第13話 悠、女の子になる その1





「脳だけってどういうことですか!?」


 医療ポッドには、脳波を音声変換できる装置が備わっており、脳だけの悠の思考を、亜美に伝えることができる。それとは逆に脳に亜美が喋ったことも伝えてくれる。


 亜美は自分の不注意で悠をはねてしまった事を、正直に話して謝罪する。


「ホント、すみません! ホント、すみません!!」


 悠をそんな状態にしてしまった亜美には、ひたすら低姿勢で謝るしか無かった。


「でっ でも、安心してね! 今新しい体を培養しているから… 1から作っているから、2週間はかかるけど…… 」


 彼女の説明によると現在培養ポッドで、悠の元の体から採取した細胞を使って、新しい肉体を生成している最中との事であった。


「えーっと…… つまり2週間したら、元に戻るんですか?」

「そうよ!」


「よかったぁ~」


 悠はほっとした声を出す。その声を聞いた亜美も安堵のため息をつく。

 そして、その悠の反応から亜美は、とある取引を持ちかける。


「そこで… 取引というか… 提案があるんですけど……?」

「取引… ですか?」


 低姿勢のままの亜美が提案した取引とは…


「今生成している体を遺伝子操作で、君が望むように作るから、それで示談としてください!!」


「へぇ!?」


「まあ、驚くわよね。”いきなり自分の身体を作り変えていい代わりに、示談にしてくれ“なんて言われても…… 」


 突然の提案に驚く悠。その彼の反応に亜美は理解を示す。

 だが、悠は即答してくる。


「ボクの新しい身体を【女の子】にできますか!!?」

「……はい?」


 予想外の答えに亜美は目が点になる。


「本当に、女の子になりたいの?」


 彼女は改めて確認をする。


「はい!! お願いします!!!」


 悠の声色からは真剣さが伝わってくる。どうやら嘘ではないようだ。

 だが、亜美は再度確認する。性別を変える覚悟があるのかを。


「どうして、女の子になりたいの? 君が思っているほど女の子は楽じゃないし、大変なこともあるのよ?」


 すると悠は、こう答える。


「わかっています! それでもなりたいんです!」


 そして、智也とのことを正直に話し始めた。


「 ―というわけで、自分が男だからという理由で、昔から大好きだった智也にフラレてしまいました……。だから、女の子になればボクの気持ちを受け入れて貰えるかもしれないんです!」


 悠の話を聞き終えた亜美は少し考える。そして、厳しい推測を聞かせて、もう一度覚悟を確かめる。


「君が女の子になったとしても、彼が君を受け入れてくれるとは限らないわ。その時、君は女の子として彼無しで生きていくことになるけど、それでいいの?」


 しかし、悠の心は決まっていた。


「構いません! その時は女の子として、第二の人生を生きます。それに、男の子のままでは0%だけど、女の子なら0では無くなるのなら、ボクは女の子になります!」


 悠の決意を聞いた亜美は決断を下す。


「そう… 君がそこまで覚悟しているなら、もう何も言わないわ。今から培養中の君の細胞の遺伝子を操作して、性別を女の子に変えるわ」


 亜美はそう言うと、端末を操作して遺伝子操作を始める。


「これで、次に目が覚めた時から君は女の子よ。それまで、楽しみに眠りなさい」

「眠るんですか?」


「ええ。脳だけの状態で長期間いると、体のないストレスで精神の消耗が激しいの。だから、体が完成して脳を移植するまでは、人工的に睡眠状態で過ごすほうがいいのよ」


「わかりました……」


 悠が返事をすると、催眠装置か麻酔かそれか何かは解らないが、眠気が襲ってきて意識が一瞬で飛んでしまう。こうして、悠は培養ポッドの中で眠りについた。


 2週間後、悠の意識が戻ると彼女は培養ポッドから出され、ベッドに寝かされていた。


「ここは…… 」


 視界には白い天井が映っており、病院もしくは医療施設のようだ。

 胸に何か違和感を覚える。何かこう重さがあるものが胸の上に乗っているのだ。


 それが何か確認するために触ると、それは上に乗っているので無く柔らかい物が胸についているようだ。


 それが何か確認するために触ると柔らかい物が胸についていた。


(これおっぱいだ……)


 自分の胸を触っただけなのだが、目が覚めるまで男の子だった悠には刺激が強く、顔を真っ赤になってしまう。


(ボク…… 本当に女の子になったんだ…… )


 悠は自分が本当に女の子になった事を実感すると、嬉しさと恥ずかしさが入り混じった複雑な感情を抱く。


 悠がベッドから上半身を起こそうとするが、体が上手く動かず力も上手く入らない。

 恐らくこの新しい体恐らくこの新しい体に慣れていないからだろう。


(これが、新しい体の感覚なんだ……)


 自分の姿を確認したくなった悠は、鏡を探すとベッドの側の棚に手鏡が置いてあったので、それを取るためにベッドから上半身を起こそうとするが、体が上手く動かず力も上手く入らない。


 恐らくこの新しい体恐らくこの新しい体に慣れていないからだろう。


 まだ慣れない体に戸惑いながらも、なんとか起き上がることに成功した彼女は、手鏡を取り緊張しながら自分の姿を確認する。


 そこには、長い亜麻色の髪の中性的から、少女の顔になった自分の顔が映っていた。


「これが… 女の子になったボク……?」


 そこに写る少女の顔を見て、悠は言葉を失う。

 その姿は夢の中で自分が女の子だったらと、何度も想像していた姿であったからだ。

 悠はしばらく呆然としていたが、ようやく思考が追いつき歓喜の声を上げる。


「やったーーーーー!!!!!」


 女の子になれた喜びに、思わず声を上げる悠。

 すると、その声を聞いたのか不意に部屋の扉が開き誰かが入ってきた。


「キュウ~?」


 それは体高1メートルくらいのナースキャップを被った、2足歩行の白毛のウサギであった。


 もふもふウサギは、つぶらな瞳で悠を見ると「キュウ! キュウ!」と鳴いてから、2足歩行で悠に近づいてくる。


「えっ!? 何!? うさぎ…? 」


 悠が大きなウサギ? に困惑していると、扉を開けて白衣を着用した黒髪の女性が入ってきた。


 女性は20代中盤から後半ぐらいで、長い綺麗な黒髪を後ろで束ねており、白衣の下は巫女のような服を着用している。女性の見た目は、女優やモデルと言われても可笑しくない程の美人で、知的な雰囲気も漂っているが同時に少し冷たい印象を受ける。


「あら、目を覚ましたようね。おはよう」

「おはよう… ございます… 」


 突然現れた女性に対して、悠は反射的に挨拶を返す。


「体温正常、血圧正常、脈拍正常、心拍数正常」


 女性は手に持ったタブレットを操作して、悠のバイタルのチェックを行う。


(この人がボクをはねた人かな…?)


「あの、あなたは― 」


 悠が女性に名前を訪ねようとしたその時、彼女の言葉を遮るように扉が勢いよく開かれ亜美が飛び込んできた。


「君、大丈夫? 体は平気? 痛いところはない? おかしなところは?」


 亜美の慌てぶりに、悠は少し圧倒されてしまう。


「だ、大丈夫で― 」


 悠がそう答えようとすると、今度は知的美人がそれを遮って亜美を叱責する。


「静かにしなさい!! ここは病室ですよ!? 全くアナタはそんな事だから、今回のような不祥事を起こすのです! そもそもアナタは… 」


 女性の説教は続く。


「はうぅぅ… すみません…… 」


 その説教を受ける亜美は”しゅん”としており、その姿はいつものノリがよく騒がしい彼女からは想像できない、まるで借りてきた猫のようであった。


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