第51話 ダイヤモンドショット

 ガンブレードを振りかぶり、トリガーを引いて刃を高熱化させる。レックスの分身は口を大きく開き、ガンブレードを噛み砕こうとしていた。


「やってみろ!」


 ヤツの牙に刃が触れる瞬間、もう一度トリガーを引いた。


 ズドン――ッ!


 銃身から刃にかけて爆発が起こり、空気を震わす轟音が鳴り響く。


 レックスの分身の口は見事に原型を留めておらず、切断面は綺麗でも顔や首に至ってはぐちゃぐちゃになっていた。

 やがてそいつは膝から崩れ落ち、私の戦闘の初勝利の相手となった。


(やった…! 私にも出来た。でも、凄く衝撃が強い。スノウはこんなものを易々と扱えているのか……)


 勝利の余韻に浸っているのもつかの間、フラムとレックスは激しい戦闘を繰り広げていた。

 拳の残像だけが見え、私からは何をしているのかさっぱり分からない状況になっている。


「そんなんじゃ俺は殺せないぜ!?」


 レックスの攻撃は激化していく。よく考えてみれば、神が霊装を使っているというとても危機的な状況だった。それにフラムは霊装を使えない。パワーバランスがどう考えてもおかしかった。


「ならもう少し俺が出るか」


 フラムはそう呟く。

 その瞬間、フラムから溢れ出ていた闘気が更に増した様に感じた。黒い長髪は更に燃え盛り、橙の炎はほのかに赤みを帯びた。


「まだ強くなれるのかフラム! 喰いがいがあるなぁ!!」


 レックスは大口を開けてフラムへ噛み付く。レックスの噛み付きは空すら穿ち、空中には僅かに真空が生まれる。

 真空となった空間には空気の膨張がすぐさま始まり、一瞬にして小さい爆発となってフラムへ襲いかかる。

 

「避けきれるかぁ!? 『王者神食おうじゃのかみはみ』!」


 Tレックスを彷彿とさせるかのような姿勢で、レックスは空を噛み始めた。噛まれた空は次々と真空を生み、空気の爆発が連続してフラムへと降り注ぐ。


「そう焦るな」


 レックスの噛み付きを避けながら、フラムは踊るようにして炎を放つ。その炎はフラムとレックスの周りの地面を取り囲むようにして燃え広がり、彼らだけの特設対決場へと早変わりした。


「スノウ。頼って悪いけど、コッカイギジドーでの合体技みたいなのできるか?」


 コッカイギジドーでフラムとスノウがやった合体技。スノウがハルバードを握り、フラムの蹴り上げで空へ舞いながら炎龍を纏い、画竜の瞳を補うように蒼い瞳を携えて炎氷の急降下攻撃をする『炎龍氷眼ドラグーンダウン』だ。


 私はスノウではない。戦闘力は0に等しい一般人だが、今の彼の危機を救えるのは自分しかいない。


 私は女優だ。強い覚悟を持ってスノウになると決めたならやり遂げる義務がある。


「なら、今回は私がアシストをする。フラムの動きたいように動いてくれ!」


 私は慣れない魔法を繰り出す、その1点のみに集中する。魔法は、自分のイメージ通りに出るはずなのだから。


「やっぱりスノウは頼もしいな!」


 フラムは地面から飛び上がり宙へ行く。


「逃げるのかフラム!」


 レックスが宙へ飛んだフラムを追いかける。


「スノウ!」


 フラムは炎を腕に纏いぶん殴ろうとしている。この時、レックスの動きを止めるのが正解か、はたまたフラムの動きに合わせて氷の魔法を繰り出せばいいのか、私はそんな考えをめぐらせていた。


 0.001


 ふと、サルに言われたことを思い出した。

『嬢ちゃんの氷の魔法を見た時に閃いたんだが、弾丸を氷の魔法で作った物にすれば、状況に応じた効果を発揮できるよう改良しといた』


 0.01


 フラムの炎と拳があれば、氷の弾丸の力を最大限に活かせるかもしれない。


 0.05


 迷っている時間は無かった。すぐさま、『フラムの炎と拳の爆発で、敵により効果的にダメージが与えられる弾丸』を考え、生成した。


 0.1

 

 弾けると多くの氷の結晶が散らばる弾薬をフラムへと投げる。


 0.5


 弾薬はフラムの拳へ届き、フラムの炎と弾薬の冷気は互いを引き寄せ合うかのようにして爆発する。


 0


「『金剛拡散弾ダイヤモンドショット』!」

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