シャノワール小村

「ん?」

 スマホはまだ震え続けている。どうやら誰かが電話をかけてきているみたいだ。

「こんな時に一体、誰だぁ?」

 人が忙しい時に……。セールスだったらすぐに切ってやる。

 カバンからスマホを取り出した。手帳型にしているのでぱかりと開ける。


 画面に表示されていたのは『店長』という文字。急いで通話に出た。

「もしもしっ。店長ですか」

 もしかしたら店長以外の人の声が聞こえてくるかもしれない。何故かそう覚悟をしていた。


「あっ結ちゃん、ごめんね、連絡忘れてて」

 とりあえずほっと一安心。店長の声だ。声を聞いた限りだが特に異常はないように思える。

「店長大丈夫ですか。連絡しないなんて、らしくないですよ」

「ごめんね。今、噴水広場の近くにシャノワール小村が来ていて……」

「シャノワール小村……って、それって誰ですか」

 なんだその名前は。初めて聞く名前だ。うさんくさい占い師みたいな雰囲気がするぞ。


「シャノワール小村?!」

 授業員全員が驚いたのか、とても大きな声。

 いやみんな表情はとても目を見開いていたのだから、一驚していたのだろう。

 驚いていないのは自分と文香だけ。先輩も後輩もみんな吃驚しているみたいだ。


 そんな中、百村≪ももむら≫先輩が早歩きでこっちに向かって来る。

 先輩はメドゥーサの仮装をしている。改めて見ると迫力が凄い。

 本物のモンスターに迫られているみたいに錯覚してしまいそうになる。

「もしかしてここに来てるの?!」

 あたしの元まで来て顔を近づけてくる。いや近い近い……。

「みっみたいですよ。噴水広場に来ているらしいです……よ」


 そう言った途端にみんな急いで店を出て行った。それは一瞬の出来事だった。

 言い終えたと同時に動き出していた。

 その光景はバーゲンセールに行くおばさん達のよう。


「……」

 残されたあたしと文香。店内はもぬけの殻。

 ほんとに店長と言い先輩達と言い、なんて自由な人達ばかりなのだろうか。

 昔からこんなに自由な人達だったっけ。特に思い出せない。

 もしかしたらそうかもしれない。はたまたそうじゃないかもしれない。別にどうでもいい話なのだけど。

 まぁ仕事をサボれるという点では、有難いけどね。

「……あたし達も……行くとしようか」

「……うん」


 きちんと戸締りをして走り書きだけど『本日は休業日です』と紙に書く。

 そしてそれを扉に貼ってから、行く事にしたのだった。

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