第4話 妄想男が私をレイプしようとしたんです。
「くぅまぁ!?」
「おい、熊がしゃべったぞ」
俺の目の前に現れたのは2mを超す大型の熊だった。俺の世界の熊は、こんなふざけた鳴き声はしない。こっちの世界独特の熊の鳴き声かもしれない。
『あれは、ただの熊さんじゃないです。ペロペロ熊さんです』
「ぺろぺろくま?」
『ペロペロ熊さんは、ですね』
「くぅまぁ!!」
熊は容赦なく、俺に攻撃をしかけてきた。鋭い爪だ。当たれば、たまったものじゃない。
『もう、話の途中で、酷いです』
「こ、こえぇ」
「くぅまぁ! くぅまぁ! くぅまぁあああ!!」
聖剣エスカーナは俺の身体を操り、熊の爪による攻撃を、サイドステップでかわしていく。最後の一撃をかわした俺は、距離をとるように、後方へジャンプした。
「おい、関節がものすごく痛いぞ」
『うーん、いつもは大人しいはずなんですけど』
そう言いながら、聖剣エスカーナは俺の身体を操り熊の爪を避けていく。
なんだ? 違和感がある。熊の動きをよく見ると、俺ではなく、聖剣エスカーナを攻撃、いや、奪い取ろうとしているのではないか?
「おい、待ってくれ、少し俺に試させてくれ」
『いいですけど、危なくなったら、無理やりにでも動かしますからね』
俺は身体の主導権を握り、聖剣エスカ―ナを右に動かした。すると、熊はじーっと右を見る。さらに左に動かすと、左に顔を動かした。そう、熊はあろうことか、俺に見向きもしない。じっと、聖剣エスカーナを見ている。早い話、こいつを遠くに投げて、逃げればよくないか?
『えへへ~、捨てちゃうんだ? なら、もう、あれしかないよね? 竜也さん、一緒に、死んでください!!』
スパッ!! っと俺の首が聖剣エスカーナにはねられた。
投げようとした瞬間、俺は、きっと、こいつに殺されるだろう。
って、
「ちょ、からだを、急に、あやつる、な。関節が、痛い、って」
聖剣エスカーナが、俺の身体をあやつり、また、熊の攻撃を避けていく。
『ほんと、しつこいですね。もう、ヤッちゃいましょう』
いやいや、熊と戦えというのか?
「無理、無理、熊とかありえないだろう!!」
身体の自由が戻った、その一瞬をついて、俺は一目散に反転、熊から逃げることにした。
『えっ~? 逃げちゃうんですか?』
バカが、人間が、熊にかなうはずないだろう。
俺は、全速力で走った。こんなに走ったのは体育祭のとき以来だ。
『竜也さんの体操服姿を見てみたいなぁ。はぁ、はぁ、竜也さんの滴る汗を舐めたいです。ぺろぺろさせてほしいよぉ』
「なに、冗談を言っているんだ。俺は必死なんだぞ」
『私は本気なんです!! 出来れば竜也さんのおっきなアレをぺろぺろして、白いミルクをごっくんしたいです。でも今は我慢しようと思います』
何を言ってるんだ。とりあえず無視だ。
「まだ、追いかけてきているのか」
この熊、足が物凄く遅くないか。俺って、こんなに速く、走れたっけ? なんか、余裕だな。
☆☆☆
「……ふぅ~、なんとか熊から逃げ切れたようだ」
ここは確か聖域のはずだ。メガネで見た赤い点滅の数からすると数十匹はいる。なぜ、敵がこんなにも聖域に入り込んでいるんだ。
俺は聖剣エスカーナに尋ねた。
「おい、聞いてもいいか?」
『はい、なんですか』
「ここは、聖なる森と言ったよな――なぜ、魔物が入り込んでいるんだ?」
『うーん、私がいなくなると同時に聖なる結界が消えてしまったようです。竜也さんを探してる間に魔物が入り込んだのかもしれません。わたし、森のことなんて、すっかり頭になかったんです。えへへ。でも仕方がないですよね。私には、この世界を守ることよりも大切なことがあったんです。もちろん、未来の旦那様である竜也さんを探すことですよ。やはり
ああ、良く分かった。全ての元凶はこいつのようだ。相変わらず、早口で何を言ってるのか、さっぱり、分からんが。それにしても斬られた勇者が可哀想だな。言ってることが本当なら俺が試練に行かなくてもいいんじゃないか。今でも代われるなら代わりたい。
「いくらなんでも斬ることはないだろう」
『そんなのダメです。いつでも綺麗な私を、竜也さんに見て欲しいんです。それなのに知らない男が私を汚そうとしたんです、私の体を汚していいのは、竜也さんだけなのに、竜也さんの白いミルクで、穴という穴に注がれたら……ああっ……もう……死んでもいいかも……アソコがきゅんきゅんしちゃうよぉ……もう……だめっ!!』
また、頭のネジが、イったのか。困ったやつだな。今からでも勇者と交代することはできないだろうか。勇者のことを聞いてみるか。
俺はまた、聖剣エスカーナに尋ねることにした。
「おい、勇者はどこだ?」
『妄想男のことですか? 死体は腐ると大変ですから、私が祀られていた台座近くにちょうどいい穴が空いていたのでそこに埋めたんです。今では、綺麗なお花がいっぱい咲いてますよ。そうですね。今度一緒に見に行きませんか。竜也さんとお花見デート、すっごく楽しみですね。私は、これでも包丁を使った料理が得意なんです。おいしい料理をご馳走しますね。デザートは、もちろん……わ・た・し♪ 生クリームも用意しないといけませんね。私の体を竜也さんがぺろぺろして――』
さっきから何を悶えているんだ? そんなことよりも、聞いてはいけないことを聞いてしまった。まじなのか……本当なのか? この世界の勇者を殺して死体遺棄したのか。聖剣が、そんなことをしても、許されるのか? 仮にも世界を救う勇者を触られたくないからって理由だけで、普通、殺すか。なんて危ないやつなんだ。
俺は、あまりの恐ろしさにエスカーナを持つ手が震えあがった。
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