第5話 お昼の放送

 皆さん、冬休みは楽しめたでしょうか。親戚の家に行った人や初詣に行った人など、充実した冬休みを過ごせていたと思います。これから三学期となります。三学期は次の学年の準備とも言えるもので……という感じの校長の挨拶を経て始業式が終わった。勉強の話は聞きたくないので勿論すっ飛ばした。始業式の日、というのは結構直ぐに終わる。なぜなら午前中には全ての日程を終えることができるからだ。

 登校してからは蛍が結構ギリギリに教室に入ってきたこともあって話す機会がなかった。時計の針は11時を指しており、もう下校の時間が差し迫っている。

 「瀬良」

 蛍が一人になっているときを見計らってサッと声をかける。用件はもちろんLINEのことだ。蛍も何を言わんとするか直ぐに察したらしく小さく頷いた。理人も少し胸を撫で下ろす。無いとはもちろん思っているがここですっとぼけでもされたら項垂れて今すぐ教室を飛び出すところだった。

 「今日昼から部活あるんだよね。だからそれが終わった……5時半くらいにマンションのロビーに来てくれる?」

 「分かった」

 「じゃ、よろしくね」

 少し悪戯げに笑って蛍は友達の所へ行ってしまった。5時半……5時半か。これで明日、とか言わないってことは明日の朝も時間決めて一緒に登校できる……ってことだろうか?

 「理人! 弁当食おうぜ」

 「……おう」

 今度はちゃんと話の後に来てくれた(当然だが)ので繁の誘いに快く乗った。何か、今がここ数週間で一番気分がいいかもしれない。



 弁当を食べ始めたのとほぼ同じタイミングでピンポンパンポン、と軽快なチャイムと共にいつものお昼の放送が始まる。始業式だろうが教室で弁当を食ってる人達が結構いるからからやるというのは知っていたが、本当にやるのか。一応もう下校時間だぞ、特例ってことにはなってるんだろうけど。

 「1月――日――曜日、今日のお昼の放送は――」

 今日も少し雰囲気が合ってない音楽をBGMに放送が始まった。うちの放送部は毎日弁当を食べている時間帯に2曲音楽を流してその後に連絡事項を話す、という形式で行われる。ということで、今日も今流行りのジャニーズユニットの曲が流れ始めた。

 

 「今日も可愛い声だよなあ、川原先輩! 放送部部長!」

 繁は勝手に盛りあがっている。放送部には現在3人の部員がいるのだ。その3人が代わる代わる当番することによってお昼の放送は成り立っているのだが、今日の担当は紅一点、部長の川原先輩。2年生だ。

 「お前いっつもそんなこと言ってるけど川原先輩とろくに話したことないだろ」

 「いや、確かにそうだけど。でも声もよくて顔も可愛いって凄いだろ!?」

 「まあ……」

 どうやら繁は入学したての頃に放送の声を聞いて可愛いと思い、廊下で見て可愛いと思い……でノックアウトされたらしい。尤も様子を見ていると恋してるというよりはファンしてる……推してるって感じだ。

 「知ってるか? 先輩から聞いたけど川原先輩ってプラナリアが嫌いらしいぜ」

 「何で俺も知らない情報をお前が知ってるんだよ」

 

 そんなことを話している間に「今日の放送は川原が担当しました」と、お昼の放送が終わり俺たちの食事タイムも終わった。今日は俺も繁も部活がある。繁は陸上部に所属していていつもはふざけてる奴だがかなり凄いらしい。大会でも結構いい成績を残していると聞く。俺はスポーツに関してはてんでダメなので詳しくは知らないけど。

 「じゃあ、また明日」

 「おう! 瀬良と幸せにな!」

 「はいはい」

 そう言えば5時半だ。5時半……5時半……。


 放送部には現在3人の部員がいる。1人目は紅一点で部長、2年生の川原先輩。2人目は少し真面目で俺と同じく黒いメガネをつけてる2年生の河本先輩。彼も2年生で、副部長だ。

 「失礼します……」

 「理人くん、久しぶり! 冬休みどうだった?」

 「結構楽しかったです」

 3人目は俺だ。1年生だからこの春入った新人。もう放送には慣れてきた頃だ。放送部の放課後の活動と言っても今の時期にあまりやることはない。誰が何日を担当するか、という表が配られるくらいで、顧問もあまり来ない。

 「失礼しますー」

 「河本先輩。お疲れ様です」

 「あ、お疲れ様! 亮に会うのもなんか久々だね」

 「前会ったの冬休み前だしなあ」

 いつも最低限の連絡事項の伝達が終わると結局1時間程度放送室で雑談をしながら発声練習をしたり朗読の練習をしたりして部活は終了。楽と言えば楽だが、そもそも放送部の主だった活動は放課後にある訳では無いので仕方ない。コンクールがある前なんかは少し忙しくなるが。

 「冬休み何してた?」

 川原先輩が話の口火を切る。すると河本先輩がそう言えば、と俺の方を凝視してきた。

 「……えっと、普通ですよ。初詣とかは行きましたけど」

 「なんかつまらないなぁ。理人くんが楽しかったって言ってたから聞いたのに。亮は?」

 「あ、弟がサンタからゲーム機貰ってたから一緒に遊んでたな」

 「ちょっと前発売したやつ? ……そう言えば弟くんはサンタのことどう思ってるのさ? 確かまだ小学生だよね?」

 川原先輩が少し意地悪に笑いながら話す。確かに俺が蛍から揺らぐことはまず無いけど、彼女のことを可愛いという人の気持ちが分かる瞬間はある。


 「それは言ったらダメなやつだな、今年から弟がプレゼントをサンタから貰えなくなる」

 「はは、なるほどね。でもサンタさんは居るかもよ?」

 「グリーンランドのやつですか?」

 記憶の端から昔読んだ本の内容を引っ張り出す。そう、確かサンタクロース協会みたいなのがあってそこには本当のサンタクロースがいるらしい。

 「そう! もしかしたらクリスマスイブには毎年トナカイに乗って日本にも……」

 「それはないな」

 そんな河本先輩の苦笑も流れていきあっという間に時間はすぎる。といっても、やはり今日は始業式の日なのでいつもと同じようなことをしても、全然時間があまりに余る。何だか時間の余裕からも、蛍とのLINE交換にも全能感を感じつつ部活も終わり、俺は学校を出た。

 学校の敷地に面する道路をテクテク歩いている時に横目にテニス部の打ち合いが見える。よく目を凝らすと奥の方に蛍がいた。

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