その7 野生のディナー

「……そう言うわけで、スラーミンはぼくの責任なんだ。本当にごめんなさい」


 しおしおとコノハは頭を下げる。

 君のせいじゃないよ、と僕は手をひらひら振った。

 元はと言えば、彼女の師匠のせいだしね。

 でも、それじゃ気が収まらない様子のコノハ。


「ぼくにできることがあったら、なんでもするよ!」


 本当に大丈夫なのに、ってネフと顔を見合わせて。


 ——あ、そうだ。


 それじゃあ、と僕は一つ、思いついたことを言ってみた。


「風つかみ、コノハの魔法で木から下ろせる?」


 彼女は木属性の魔女だって言っていたはず。そして、木の幹を動かせるようなことも。

 それなら、引っかかっている風つかみをなんとかできるんじゃないかな?


「そんなことなら簡単だよ! まかせてっ」


 案の定、できるみたいだ。どんっと胸を叩くコノハ。

 やった! ネフと二人でガッツポーズ。


「今日はもう暗いし、明日の朝にやるね。今日は泊まっていって! 夜ごはん、もう食べちゃった?」


 まだだけど……、とネフは答えながら、窓の外を見た。

 ちょうどオラングたちが火を起こしているところだ。

 こう見るとなんだか穏やかだけれど。

 ついさっき、殺されそうだったしな……。

 不安ではある。


「心配してる? 大丈夫だよ、ぼくのお客さまだから手荒なことはしないよ! 種族は違うけど、ぼくも彼らの仲間だからね。野蛮に見えるかもだけど、彼らは賢いから」


 コノハは本当に勘が鋭い。

 他に行くあてもないし、ご厄介になろうかな。

 ネフはどう思う?


「わかった。そうさせてもらいましょう」


 ……無意識に杖をさすりつつ、ネフは答えた。





 コノハの小屋を出ると、あちらこちらで焚き火がぱちぱち。

 そのうちの一つに案内されて、僕とネフは腰を下ろす。

 火力をがさごそ調節しているオラングは、僕たちをちらりと見てから、

 コノハに向かって何事か呟いた。

 舌打ちのような、独特の音でやりとりするコノハとオラング。

 たぶん二言三言交わしたんだろう、コノハは一つ頷いてこっちを向く。


「彼女はツェパタって名前なんだ。二人を歓迎する、だって!」


 ツェパタ? 違う、ツはもっと鋭く言うんだよ。

 コノハにレクチャーされつつ、僕とネフは発音練習。


「ツェ、パタ」


「そうそう!」 先にうまく言えたのはネフだった。


「ありがとう、ツェパタ」


 ネフが笑いかけると、ツェパタはにぃ、と笑った。


「オラングの料理って、わたし初めて食べるわ」


「僕も。作り方も初めて見るな」


 ツェパタはすでに仕込みを終えたみたいだけど、他のオラングたちの中にはちらほら、準備をしている様子も見受けられた。

 幅広の葉で肉や野菜を包み、土の中に埋める。

 そしてその上で焚き火をする。

 ツェパタが水をばしゃあ、とかけて火を消した。

 埋めてあった葉っぱを取り出して、ぱらっと開くと——。


「「おおー……!」」


 ふわりと立ち上がる、さわやかな香り。

 これ、包んでいた葉っぱの匂いかな?

 全然青臭くなくてびっくりする。

 中で蒸された食材にも匂いが移っているのだろう、白い湯気がとてもおいしそう。

 ナイフとスプーンが一緒になったような、木を削ったカトラリーを渡されて。


「──! おいしいっ!」


 思わず口に出ちゃうほど、そしてネフがおかわりの有無を聞いちゃうほど、ツェパタの料理は絶品だった。

 なんだか得意気なコノハ、自分の分まで食べさせようとしてくるツェパタ。

 あまりいい日ではなかったけれど、偶然出会った暖かさにほっとしながら、不思議な一日は終わりを迎えた。





(その8へつづく)

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