第一章

第1話 私の運命の人なのですね

 満月の夜。


 白い羽をもつ天使の少女が街から少し離れた丘へと降り立った。


 ……この地上では、頼れる人が誰もいない。それでも探さないといけない。私の運命の人を……


 彼女は首に下げていたペンダントをすがる様にぎゅっと握りしめた。すると、ペンダントが淡いグリーンの光を――放ちはじめた。


 このペンダントは、愛を司る天使、愛天使だった彼女の母が、「運命の人に出会えますように」と、まじないがかけられたものだった。


 そして、彼女は笑顔で呟く。

 

「この街にいるのですね。私の運命の人が……」


☆☆☆


 おまえは、運命というやつを信じられるか?


 俺は商店街のおばちゃんから、もらった抽選券を使い、ガラガラを回し始めた。すると、からん、ころんっと、黒いハズレの玉が、「えへへ」いや、一瞬、消えた。目の錯覚だろうか。もう一度、よく見みると、転がっていたのは、薄いグリーンの玉だった。少女は、俺に向かって嬉しそうに微笑んだ。そして、彼女はベルをカランカランと大きく鳴らした。

 

「当選おめでとうございます! 異世界旅行の旅が当たりました。今からミストリア大陸にご招待しますね。えへへ」


 はぁ、異世界旅行?


 彼女は、何かの呪文をつむいでいるように見えた。彼女の目と目が合ったとき、赤い糸のようなものが俺と彼女の小指にまとわりついた。


『やはり、あなたが私の運命の人なのですね』


 彼女の心の声のようなものが聞こえた。俺は困惑しながら、彼女を見つめる。その優しい微笑みに俺は、心を奪われそうになった。なんて美しい微笑みなんだ。彼女が呪文を唱え終えたとき、激しい光が放たれだした。


 くっ、まぶしい。


 俺の身体が光に包まれた――


 そこで俺の意識は完全に途切れたのだった。


★★★


 話は戻るが学園での授業も午前中で終わり、俺は生徒会室にいる。


 今日はどういうわけか、家の前にカラスが大量に集まっていた。しかも、黒猫と一緒に仲良くだ。


 不吉な予感がする。


 俺の名前は、二階堂竜也。メガネがトレードマークの秀才で美形、黒髪を短髪にそろえて、制服もビシッときめている典型的な優等生だ。そして、生徒会長をしている。俺は、生徒たちの模範とならければならない。だからこそだ、俺は何事にもパーフェクトでなければならない。遊びにかまけている暇など俺にはないのだ。いや、友達がいないとかじゃないんだぞ? それに、もうすぐ学園祭が近い。そのせいもあってか、生徒会は今日も大忙しだ。だが、俺がこの学園にいる限り、素晴らしい学園祭が出来上がることだろう。


『また、会長があっちの世界にトリップしているぞ』


『あれが無ければいいのにね』


『そうよね。本当に残念なイケメンだわ』


『うん、うん』


 何かボソボソと話しているようだ。会議中に私語とは、けしからん奴らだ。気合が足りんぞ!!


「お前ら、どうかしたのか?」


「「気にしないでください!!」」


 全員そろって隠し事でもしてるのか? 俺だけ仲間はずれみたいじゃないか。悲しくなんてないからな。ふん!!


 各クラスの要望書を見直すと、必要な機材が色々と足らないようだ。商店街のおばちゃん連中に協力してもらうほかないだろうな。こいつらだけでは、きっとダメだろう。頼りにならんやつらだ。仕方がない。俺が行こう。


「俺はいつもの商店街へ行ってくる。あとは任せたぞ」


「了解っす。会長」


 俺は、必要な機材の貸出しなどを交渉をするため、商店街へと向かった。商店街のおばちゃん連中は、俺の知り合いみたいなものだ。


 ここだな。目的の店にたどり着いたようだ。俺は店へと入った。


 俺には苦手なおばちゃんがいる。今、話しているこの人だ。

 

「本当に竜也くんは、お口が上手よね」


「いえいえ、全て本当のことを言ってますから」


「もう、竜也くんったら!!」


「ぐはっ!!」


 背中を思いっきり叩かれた。俺のメガネが飛んでいきそうなほどに、少しは、手加減してほしいのだが。思いのほか痛かったぞ。


「そうそう、これをあげるから、していきなよ」


 おばちゃんから福引券をもらった。


 どうやら俺は罪作りな男のようだ。どうしてか俺には彼女がいない。いや、できない。女運がこれっぽっちもないのだ。俺ほどの男がなぜ、もてないのか分からん。なにかの【呪い】でもかかっているのだろうか。


 学園に戻る途中、少女の呟く声が聞こえた。


「まだ、見つからない……どこにいるんだろう」


 声のする方に振り向くと、絹のような光沢をもつ長い銀髪に、赤いルビーのような瞳、そして、白のワンピースをきた美しい少女がそこにいた。俺は少女の場違いな雰囲気に思わず足を止めてしまう。どうやら、抽選会場の受付嬢をしているようだ。ここに福引券がある。ついでにしていくか。


「すまないが、ここに3回分ある。引かせてもらってもいいか?」


「はい、どうぞ、あれ、ペンダントが、光ってる、まさか、あなたが?」


 そうだ、ガラガラをしたところまでは俺は覚えている。

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