ミルクティー大騒動~新たなるミルクティーを求めて三千里~

期間限定とか新発売とか数量限定ってワードに弱い人って、結構いるよね(私です)

 今日もこの街は平和だ。特に大きなことは、起きてないように見える。

 ニュースとか一切見ないから分かんないけど、もしかしたら何かあったかもしれない。



 でもここじゃなくても、悲しいことに毎日、何か起きているのだろう。

 その件に関しては仕方が無いと思う。少なくとも、現段階では。



 ただ少しずつ、焦らずに自分のペースでいい。

 みんなが自分のことを好きになって、本当に好きなことをし始めたら。

 どんどんと、この日本は、世界は変わり始めると思う。

 だからこそ私はコツコツと、活動していってるのだ。



 まぁそんな偉そうなことを言いながら、今日はただの買い物。

 今日は特に何も起きない限り、一切、活動する気はない。



 活動と言っても、そんなに大したことではない。

 何かトラブルが起きていたら、解決をしてお金を頂けるなら頂く、頂けないなら潔く撤退。



 世間一般で言う慈善事業でもなければ、悪徳事業でもない。その間って感じ。

 そもそも、誰も雇ってないし、雇われてもない。ただ一人でやってる。



 フリーランス、ってやつ。目指せ、個人事業主!

 そろそろ誰かしら、助手みたいな人は欲しいな~、って思ってはいるけどね。



 この街に来てまだ二か月ほど。とりあえず一言で言うなら、The都会。

 その一言で済んでしまう。



 そしてこの街、この街と言っているけど、勿論きちんと名前がある。

 『輝愛市≪きあいし≫』これがこの街の名前、東京都だ。

 この街に来ようと思ったのには、理由がある。



 どうやらこの世界には、たくさんのスーパーヒーローがいるらしい。

 あまり世間にバレないように、活躍しているとのこと。



 ネットの色んなサイトでヒットした。どうやら、何個かヒーローだけの会社があるとのこと。

 会社の名前はどれも、見つからなかったけど。



 そして日本には最低でも県に一人の、スーパーヒーローがいるとも言われている。

 ヒーローの名前は同じく、全く出てはこなかった。



 ただどんな見た目や能力を使用しているか、という情報は、少しだけ載っていた。

 東京のどこの街にも存在していた。でも、この東京の輝愛市にはいなかった。



 正確には、一人いたらしい。でも行方不明になってしまった、と書いてあった。

 その情報が真実なのかは分からない。けど、一体どこへ行ったのやら。



 怖くなって逃げてしまったのだろうか。

 それなら私が行って代わりになればいいじゃん、と思いここに来たのだ。



 この町の広さは私の地元の姫路市がすっぽり入るくらい。

 やっぱり東京ってだけあって、町の雰囲気は都会だ。



 話は戻して今日の本題、新発売のミルクティーを手に入れる、というミッション。

 しかし、既に私はやらかしてしまっている。何をやらかしたのかというと。

 家を出る時間が遅かったのだ。



 今日、新発売とホームページに記されてあった。

 それを一か月前に見つけて、昨日まではきちんと、覚えていたともいうのに。

 何故今日に限って、忘れてしまうのか。時刻は午前10時を少し過ぎた頃。



 でもそんなに焦ることはない。一店舗になくても、次の店にはあるはずだ。

 絶対に、すぐ手に入るから大丈夫。そう言い聞かせる。

 若干不安な気持ちがあったけど、押し殺すように。




 自宅から、一番近いコンビニに着いた。ここにあれば一番、嬉しいし、有難いのだけども。

 果たしてきちんと、あるだろうか。いや、どうかあってくれ。



 私は一店舗目で手に入れ、そして近くのデパートに行き、それに合うようなお菓子を探すのだ。

 それが理想の、スケジュール。



 心臓の鼓動が、やけに大きく聞こえる。大丈夫、大丈夫、絶対にある。

 期間限定とか数量限定ではないのだから。売り切れるなんて、滅多にない……はず。



 コンビニに入って、真っ先に飲み物売り場の所へ行く。

 それ以外の場所に用はない。求めるものは、ただ一つ。

 新発売のミルクティーのみ。



 少しずつリーチインショーケースに、近付いてゆく。

 雑誌コーナーの傍を通り、左に曲がると、目的地にたどり着く。

 そして新発売のミルクティーが、お迎えしてくれるのだ。



 リーチインショーケースが見えた。

 と同時に、不自然に何もない一つの空間があった。明らかに何か、飲み物があったと思われる。

 嫌な予感がした。だいたい想像はできる。でも理解したくなかった。



 新発売というシールが貼られてあるのに、何もなかった。

 商品名の札があるのに、そこには何も置かれていなかった。



 「……はぁ?」

 つい声に出してしまう。一本すらない。すっからかんだ。



「あっ、もしかして新発売のミルクティーをお探しですか」

 後ろから店員だと思わしき人物の、声が聞こえた。



 反射的に後ろを振り向く。と、そこには名札をつけたエプロンを着ている女性がいた。

 多分、服装を見るからにして、店員だろう。

「そうなんです。もしかして売り切れちゃいましたか」



「おっしゃる通りで、無事に売り切れになってしまいました。私達店員も驚いています。どうやらとあるインフルエンサーの方が、おすすめだって言っていたのが原因みたいです」



「……そうなんですかぁ。へぇ……」

 危ない危ない。大きな声ではぁ?! 、と言ってしまうところだった。



 女性はポケットからスマホを取り出し、何かを調べていた。

「ちょっと待って下さいね。SNSで宣伝していましてね。どうやら企業様からの案件で、発売日より前に頂いていたみたいですよ」



 優雅なひと時様から直々の案件だと。何だそいつは。超有名人じゃないか。

 私も、発売日前に頂いて飲んでみたい。



「あっ、この方です。えりぷーさんです」

 スマホには如何にも平成にいそうな、濃いギャルメイクをした女性が映っていた。

 この令和にあまり見かけない、ガッチガチのものをしている。



 金髪のツインテールに、淡い灰色のカラコン。

 服装はピンクのゆるふわ系の、ルームウェア。自宅で撮っているからだろう。

 そしてその手には、私が探して求めているものを持っていた。



『皆さん、こんばんは! えりぷーだよっ。今日はね、明日新発売の優雅なひと時さんの、新発売のミルクティーを頂いたよ! えりぷー、優雅なひと時様の紅茶、むっちゃ好きだからお話聞いた時にね。嬉しくて跳びあがっちゃった!』



 待て待て待て、思ったより想像以上に長いな。お前の気持ちなんぞ、私は興味ない。

 でもこの人のファンはこういう情報も、嬉しく感じるのだろうなぁ。



 ファンという生き物はそういうものだ。

 軽く深呼吸をして、中断したところから目で追い始めた。



 『早速飲んでみたんだけど、いつものミルクティーと、ぜんっぜん違うの! なんていうのかな~。言葉にするのはえりぷー、バカだからしにくいのだけど。上品な甘さに仕上がってて、ミルク感が更に強くなった感じ! でも甘さはいつもと一緒で、みんなが大好きなあの甘さだよっ。えりぷーはいつものよりも、こっちの方が好きかもっ。明日全国のコンビニやスーパーなどに、並ぶみたいだからみんな買ってね! じゃあえりぷーはお肌の為に、もう寝ようと思うよ。みんなも夜更かしは、程ほどにねっ♪えりぷみ~』



 全てがあざと可愛いぞ。そして腹正しい文章。だけどきちんとレビューは、している。

 まだSNSというものをLINE以外手を出していないせいか、こういう人物はとても疎い。

 これを機に他のSNSをしてみるか。



 いやその前に、つまりこのえりぷーとやらが宣伝したから、こんな状況になっていると。

 レビューの内容がそれなりに正確だし、アフタヌーンティー様好きみたいだから、それはいいけど。



 これ……私、今日中に手に入ることができるの?

 時計は10時22分を指していた。まだ一日は始まったばかりだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る