第六章

第25話 旅立ち

 宿屋をチェックアウトした俺たちは町の門を抜けて、いつもの草原に向かった。


 快晴の空だ。その空に浮かび上がるのは、宿屋のくそババアが俺たちに向けて親指をかかげながら、お茶目にウィンクしている姿だった。俺達の旅先を祝福しているのだろう。


 ばばあよ、あの世で俺たちのことを見守っていてくれ。


「何いってんだい、あんた、殺すよ?」


⭐︎⭐︎


 草原をしばらく歩くと看板が見えてきた。なになに、アルフィーの村とやらは、ここから、さらに北にあるようだ。


「ここからは、魔物が襲ってくるかもしれないからな。でも大丈夫だ。俺が守ってやるから心配するな」


「おにぃさん」

「えへへ、竜也さん」


 アロハシャツにサングラスにサンダル装備で武器なしの俺と学生服のエスカーナ、白のカンフードレスを着ているミリカちゃん、今俺達の冒険の旅が始まった。


 看板が指示した道を歩いていくと森が見えてきた。本当にこの道であっているのか? 


 こんな森の奥にアルフィの村なんて本当にあるのか。


 くそ、だんだんむかついてきたぞ。


「竜也さんダークな気が漏れていますよ? 少し抑えましょうよ」


「そうだったな」


 今は聖剣を装備していないからな。自分でダークナイトの闘気と勇者の聖気のバランスを保たないとな。周りの人間が瘴気で狂いかねない、今はミリカちゃんもいる事だしな。


 少し闘気が漏れたが、ミリカちゃんは、大丈夫なようだな。ところで今の俺の悪徳値はどれぐらいなんだ。


「エスカーナ、俺の悪徳値は今どれぐらいなんだ?」

「4000ですね」


 なんか増えてるぞ、俺はナニかやったのか。この半年間はロリパーティのやつらと規則正しい生活とやらをしていたはずだが、逆に悪徳値が減っていてもおかしくないだろう。


「地球での迷惑行為も悪徳値に加算されますから、その影響があるかもしれませんね、初めは小さなものですが、大きくなるまでの積み重ねが大事ですから、今度大規模なイベントがありますから、もっとがんばりますね、えへへ」


 地球だと? 今この世界にいる俺がどうやって影響をあたえるんだ。それに全くもって魔物が出ないんだが、ここは一度サングラスで調べてみるか、うん? 奥の道に行くほど、血生臭くなってくる。よく見ると、地面がところどころ、真っ赤になっている。これは血なのか。


 血の後を追っていくと山のように積まれた人間の死体がそこにあった。そこに一匹の魔物が陣取っていた。歓喜の雄叫びを上げているようだ。男の首をサッカボールにしては遊んでいるヤンチャな奴だった。


 そのときヤンチャ坊主、魔物のゴブオ君と目が合った。


 こいつは雑魚モンスターのゴブリンだ。身体全体が緑色で頭に帽子をかぶった、ちっこい魔物だ。こんな雑魚に殺されるとか、とれだけこいつら、雑魚なんだ。村人Aかもしれんな。なんだ、ゴブオのやつ、帽子じゃなくて王冠なんて被りやがって魔物のくせに生意気なやつだな。よし、ぶんどってやろう。


 すると、ゴブオを見たミリカちゃんが俺のアロハシャツの袖をギュッと掴んできた。ゴブオを見て真っ青になって、すごく怯えているようだ。片やエスカーナも「きゃーこわいです、竜也さん、守って」と抱きついてきた。白々しいが、ぽよんなお胸がとっても気持ちいいからこれはこれでいいかもしれん。


 エスカーナはともかくだ。LV1のゴブオごときでこんなに怯えるなんて、実に可愛らしくて新鮮だな。か弱い女の子を守るナイトになるのは男の浪漫だからな。よしよし、俺が雑魚のゴブオから守ってやるからな。


「よぉよぉ、ゴブオさんよ。いいもの持ってるじゃないか。さっさとそれをよこしな。お前には不釣り合いだ、さぁ、よこすんだ」


「!!」


 俺はゴブオに王冠をよこすように指をクイクイして挑発してやった。だが、ゴブオは襲いかかって来るどころか、ブルブルと身体を震わせるだけだった。


「おい、聞いてるのか、それをよこせと言ってるだろ」


 俺の背後からダークな闘気が溢れてくる。


「お、おにぃさん、だめです、これは誘い込む罠だったんです、わたしの、せいで、このままではわたしたち、ころされちゃいます。挑発しては、あの魔物は」


「えへへ、竜也さんの匂い、くんかくんか」


「ミリカちゃん」


 ミリカちゃんを見る俺の瞳が慈愛に満ちた瞳になった。病んでる聖剣、くそばばぁ、子猫ちゃん、メスガキエルフを頭に思い浮かべた。


 ああ、ミリカちゃん、なんて可愛らしいんだ。ころされちゃうだなんて、ほんと怖がりさんだな。ゴブオみたいな雑魚に怯えて涙まで流すなんて。大丈夫だ。おにぃさんが、こらしめてあげるからな。


「今からおにぃさんが、こいつから巻き上げ、いや、こらしめてあげるからな」


 俺は指をポキポキならしてゴブオに近づいていく。


「お、おにぃさん」

「竜也さん、そろそろお昼みたいですね」


「そうだな。こいつを始末してから昼にするか」


 さらに俺はゴブオに近づいていく。


 ゴブオは手に持っていた男の首をポトリと落とし、俺の事をまるで恐怖の大魔王でも見るかのように怯えだした。そして、


「ギャアアアア!!」


 いつも通り逃げやがった。またか、またなのか、どうして、魔物はいつも逃げやがるんだ。


「まて、こらあああ、王冠置いてけや」


 ボコ、バキ、ボカと、俺は捕まえたゴブオを馬乗りにして殴り殺した。もちろん、王冠はぶんどった。


 

 

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