麺類オンリーやday

 レストランの中はそこまで、人が多くなかった。

 同じような考えの人が、今日はもういいやってなって帰ったのかな、分かんないけど。

 ほんとはたくさん店があるはずなのに、ほとんどシャッターが下ろされていた。

 うどんやラーメンやそばを扱っているだけが、数店開いていた。


 ここのレストランは専門店ばかりで、ラーメン店ならほんとにラーメンしかない。

 つまりその道のプロが極めたものだから、味はとても美味しいのだ。

 何なら店の中には有名なチェーン店もある。バリエーションが豊富なのだ。

 だからこそ、ここで食べようと思ったのに、今日に限って何でだ。

 やっと食べたいものが明確に分かったとも、言うのに。

 スタッフの目の前で、大げさに溜め息をついてやりたい。

 何か下らないことでもいいから、軽く仕返しをしてやりたい。

 ただ腹の虫は何か食べ物を欲している。仕返しなんて大人げないしやめておこう。

 彼が近くにいることだし。


 ということで、とりあえず何かしら食べることに。

 空いている席を適当に見つけて座る。食べ物は券売機で買うようだ。

 そしてその売られている店に食券を渡して、番号札を受け取り、番号が呼ばれるまで席で待っておくという手順だ。スタッフの方がそう教えてくれた。

 「麺類か……となるとかな~り限られてくるよね」

 「結は……麺類以外が食べたかったからここに来たんだろ」

 「そーだよぉぉぉぉ」

 彼の前なんて気にせず机に顔を伏せた。というか脱力しただけかも。

 「今日は昼ご飯、我慢するとか?」

 「そーれーはぁ……考えたけど朝昼なしは流石にきつい」

 「じゃあ何か食べるしかないな。麺類という限られた中で」

 「うぅ……」


 これは一種の罰ゲームではないだろうか。

 何か食べたいけど思いつかないから、とりあえず色んな食べ物がある場所に行ってみたら

 まさかの事前告知なしの麺類縛り。

 ドッキリを喰らった気分だ。とりあえず縛られた中から選ぶしかない。

 「大河君は何にするつもり?」

 「俺か? うーん……豚骨ラーメンと醤油ラーメンかな」

 「ラーメンかぁ~いいね」

 そもそもまだメニューすら見ていない。この現実を受け止めたくなくて。

 でも受け止めるしかないのだ。それ以外に道はない。

 仕方なくこの状況を受け入れ、メニュー一覧を見ることに。


 麺類という限られた中で少ないだろうなと思っていたけど、想像以上に多かった。

 うどんやパスタやラーメンやそばやそうめんしかないけど、その一つ一つがたくさんあった。

 最初に開いたページには、ラーメンがたくさん載ってある。

 そこから順番にうどん、そうめん、そば、パスタ。


 とりあえず今どんなものが食べたいか考えることに。

 あっさりとしかものが食べたい。いや、こってりとしたものも捨てがたい。

 その間のようなものは何か、ないだろうか。

 隅から隅までメニューを見る。自分の要望にぴったりなものがあるはずだ。

 例えなくても、それに近いものがきっとあるはず。


 一から全て目を凝らして見た。

 けどどうやら全体的にパスタが、私の要望に合いそうなものが何個かあった。

 ということでまたパスタのページに戻り、合いそうなものをめくって戻してと見比べていく。

 こうしている間に彼は食券を購入して、一通りの手順を済ませていた。

 自分の番号が呼ばれるのを待っている。

 しかも購入しに行く時に、先に買ってくるなとわざわざ言ってから買いに行った。

 別に言わなくても、勝手に買いに行って良かったのに。

 こういう配慮が他の野球部の人と違うなあと思う。


 「俺も、結の食べたそうな昼ご飯探すの手伝おうか?」

 その提案はとても有り難かった。メニュー決めに頭の中が混乱していた。

 もう適当に、天の神様で決めようかと思っていた矢先だった。

「お願いします! 大河様っ」

「俺は神様じゃないぞ。んで結はどんなものが食べたいんだ?」

「若干諦めかけてるんだけど~、あっさりとこってりの間」

少しの間、沈黙が生まれた。理由はなんとなくだけど分かる。

「ちょっと考えたんだけど……あっさりとこってりの間ってなくないか?」

「うん、多分きっとない」

 候補になった食べ物も全て、あっさりかこってりかどっちかに偏っていた。

 というかそもそも、あっさりとこってりの間はこの中にはないのだろう。

 時計を見ると席についてから、10分ほど経過していた。

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