再会した幼馴染が何か色々と化わっていて事件です

土岡太郎

第1話 去りゆく幼馴染の告白




【平行世界】日本―


 <中田智也なかたともや>14歳、俺は今日…

 隣の家に住む幼馴染の<杉村悠すぎむらゆう>に、町が一望できる高台にある公園に呼び出されていた。


 悠は明日、親の都合で秋田県に引っ越すことになっていた。5年後には戻ってくるらしいが、14年間一緒にいた幼馴染と離れるのは寂しいものだ……。


 公園に到着すると、既に悠がベンチに座って待っており、俺は声を掛ける。


「悪い悠、待たせたか?」

「そんなに待ってないよ。それに暫く離れるこの町の風景を見ていたから…」

「そうだったのか」


 俺も隣に座り、二人で町並みを見渡す。

 夕日に染まった町並みはとても綺麗で、いつまでも眺めていられそうだなと思った。


「……」

「……」


 お互いに無言になり、時間だけが過ぎていく。このままでは埒が開かないので、俺から話を切り出した。


「そうか…… それで話ってなんだ?」


 俺の言葉を聞いた途端、悠の顔つきが変わった。

 そして、真剣な表情でサラサラの亜麻色の髪を靡かせながら、こちらを見つめてきた。


「ボク達は小さい頃からずっと一緒だったよね……。でも明日から住む場所が違うから、中々会えなくなると思う……。だから、ボクの気持ちを伝えようと思ってここに呼んだんだ……」


「気持ちを伝える?」


 一体どういうことだ? 俺にはさっぱり分からなかった。

 だが、次の瞬間、悠はとんでもない事を口にする。


「ボク…… 昔から智也の事が好きだったんだ! 付き合って欲しい!」

「……っ!? はぁああああっ!?」


 突然告白された俺は驚きの声を上げた。そして、思考停止に陥る。


(つつつつつ付き合うだとぉおおおっ!?)


 いや、確かに昔から仲良かったし、お互いの家に行ったこともある、何なら小学生低学年まで一緒に風呂にも入っていた……


 それにしてもいきなりすぎるだろう!! しかし、当の本人は真剣そのもので、顔を真っ赤にして答えを待つようにこちらを見ている。


 どうやら冗談ではないようだ。

 俺は深呼吸をして冷静になろうとした。そしてどうにか落ち着きを取り戻すと、改めて悠の顔を見る。


 中性的な整った顔立ちにスラッとした体型、成績優秀でスポーツ万能ときたらモテないはずがない。今までだって、異性から何回も告白されている。


 しかし、俺にとって悠は友達であって恋愛対象ではなかった。

 何故なら、悠は一見女の子に見えるが、【男】だからである。つまり生えているのである!


 なので、俺の答えはもちろん―


「ノーだ。オマエとは付き合えん」


 腐女子さん達には悪いが、俺に男と付き合う趣味はないのだ。

 すると、悠はショックを受けたような表情を浮かべる。


「そっか…… やっぱりダメかぁ……。ごめんね… 変なこと言って……」

「ああ、すまんな…」


 俺たちの間に気まずい空気と沈黙が漂う。それを先に破ったのは悠の方だった。


「ねぇ智也」

「ん?」

「最後にキスしてもいいかな?」

「……いいわけあるか!!」

「ちぇーっ」


 残念そうな声を出す悠に俺は溜息をつく。


 悠は小さい頃は、その見た目からいじめっ子から”女男”と渾名され虐められていたが、その度に俺が追い払っていた。


 あの時の俺を見る悠の輝いた目は、憧れだと思っていたが今にして思えば、恋する目だったのかもしれない。


「男なんだから、もっと強くなろうぜ!」と言って、近くの格闘技道場に一緒に通いもしたが、今年になって悠は辞めてしまった。その大人しい性格と細い体格から、格闘技の腕は俺より下だった。


 その理由は、悠が学年で一番の美少女と噂される<青井翠あおいみどり>に告白され、振られたからだと思っていたが―!? 俺はそこである考えが頭をよぎり言葉にする。


「悠、オマエ! 青井さんにフラれたから、女はもう嫌だ! 男のほうが良い! とか思って俺に告白したんじゃないだろうな!?」


 俺の言葉を聞いた悠は目を丸くした後、表情が陰り言いにくそうに話し始める。


「違うよ… そんな理由で告白なんてしないよ…。でも、青井さんと別れた理由と無関係では無いかな……」


「どういうことだ?」


 意味深な発言に疑問を持つ俺。すると、悠は語りだす。


「ボクだって同性の事を― ううん、智也の事を好きになる事はおかしい… 普通じゃないと考えたよ…。青井さんの告白を受け入れて付き合ったのは、彼女のような可愛い女の子と付き合えば、女の子の事を好きになれるんじゃないかと思ったからなんだ… 」


「でも、ならなかったと?」


 俺の言葉を聞いた悠は、頭を縦に振ると言葉を続ける。


「うん…。キスまでしてみたけど…。でも、ダメだった……。キスした時に感じたのはドキドキではなくて、“罪悪感”と“やっぱり違う“って気持ちだった……」


「オマエ! 青井さんとキスしたのか!? キスしたのか!? くっっそ! ふざけんなよっ!!」


 思わず突っ込む俺。中学生でしかも学年一の美少女とキスなんて、裏山案件すぎるだろう!

 これが幼馴染で親友のコイツでなければ、「リア充、死ね!!」「リア充、爆発しろ!!」と吐き捨てたことであろう。

 

 嫉妬の目で俺が目の前にいるリア充を見ていると、その視線に気付いた悠は顔を赤くしながら、上目遣いで斜め上の事を尋ねてくる。


「もしかして… ボクが智也以外の人とキスしたことに嫉妬してる?」

「違うわ、ボケ!! 普通に女の子とキスしたことに嫉妬してんだよ!!」


(あと、その上目遣い止めろ! ドキドキするから!!)

「あはは、そうだよね……」


 俺の返答を聞いて苦笑している悠。また真面目な顔に戻ると話を続けた。

 俺も気持ちを切り替えて話を聞く。


「その後に、正直に青井さんに話して別れることにしたんだ」

「あれ? オマエが振られたって聞いたけど?」


「それは、男の子ほうが好きだからって理由でフラれたら、”女の子としての自分の立場がないから、私から振ったことにして!”と言われて、ボクがフラれた事になったんだよ」


 その理由を聞いた俺はこう思った。


(いや、別に悠からフッたとしても、理由は普通に性格の不一致で良くね?)


 と……


「ボクの身勝手な行動で、青井さんを傷つけてしまったことが申し訳なくて……。でも、やっぱり、悪いことは出来ないね…。こうして、因果応報で智也にフラレちゃったし……」


「……」


 涙目の悠に何を言えばいいのか解らずに、俺は沈黙するしか無かった。

 だが、口には出せないがこの事だけは解っている。


(例え青井さんに悪い事をしていなくても、俺はイエスとは言わなかったぞ)


 こうして、俺達は夕焼けの中、無言で家路につく。

 次の日、悠は隣の家から― この町から居なくなった。


 結局前日の事を引きずった俺達は、少しぎこちない感じで別れてしまった。

 俺は5年後に会う時は、笑顔で会える事を願う。

 だが、その再会がとんでもない事態を引き起こす事を、この時の俺には知る由もなかった。


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