第45話 デジャヴ

「さて、とりあえず嬢ちゃんと暴れん坊将軍を休ませる必要があるな」


 サルは私とブリッツの身を案じてくれていた。幸い、注射のおかげで痛みは感じていない。しかし物語を見るに、ブリッツと私はかなり消耗していたようだ。


「俺はスノウをおぶるから、あんたはそっちの子を頼む」


 そう言うとフラムは私を担ぎあげ、ガンブレードに変形したパンドラボックスを引きずりながら鋼技こうぎ屋の中へと運んでくれた。




 実際目の当たりにした鋼技こうぎ屋の見た目や内装はおおむね想像通りで、小説の文字やスタジオで見たものとほとんど変わらなかった。精巧な機械品の数々や様々な刃物など、現実世界じゃ見た事の無いような物ばかりだった。


「とりあえず裏に寝かせる。着いてくるんだ」


 ブリッツを抱えたサルはカウンターの横にあるドアを開け、私とフラムを案内する。


 ドアの向こうには、畳やちゃぶ台といった昭和を彷彿とさせる物があった。しかしそれだけではない、液晶テレビやスマートフォンなど平成を思わせるような物もある。


「俺は適当に口に入るものを用意してくる。嬢ちゃんに兄ちゃん、ゆっくりしていきな」


 サルはそう言うと、ふすまを開けてさらに奥へと歩いて行った。


「スノウ、さっきから少し様子がおかしいけど俺が寝てる間になんかあったのか?」


 フラムは心配そうに私に問いかけてきた。

 私はきっとこの世界の住人が知っているスノウでは無い。それでも、役として演じてきた私が、私の中のスノウが、この状況に順応しろと訴えかけてくる。


「いや、少し疲れてるだけだ。休めばじきに良くなる」


 スノウはいつもクールに言う。フラムからの心配を受け止め、更なる心配をかけさせぬようにする。


 私はフラムが持ってきてくれたガンブレードを持ち上げ、敵と戦う時の想定をしてみた。


(武器の重量は撮影している時の2、3倍重い。片手で扱うのは今の私には少し難しそうだな。氷の魔法で弾丸を作れば状況に応じた効果があるって言われたけど、そもそも魔法って小説に書いてある通りイメージするだけで出るものなのかな……)


 そんな事を考えていた矢先。


 ドゴオオォォォォン―――ッ!


 店の外からとんでもない爆音が聞こえた。


「全く、この店に入ると外が攻撃される呪いでもあるのか!?」


 フラムは拳を畳に打ち付けて外へ駆け出していった。


(私も、命のやり取りに慣れないとな……)


 横になっているブリッツやふすまの奥へと歩いて行ったサルに黙って、ガンブレードを握ったままフラムの後を着いて行った。

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