第19話 美味しい物取られたから復讐だ!!

「きゅっ♪きゅっ♪きゅっ♪」


黒いのは上機嫌に森の中を漂っていた。手には何やら包みを持っていて、それを時々見ながらニッコリと笑いまた進み始める。それは、ヨクブーカの街で持たされたお弁当だった。


お腹の中の異物を全て吐き出した黒いのは、街に嫌な気配も残っていない事から別の場所に行こうとしていた。目が覚めた教会から出ようとした所で、猫人の女性に見つかったのだ。


「もう行かれるのですね・・・・。」


「きゅっ?」


「いえ、解っていました。使徒様には他にも使命があると。だから引き留めません。ですからこれをお持ちください。」


「きゅ~?」


渡された何かの皮で出来た包み。猫人の女性はその包みを開けて中の物を黒いのに見せる。それは、野菜とハム、そしてチーズの入ったサンドイッチだった。


「これなら手で持って食べられるでしょう。また、街に来られた際にはもっと美味しい乳と醍醐をご馳走しますね。」


「きゅ~♡きゅきゅっ!!」


「あぁ、行ってしまわれた・・・・。」


包みを頭上に持ち上げ、嬉しそうにしながら空に向かって飛んでいく黒いの。猫人の女性はその姿に寂しさを覚えながらも、感謝の気持ちを伝える様に祈りを捧げながら見送ったのだった。


なお、黒いのが居なくなったことで赤ちゃんがギャン泣きして教会で泊まっていた人全員であやしたのは別の話。


お腹も空いて居なかった上に、包まれているという事は後で食べろと言う事だと思った黒いのは、大事に包みを抱えて森を進んでいたのだった。


「きゅきゅきゅ~♪きゅっ?」


楽しみだなぁ、と鼻歌を歌いながら進んでいた黒いの。すると、沼地に差し掛かったところで何かを発見したようだ。


スンスン、スンスン、「グルルルル。」


「きゅ~?」


沼の中からにゅっと飛び出している鼻、鱗で覆われているその鼻の持ち主は、黒いのが持っている包みの中の匂いを嗅ぎ付けて沼の中から姿を現した。太い4本の足に長い尻尾、そしてうなり声を上げる口の中には鋭い牙が規則的に並んでいるのが見える。ワニの様に見えるその生き物は牙と爪に毒を持ち、尻尾と顎の力で周囲をなぎ倒す。この沼地のボスだった。


「グガァァァァァァッ!!」


「きゅっ!?きゅーっ!!」


包みを寄越せと黒いのに飛び掛かるワニ。黒いのは大口を開けて迫るワニを空を飛んで躱し、何するんだー!と怒っている。


「ガァァァァァァァッ!!」


「「「「「「「「ガァァァッ!!」」」」」」」」」


「きゅきゅっ!?」


宙に浮いている黒いのを忌々し気に眺めているワニは、鳴き声を上げて仲間を呼んだ。沼から次々と姿を現すワニ。その数なんと100匹以上。今も沼地から姿を現すワニに驚いて鳴き声を上げる黒いの。


「ガァッ!!」


「「「「「「「「「ガァッ!!」」」」」」」」」」


「きゅっ!!きゅっ!!きゅぺっ!?」


ワニのボスは仲間に指示して尻尾で泥を飛ばし始めた。他のワニ達も黒いのに向かって泥を飛ばす。黒いのは必死に避けるが、泥の1つが顔に当たり、包みを落してしまった。


「ガブッ!!」もしゃもしゃもしゃ


「きゅっ!?きゅーーーーーっ!!ぐばぁっ!!」


「「「「「「「「「「ギャッ!?」」」」」」」」」」


バリバリ、むしゃむしゃ、「きゅっ?きゅきゅっ♪」もりもり、ゴリゴリ、ガリガリ、もごもご、プッ!!


顔に着いた泥を手で取り除いて見えた光景は、落ちて行く包みの下にあのワニのボスがいて、包みを食べる瞬間だった。もしゃもしゃと包みを飲み込んだワニに対して黒いのは怒り、そしていつもの通りに体の口を開いてワニ達を捕食した。


前よりも体を大きくすることが出来た黒いのは、一口で100匹を越えるワニを口に入れ、咀嚼する。途中、何かを思いついたのか口の動きを変えて、咀嚼を終えた黒いのは口の中の物を吐き出した。


「・・・・・・ぐあ?」


「きゅっ♪きゅっ♪きゅっ♪」



それは、簡単に言うなら二足歩行のトカゲだった。全身鱗に覆われた体はそのままに、発達した後ろ足で達、指が増えた前足は器用に動かせる。毒は無くなってしまったが、尻尾の力は上がっていた。


「ぐあぐあ?」


「「「「「「「「「「ぐあ?」」」」」」」」」」」」」


「きゅっきゅきゅ~♪」


困惑する元ワニ達、その姿を見て黒いのは実験が成功したと喜んでいた。これまで多くの人を飲み込み、形を覚えて来た黒いの。人と動物を混ぜる事が出来たのだから、魔物を人型にする事も出来るんじゃ?なんて思って試してみたのだろう。その実験の成果でこの世に新しい魔物・・・・・。いや浄化されたのだから聖獣と呼べばいいのだろうか?とりあえず新しい種族が生まれた。


「ぐあっ!!」


「「「「「「「「ぐあぐあっ!!」」」」」」」」」」


「きゅっ?きゅきゅっ!!ぐばぁっ!!」


突然苦しみだした元ワニ達、それもそのはずいつかの蛙と同じようにこの沼地には毒が溢れ、ワニ達の体から出る毒も相まってかなり致死性の高い物になっていたのだ。苦しむ元ワニ達の姿を見てその事を思い出した黒いのは、この沼地も蛙の毒沼と同じように浄化する事にした。


全ての沼を浄化して、最後に水晶を水の中に落とす所までは一緒だった。だが違ったのは、元ワニ達が黒いのに色々と捧げ物をしている事だ。沼地が綺麗になり自分達の姿も変わったというのに、元ワニ達は骨や、牙や、その他いろいろな物を沼から取り出して黒いのに渡していた。


「ぐあぐあ。」


「きゅ~?きゅきゅ!!ぐばぁっ!!」


山盛りになった素材に前で跪き、黒いのに頭を下げる元ワニボス。たぶん黒いのが持っていたお弁当を食べたお詫びのつもりだったんだろう。自分達が隠していた宝物を黒いのに献上しようというのだ。


だけど黒いのはと言えば頭を下げる=お願い事という考えなので元ワニ達が何を求めているかを必死に考えていた。


そこで先日ヨクブーカの街で獣人達が嬉しそうに持っていた武器や防具の事を思い出す。自分の体から出した物をあの街の人達は喜んでいた。つまりはこのワニも同じ事をして欲しいのでは?と思った黒いのは素材を口に入れる。


バリバリ、もごもご、もごもご、しゃりしゃり、ぷえっ


口に入れた素材を全て砕き、混ぜ合わせ、街で見た武器の中で元ワニ達が使い易そうな形に整える。黒いのが口の中から吐き出すと、白い光沢のある胸当てと、同じ素材で作られた槍が沢山地面に転がった。


「ぐあっ!?」


「きゅっ♪きゅっ!!」


「ぐあっ?ぐあっ?」


「きゅっ!!」


「ぐあっ!!ぐあぐあ?」


「きゅっ♪」


「ぐあーーーーーーー!!」


「「「「「「「「「「ぐあーーーーっ!!」」」」」」」」」


翻訳するとこうなる。これは一体!! うまく出来た♪これ使ってね!! 何ですかこれは?見た事無いですが? こう使うんだよ!! なるほど!!こうですね? うん♪ 皆も同じように使うのだーーーーーー!! おー!! という感じである。


なお黒いのは手に槍を持ち、敵を突く仕草をした後に、胸当てを体に当ててそこを叩いて身を守る物だと教えた。元ワニボスの声を聴いてそれぞれが真似をして胸当てと槍を持つ元ワニ達。


「きゅっきゅっ♪きゅきゅ~。」


「ぐあっ!?ぐあぐあーーーっ!?」


「「「「「「「「「「ぐあーっ!?」」」」」」」」」」」


武装したその姿に自分は良い仕事をしたぁと、腕で頭を拭く仕草をして飛び立つ黒いの。元ワニ達は跳びたった黒いのを引き留めようと声を掛けたが、黒いのはすでに見えない所に行っており声も届かなかった。


後にこの湿地には白い装具を身に着けた蜥蜴の戦士が済んでいると噂に昇る。その防具はどんな攻撃も通さず、逆にその槍はどんな防具も貫くと言われ、人と同じ様に2足歩行で歩く姿からリザードマンと呼ばれるようになった。


後にこの地を訪れるピュリファイ教の導きでリザードマンの仲間は獣人の街に移り住むことになるが、それはまだ未来のお話。


毎回無断転載対策で以下の文を入れます。読み飛ばしても大丈夫です。無断転載ダメ!!絶対!!

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