それでも世界は廻る 〜異世界転生したOLは、気ままに生きる〜

カイン・フォーター

第1話プロローグ

汗、糞尿、血。

悪臭漂う簡易闘技場に、二人の子供の姿があった。

一人は短剣を両手で構え、もう一人は短刀を両手に持っている。


「構え!!」


外野から、指示が飛んでくる。

それを聞いた二人は、戦闘体勢に入る。

しかし、どちらが勝つかは、今見に来たばかりの者でもわかるほど、差があった。

短剣を構える子供は男の子。

体を震わせて、無駄に力を入れている。

その姿は、飢えた狼を前に、動けなくなった兎のように怯えていた。

対して、短刀を両手に持っている子供は女の子。

一切震えておらず、構えの合図があったにも関わらず、まるで構えていない。

せいぜい、短刀を何時でも動かせるようにしているくらいだ。

その姿からは余裕が感じられ、強者としての覇気を漂わせていた。


「始めた!!」


死合開始の合図が飛ぶ。

先に動いたのは、男の子の方だった。


「うわあああああああああ!!!!」


弱々しいながらも、必死に雄叫びを上げて、短剣を突き出して走ってくる。

ただ真っ直ぐ。がむしゃらに。

自分が生き残るには、それしか方法がないと言わんばかりに、女の子に向かって走る。


「…」


一方女の子はというと、必死の形相で走ってくる男の子をつまらなそうに眺めていた。

がむしゃらに走っているように見えて、このまま何もしなければ、確実に心臓に突き刺さるであろう位置に短剣がある。

それなのに動かない。

恐怖で動けないのではない、動く必要がないのだ。

何故なら、この女の子は強者だから。


「やあああああああああああ!!!!」


女の子の直ぐ側まで来た男の子は、短剣を前に突き出して心臓を狙う。

男の子の短剣が女の子の心臓に迫り…空を切る。


「えっ?…がはっ!?」


わけがわからず困惑していると、急に胸のあたりに強烈な痛みを感じた。

それと同時に吐き気も。


「がひゅっ!?ゲホッゲホッ!!」


男の子が吐いたものは、赤黒い何か…そう、血だった。

吐血した事で、自分の身に何が起こったか、男の子はそれを理解した。

自分は、あの女の子に刺されたのだと。

勝敗は、既に決したのだと。

自分はもうすぐ死ぬのだと。

その理解が正しかった事を裏付けるかのように、男の子の意識は永遠に闇に落ちた。


「下がれ563番」


再び響いた指示に、勝利した女の子が台から降りる。

そして、馴れた動きで通路を進む。

通路の先には待機部屋があり、この女の子とあまり変わらない年代の子供達が集められていた。


「次、639番と241番」


部屋に居た大人が指示を出すと、二人の男の子が通路を歩いていった。

今度は、あの二人の番なのだろう。

しかし、ここはそういう施設であり、数多くの子供達を殺し合わせて、優秀な人材を見つける。

言うなれば、人間の選別場だ。


「お腹すいた…」


女の子の隣で、痩せ細った別の女の子が呟く。

痩せこけて隙間の開いた服の間から、奇妙な紋章が見える。

『奴隷紋』と呼ばれるものだ。

これを付けられた者は、奴隷契約によって紋章が消えるまでずっと奴隷となる。

ここにいる子供達全員に、この奴隷紋が付けられている。

もちろん、この女の子も例外ではない。

しかし、同じ奴隷でも扱いには差があるようだ。

方や、餓死寸前の痩せ細った女の子。

方や、しっかりとした体つきの圧倒的に強い女の子。

おそらく、食べているものが違うのだろう。

強ければ良いものを、弱ければ粗悪なものを。

こうやって、『奴隷』という最下層の人間にも、格差が生まれる。

それが、人間の生み出した格差であり、世界の仕組みなのだ。

しかし、




『それでも世界は廻る』

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