選ばれし50人のラッキーヒューマンズ

 そうしているといつの間にか噴水広場に着いた。

 大きな広場の真ん中に噴水がある。そして周りに何個かベンチがあるという構造。

 そのベンチが入口から見えないくらい、噴水広場には数えきれない程のたくさんの人がいた。

 人だけじゃない。空を見上げるとたくさんの金魚が宙を泳いでいた。

 自由自在に自分たちのテリトリーを気持ちよさそうに泳いでいる。低飛行をしている金魚たちもいた。

 そしてとてもわいわいと賑やかな様子。

 まるでお祭りをしているみたい。しかも色んな屋台もある。本格的だ。


 近くの壁にはチラシが何枚も貼られていた。

 『ハロウィンのスペシャルゲスト! なんとシャノワール小村が透海町にやって来る!』

 こんなチラシ見たのは今日が初めてだった。

 意識していなかっただけで結構前から貼られていたのだろうか。

 とりあえず進もうと人混みの中に入ることにした。

 人混みの中は迷子になってしまいそうだし、方向感覚も麻痺しそうになる。


 「待ってこれシャノワール小村目当ての人? 人数多すぎじゃない?」

 「今さっき結ちゃんが見ていたチラシね~。実は7月くらいからあったの。だからこの町の人だけじゃなくて遠くから来ている人もいるはずだよ~」

 独り言に文香がそう答えた。なるほど、だからこんなにも人数が多いのか。


 よく見てみると噴水の少し離れた所に簡易的なステージが建てられていた。

 そのステージの上には黒いベールをかぶった女性がいた。

 多分、彼女がシャノワール小村なのだろう。

 歓声が凄い。女性の声が圧倒的に多かったけど男性の声も負けじと大きかった。

 どれだけ人気なんだこの人は。


 「皆さんこんにちは、今日は私の為に集まって下さりありがとうございます」

 女性は深々とお辞儀をした。と同時に拍手喝采が起きる。

 あまりにもうるさくて両手で耳を塞いだ。文香も拍手をしていた。

 「本当は皆様を無料で占いたいのですがこんなに沢山の人数は流石に出来ません。申し訳ないのですが私が抽選で50名選ばさせて頂きます」


 50名も占おうと言うのか。あまりにも数が多くて静かに驚いた。

 軽くは100人以上いやもっといる中で50人か。選ばれるだろうか。

 「ちなみに抽選に外れた方も無料ではないですが通常価格の半額で占わせて頂こうと思っております」


 全員を占う気だこの人は。話を聞いていてすぐに分かった。

 別に少しくらいお金がかかってもいい。

 ただあの人のことを知りたい。この心のもやを早く晴らしたいのだ。


 「それでは抽選していきます」

 そこからたくさんの人が選ばれていった。

 選ばれた人はみな喜び、喜びのあまりに泣きだす人もいた。

 みんな選ばれた人を拍手で祝福していた。便乗して拍手していた。


 残り5人。もうほぼ諦めていた。ここまで来て呼ばれてないならもう可能性はないだろう。

 まぁお金は思ったより高くないし別にいっかなんて考えていた。

 文香はずっと両手を重ねて目を瞑って祈っていた。


 「続きまして、残りの5名の方々を抽選していきます」

 どくんどくんと鼓動が聞こえてくる。

 「一番後ろのセーラー服を着た巻き髪ロングのお方」

 文香のことだった。文香は仮装をしたまま出てきていた。

 あたしはまだ着替えていなかったので出勤した時のままだ。

 「やっ……やったよ! 結ちゃんっ」

 余程、嬉しかったのだろう、文香は抱き付いてきた。

 「良かったね。文香っ」

 文香が選ばれたのなら選ばれることはないだろう。だいたいそういうものだ。

 そう言い聞かせながら、今考えてみると選ばれた文香が羨ましかったのかもしれない。


 そこから次々と選ばれていった。老人に主婦、女子中学生、大学生と。

 そして最後の一人になった。全く見知らぬ誰かが選ばれるのだろう。別にもう良かった。

 ただお金がかかるかかからないかの話だから。

 占いをしてくれないというわけではない。だからいいのだ。

 5000円くらい景気良く払ってやると少し強がっていた。


 「それでは最後の方を発表します」

 さっきまでは賑やかだったのが一気に静かになった。

 やはり最後の一人というものはどんなものであれドキドキするものだ。

 期待していないと言っても自分の心臓は正直だ。どくんどくんと音がいつもより大きく聞こえる。

 「先程お呼びになった一番後ろのセーラー服の女性の隣のお方」


 「えっ」

 自分の事だった。まさか呼ばれるなんて思ってもなかった。

 嬉しいというよりも最初、呼ばれた時は少しぼーっとしていた。

 数秒経ってから自分のことだと気付いた。

 「……あたしのこと?」

 つい自分の事を指した。

 「私の隣……つまり結ちゃんのことだよ!」

 はしゃいだ文香がまた抱き付く。

 こういうものは自分だけかもしれないけど、何故か後になって嬉しさが沸々と湧き出て来る。

 「やったああああああっ!」


 久しぶりにこんなにはしゃいだ気がする。

 小さい子供みたいにぴょんぴょんと飛び跳ねて、結と一緒に抱き合った。

 価格があまり高くなくてもやっぱり無料は嬉しいものだ。

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