それはそうかも知れないねぇ」

「ねぇおばあちゃん、どうしてこの国はGを『聖虫』にしてるの? 他所はみんな嫌ってるのに」

「それはねぇ、あの旗を見てごらん?」


祖母は広間中心に高々と掲げられた旗を指差す。そこには黒光りする『聖虫』のエンブレム。


「ここは伝説の勇者様を讃えるために作られた広場だってことは知ってるだろ?」

「うん」

「その勇者様の紋章が、あれと同じデザインなんだよ。だからこの国ではGを『聖虫』とすることで、ずっと勇者様に感謝を示しているの」

「ふーん……」


孫は暫く旗を見た後、ポツリと呟いた。


「そもそもなんで勇者様はGを旗にしたの?」

「それはねぇ……」






 トラックでサラリーマン撥ねて死なせちまったら、どうやらそいつが死ぬのは女神様の手違いだったらしい。そこでお詫びに何故か俺がゲーム世界に伝説の勇者として転生するとかいう更なる手違いの上塗りが発生、剣と魔法のアイウエ王国で暮らす羽目になった。

当然そういう話だったので生まれた時から伝説の勇者たる素質を存分に垂れ流していた俺は国ぐるみで大事に育てられ、逆に時には「もっと大事にしろよ!」と言いたくなるような訓練をいられて大きくなっていった。

そして十八歳になった今日、王様に呼び出しをくらっている。



「勇者ナツスケよ! よくぞ参った!」


広間にて。一本残らず白髪だが矍鑠かくしゃくとしている……どころかゴリゴリマッチョの、正直伝説の勇者より強そうな王様が両手を広げて俺を迎える。相変わらず玉座の左には溺愛している愛娘のキイ姫、右には別嬪べっぴんの宮廷魔道士長マリリーンさんを侍らせた両手に花スタイル。


「どうしたナツスケよ? 斯様かように押し黙って」

「あぁ、いえ。お元気そうで」


お前に『どうして中世ヨーロッパな異世界の伝説の勇者に転生したのに名前は前世の夏介ザ・日本人のままなんですか?』とか聞いてもしょうがないだろ。


「それより、ご用件はなんでしょう」

「うむ。それなのだがな」


王は玉座に頬杖突いて勿体ぶるが、大体察しはつく。だって俺の役割伝説の勇者だし。ここゲームの世界だし。


「伝説の勇者である其方そなたに、魔王討伐に行ってほしいのだ」

「そりゃそうだよな」

「何か言ったか?」

「滅相も無い」


まぁ予想通りだし行くのも嫌じゃない。むしろ俺だって男だ、こういうシチュエーションは最高に好物、燃えるぜ! ってなモンだ。サラリーマンすまねぇな、お前のロマンは俺がいただくぜ……。

俺がゴチャゴチャ考えている内に、王はなんか話を進めている。


「というわけで共に魔王討伐に向かうパーティなのだが、『魔法使い』『戦士』『僧侶』を用意しようと思う」

「え? あ、はいはい」


俺が生返事したのにも気付かず、王は顎髭を撫でる。


「時にナツスケよ、この国で最高の魔法使いは誰じゃと思う?」

「はぁ? そんなのそこのマリリーンさんに決まって……」

「其方じゃ」

「……は?」

「マリリーンが密かに調査しテストしたところ、其方が最も優れた魔法使いであるらしい」

「はぁ」

「つまり最高の魔法使いをパーティに入れるとしたら、其方ということになる」


王は次に口髭を撫で始めた。なんか嫌な予感がする。


「次に、この国最高の戦士は誰じゃと思う?」

「王国騎士団長イヴァーリのアニキに……」

「其方じゃ」

「……」

「つまり最高の戦士をパーティに……」

「待て待て待て待て待って下さい!」

「なんじゃ」


王は露骨に面倒臭そうな顔をする。が、向こうの事情なんか構ってられねぇ。


「もしかして、俺一人でいけ、とか……?」


んなわけねぇよな!? 恐る恐る聞いてみると、


「ガッハハハハハ!」


王は玉座の肘掛けを叩きながら大笑いした。


「そんなわけ無かろう!」

「あ、あ、ですよねー、一安心……」

「ただチョイとマリリーンの魔法で其方を分裂させるだけじゃ」

「……は?」


この爺さん?


「待て待て待て待ておい待ってくれ!」

「次に最高の僧侶は……」

「ミオ! 近所の教会のミオ!」

「其方じゃ。僧侶も其方を分裂させて用意する」

「嫌だあああ! せめて僧侶はミオにしてくれえええ!」


ミオは近所の教会に勤める一歳下の僧侶で、伝説の勇者である俺に対してメロメロ靡かない女はいなかった中で唯一知的かつ塩対応に振る舞ったボブカットの小柄な薄命系美人という、何もかもが俺好みの……って今はそれどころじゃねぇ熱く語ってる場合じゃねぇ! このままだと俺、分裂とかいうとんでもない目に遭わされちまうぞ!


「というわけで、頼むぞマリリーン」

「お任せ下さい」

「待てよ! そんなスゲー魔法使えるレベルなら、素直にマリリーンさんが来てくれたらいいだろ! 十分戦力だろ!」

「ジタバタしないの、坊や」


くそっ! 爺さんもマリリーンさんも話聞かねぇ! あとキイ姫が一言も喋らねぇ! 結局姫がなんぞ取り成してくれることもなく、マリリーンさんの杖から光がほとばしり……、


「うわあああああ!!??」



 気が付くと俺含めて俺が四人いた。


「ま、ま、ま、マジでやりやがったあああああ!!」

「うむ! これで魔王討伐パーティ完成じゃのう!」

「クローンとかオメーが一番魔王だよ!」

「黒……、其方は何を言うておるのじゃ?」


精神的ショックに打ちひしがれる暇も無いまま、王は厄介払いするような態度を取りやがった。


「ほれ、後は装備をやるから魔王討伐に行っとくれ」

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