異管対報告第1号-7

 一歩がコールマンから受ける説明は、彼の属することになる外務省対異界管理対策本部についてからはじまった。


「一応、嘗ての戦争に従軍していたでしょうから細かいことは省略しますが、世界には地獄の門というものがありますね。これは異空間と繋がる穴であり、地獄などに繋がりました。その場所は、知ってると思いますけど、アメリカのシアトル、ロシアのウラル、ドイツのフランクフルト、中国の四川、日本の京都、オーストラリアのメルボルン、イギリスのロンドン、南極、ナミブ砂漠、イスラエルのエルサレムで、直径3キロのものでした。

 そこから、サタン……ルシファーとも言いますが……彼、もしくは彼女の率いる解放軍がその地獄の門から侵攻して人類は初の異生物との戦争、後に言う"平和戦争"へと突入しました」


 その長々なとした説明は、戦乱の時代を従軍する一人の軍人として経験していた一歩には懐かしい記憶である。資料の中の写真にある廃墟化した建物や戦火で破壊された建物を見ると、戦争前の何気ない飛行場勤務の日々や突然戦争に突入したその日の混乱を思い出すのだった。


「当事者だったからなぁ……休みだったのに緊急出港で"いづも"まで呼ばれたのに、港から出たときには船体が真っ二つだったから……」

「思い出語りはそれくらいにしてください。話してますので」

「あっ……はい……」

「けっ、つまらん!」

「サブリナさん、煩いですよ。そんなに嫌なら寝てていいですから」

「課業中だろ!」


 そんなコールマンの説明の最中に過去の記憶を一歩が懐かしむように独り言をつぶやいた。その語る内容は唐突かつ他の面子からすれば突飛な内容であった。

 その一歩の思い出にサブリナが半口開けて驚く中、話の腰を折られたコールマンが少し不満そうに呟いた。その一言に一歩が謝ると、続きを尋ねようとしたサブリナは不貞腐れたように文句を付けて天井を態度悪く仰いだ。首を大きな動きで動かし手さえも使って鳴らすサブリナに、コールマンが若干面倒くさそうにあしらうと彼女は不満と怒りの混ざった表情て叱責の声を上げるのだった。


「律儀だな、お前」

「牢屋の中ならいざ知らず、給料が出てるならこれは契約だ。仕事は全うする」

「へぇ、何か"悪魔"って感じだな」


 サブリナの"課業中"という職場で慣れ親しんだ専門用語かつ仕事を意識した言葉に驚いた一歩が目を丸くして彼女に話しかけた。その言葉に得意げな表情かつ胸を張ったサブリナは持論を述べると、一歩は改めて感心したように頷くのだった。


「んっ、ゔん!よろしいですか?」

「失礼しました、コールマンさん」


 一歩とサブリナが話す中、雰囲気から追い出された様なコールマンが大きく咳払いして彼らの会話に割って入ると、一歩は彼女へ軽く頭を下げると姿勢を正して説明を促した。


「戦争初期では、地獄の門が開通している地域を領土に持つ国やその同盟国が解放軍と交戦を開始しました。その結果は貴方の知っての通りです。

 悪魔というものは、ルシファー曰く"嘗て主が作り給うた従者の軍勢の一部"らしいので。普通の人間とは異なる部分が多いとはいえ、見た目が異形なだけで中身は理性的で知的生命体ですから、その圧倒的戦力差に人間は負けていった訳です。そして、旧来の世界情勢は崩壊して世界は荒廃の一途を歩み始めました。

 しかし、人類は絶滅を諦めず、事実上機能停止を起こした国連に変わる新たな国際機構である"地球連合"を設立しました。各加盟国が1人の議員を出す閣議制の組織であり……まぁ、それについては今はいいでしょう。殆が国連と変わらない機能ではありますが、各国の軍を統合した連合軍が常設されています。

 その連合軍のラグナロック作戦にて解放軍最大拠点であったエルサレムの地獄の門に10発の核弾頭攻撃が行われると、エルサレム周辺30キロが放射能汚染で半永久的に立入禁止になるのを引き換えに門は消滅しました。核攻撃が地獄の門に効果があると理解した連合軍による地獄の門への核攻撃で、最初は直径3キロあった門は現在では1.5メートルとなっています。そして……」

「アスタロト、その部下であるサタナキアとアガリアレプト達の離反によって解放軍は分裂し、地球連合と悪魔の間にランカスター条約が締結された。その後の終戦までは多色なり解ってますよ」


 再びこれまでの歴史を語りだしたコールマンは、まるでこれまでの出来事を間近で見てきたかのように熱く語った。その語り口はアニメのナレーションか何かのように熱が入ったものであり、額に汗かくほどであった。

 だが、その力説を一歩が再びあっさりと先読みして説明してしまうと、コールマンはいよいよ彼をジト目で睨みつけた。その視線に一歩が"やってしまった"とばかりに苦笑いを浮かべると、コールマンは彼の眉間に勢いよく腕を振って人差し指を効果音がなりそうな具合に指さしたのである。


「女性の話は腰を折らずに最後まで聞いたほうがいいですよ?港3尉」

「効率を重視しただけですよ」

「ほぅ、流石に管制官といったところですか?基準と効率は重視できても、人間相手は……」

「コールマン!」


 自分の話を一歩が遮ったことを演技がかった態度で批判するコールマンだったが、その態度に反して批判の言葉は至って普通であった。そのため、彼は彼女の言葉に対して苦笑いを浮かべながら自分の主張をあえて伝えた。

 そんな一歩の主張はコールマンの感性に引っかかるものがあったのか、彼女は一歩の経歴を混ぜて再び語りだそうとした。

 だが、今度はそれまで黙っていたサブリナが限界とばかりにコールマンの言葉を止めて急かしたのである。獣のような瞳に鬱陶しさを見せて若干がなるその声に、コールマンは口をへの字に曲げて肩を竦めると書類を数回捲ってから話始めのために軽く咳払いをするのだった。


「戦争は、地球連合の勝利に終わり、閉じることの出来ない地獄の門の管理は地球連合が執り行うことになりました。それを実行するのが地球連合のいち組織である国際異界管理統合局です。ちなみに、私も本来はそこに席を置く者なのですが、今は監督官としてこの国に出向してきている身です。

 私達は世界に残った悪魔やエルフ等といった亜人、こちらの世界へ流入してきた魔獣や薬物、魔法等による事故や事件を管理するために設立されました。一応、地球連合加盟国からの大規模な人員動員に悪魔や亜人も雇用したことで高度な魔法と科学技術の融合技術を確立して対処してきました。

 ですが、いくら力が強くても地球全土を管理するには圧倒的に人員不足でした。そこで、国際異界管理統合局はランカスター条約の附属書に、条約加盟国は条約の規則に則った対策組織の設立を依頼しました。外交組織内でですけどね」

「なるほどだから外務省な訳で、それが私の新しい職場な訳ですか」

「えぇ、それが私達"外務省異界管理対策局"な訳です」


 話がようやっと近年の出来事に近づいてくると、ようやく一歩も本腰を入れてコールマンの話を聞き始めた。

 だが、コールマンの芝居がかった英語訛のある口調に身振り手振りが加わると、一歩は少し前に見たイギリスのコメディ番組が頭の中に若干流れ始めた。そのせいで、彼は気を張った分だけ脱力し始めやる気が無いようである返事をした。そんな返事でも満足したコールマンは、一般企業のオフィスのような職場を両手を広げて示すと、高らかに説明しきって見せたのだった。


「私達、外務省対異界管理対策局は国際異界管理統合局の要請で設立された日本国外務省の悪魔や魔獣などの超常現象事件への対応組織です。まぁ、本部はあくまで地球連合の要請で設立された外交組織、尚かつ戦力を有していないので実質的に無力です。そのために初期は警察庁と協力していました。その警察も腰抜けだったのであっさり撤退していましたがね」

「また随分とした言い方ですね」

「隊員にはこう言った方がウケると思いましたが?お嫌いでしょう、直ぐちょっとした悪さを盛大に誇張した上で逮捕するから」

「そんな反応しづらいことを……」


 コールマンは自分達の職場の設立経緯を説明しきると、次の内容を説明するために静かに書類を捲り始めた。強弱のギャップに一歩が困惑する中で、彼女は再び長々と語りだした。

 その戯けた説明の中でコールマンは警察への批判を笑いながら付け足すと、一歩へ反応を求めるように視線を送ったのである。

 そのコールマンの刺すような視線を前にした一歩は社交辞令的な返答をした。その返答に毒のある一言を付け足した過激な発言をしかけたコールマンだったが、さすがの一歩も慌てて止めると説明を続けるように書類を指さして促すのだった。


「その後は防衛省との協力を前提として活動しており、本部や対策部隊司令部は外務省にあります。結局は形だけでですがね。実質的な本部は防衛省、指揮権は防衛大臣にあります。

 そして、ここが外務省異界管理対策班関東方面東京支部です。そもそも対策班は外務省から協力を要請され軍の人員が出向して設立された対異界の専門組織です。」

「やっと本題の説明ですか、長かった」


 コールマンの説明がようやく一歩の知りたかった話題へと入ると、書類を片目に説明を聞く彼は一人呟きながら真剣な目付きでコールマンの眉間に視線を向けた。


「それで、ここは当然異界犯罪と戦う部署なんですから…」

「軍組織が関与していながら密かに魔法技術を独占している状況から、防衛省や各部隊から嫌われてます。予算も出るのは極わずかで、防衛省へと押し付けられる出費も少ない。更には捜査で危険な悪魔やスパルタン、魔獣や魔法を使う反社会的勢力と遭遇することも稀にあるのに対魔法装備を支給されない警察からも疎まれており、基本的に味方のいない組織です。迫害されていて人員は常に不足し、事件は多発しているため、キツイ・カネナシ・カエレナイの3Kの体現とも言える環境ですよ」


 話の途中に一息入れたコールマンに、一歩は軍属の士官として真剣に質問をしようと握った拳を軽く上げようとした。

 だが、一歩の真剣な表情から放たれる質問に対して、コールマンが返した返答は戯けと自虐に溢れるものである。ジェスチャー混じりに肩を竦める、瞳を閉じて小首を傾げるアニメチックなその動きは実に気が抜けるものであり、それをきちんと聞いていたはずの一歩も面食らってしまったのだった。


「はぁ?」

「そうなるだろう。私もそうなった」

「それでは、これでルイーズ・コールマンが"外務省対異界管理対策本部、関東方面異界管理対策隊、東京方面班"の説明を終わります」


 面食らって黙っていた一歩がようやく口を開いて驚きと呆れの声を漏らすと、隣で黙ってテーブルの上の書類の端を鳴らしていたサブリナも呆れたように呟いた。その表情は何度も聞かされ飽きたと言わんばかりに背もたれへと寄りかかって天井を見つめるのだった。

 そのサブリナの姿で正気に戻った一歩は、慌ててテーブルの上の書類を捲ってその話した内容がどれだけ噛み合っているか調べた。


「待て待て!こんなに分厚い資料出して、一番重要な所はそれだけかよ!何だよスパルタンって、魔法を使う反社会的勢力ってどういうことですか!」

「言った通りですよ。私達は、魔法犯罪や魔法を用いる反社会的勢力の検挙、異界の関わる全ての事件を表立たずに解決するんです」

「ふっ……ふざけてる……捜査も戦闘経験もない人間にそんなことをさせるんですか!」


 書類を調べた一歩は、コールマンの話す内容の大雑把さと正確性の無さに立ち上がり片手に持った書類を叩きながら彼女へと問いただそうとした。

 だが、驚きと自分のこれから先行う職務の意味不明さに驚く一歩の焦りの言葉をのらりくらりと躱すようにコールマンが説明と、その内容の突拍子の無さに彼はいよいよ声を荒らげそうになるのを抑えながらもきつい口調で尋ねかけるのだった。


「そういうのは"特警"とかの人を連れてくるべきでしょう!こっちは管制マークですよ、管制塔とかGCA局舎にいるような私にどうやって戦えって言うんです!射撃だって年一しかしてないんですよ!」

「確かに、こう聞くともっともな意見だな。どう見ても強そうじゃないし」

「だろう!ちょっと筋トレできるくらいだぞ!運則4級取れるくらい程度なんだぞ!」


  薄ら笑いを浮かべて焦る一歩をあざ笑うように見つめるコールマンの表情に、彼は若干早口になりながら頭に過る言葉を吐き出して主張した。その焦り口調は必死さを露骨に示しており、その必死さに天井を仰いでいたサブリナも笑って軽口を挟むほどだった。

 そのサブリナの軽口に乗っかる一歩もわざわざシャツを捲ってあまりない腕の筋肉を叩きながら主張すると、コールマンは哀れみの視線を向けサブリナは吹き出しそうになった。


「そこに関しては大丈夫ですよ。なにせ、貴方には最新技術によって作られた装備があるんですから」

「最新技術の装備って……」

「これだろ?ほれ」

「ほれって、これ?」


 哀れみの視線を一歩の腕に向けるコールマンだったが、いい加減彼を茶化すのに飽きたのか一歩へと自信たっぷりに胸を張りながら力説した。その力説に一歩は再び困惑するが、隣のサブリナは自分の左手薬指にはまっている指輪を指さし一歩へと見せつけた。

 そんなサブリナの指輪を見た一歩は、彼女と同じものが自分の指にもはまっているのを思い出すと左拳の薬指を右手で指差してコールマンへと尋ねかけた。


「デモンズリング。正式名称は"携帯型悪魔融合装置3型A"。人間と悪魔を擬似的に融合させる指輪のような装置です」

「悪魔と融合だって!何だよそのアニメか何かの設定みたいなの?信じられるか!」

「とはいえ悪魔は実在している訳ですし、貴方だってそれを着けてどういうものかは解ってるでしょう?」


 一歩の指輪を指差して説明するコールマンは一人楽しそうであった。その笑みが一歩に彼女の説明を信用させず、彼は呆れたように大きく肩をすくませるといつの間にか立っている自分に呆れながら反論の言葉を言いつつ席に座った。

 そんな一歩の態度にも全く動じないコールマンは、相変わらず楽しげに説明を続けるとテーブルの上の書類を摘んで捲ろうしたが、いらないとばかりにそっぽへ投げ捨てるとサブリナを指さした。


「この世界は悪魔が本来の姿を維持できる程に低位や高位の世界ではありません。世界に漂う魔力少ないですから。ですので、魔力補給に限りのある悪魔の力と、魔力を生み出せる人間が融合することで、強大な戦闘力を生み出す対異界兵器として開発された訳です」

「なら、尚のこと私じゃなくもっと色んな意味で強い人の方がいいでしょう!陸とか……」

「使用条件がヒーローの変身アイテム並みに面倒なんですよ。使用には悪魔と人間が必要で、おまけに男女の対でなければならないんです。それに加えてペアの相性が融合係数60以上必要なんですよ。まぁ、港3尉とサブリナさんの融合係数は奇跡的な100に近い数値ですし、サブリナさんは悪魔の中でも高位な存在で強いですから」


 サブリナを指差すコールマンの説明に、指を差された本人は嫌そうな視線を彼女へ向け、一歩はコールマンの説明から知っている特撮ヒーローをいくつか脳裏に過ぎらせながら堪らず文句をつけた。

 その一歩の文句も気にしないコールマンは更に楽しそうに説明すると、会議室外を気にするように視線を向けたのである。


「彼女が強くても私が強くなきゃ……」

「別に、今は強くなくてもいいんですよ」

「そんな!……それってどういう意味です?」

「働いてればすぐにわかりますよ」


 一人だけ戯けたような態度に要領を得ない説明、自分を馬鹿にするような話し方のコールマンが更に現状ではなくオフィス側を気にし始めると、一歩は自分の中に渦巻く軍属としての規律や上下関係、諸々の規則を打ち砕く彼女の態度と未だに解らない自分の立ち位置に疲れ、遂には投げやりに彼女へ尋ねかけた。彼の質問は答えを求めない質問であったが、コールマンは律儀に一歩に答えたのである。

 コールマンの返答は正気一歩も期待していなかった。だからこそ驚きの言葉を真っ先に掛けたが、彼女言葉の真意が変に気になると妙に落ち着き、荒ぶりかけた声を普段のものに直して尋ねかけた。

 すると、コールマンは再び要領を得ない返答で返したのだった。


「だから、それってどういう……」

「つまり、これから仕事の時間ということです。相手さん方は待ってくれませんからね。現場で覚えていってください」

「なっ、任務の詳細は?」

「それはこれからわかることです。"あくまで"私はどこかの誰かが任務の進展を伝えに来たということしか解らないですよ。ほら来た……ドン!」


 相変わらず要領を得ない返答と一人一歩をおちょくって楽しむコールマンに、彼はなんとか落ち着きを維持しようとしながら諦めず情報を得ようとした。

 そんな一歩に反するようにコールマンは更に突拍子も無いことを言い出すと、彼は驚きを通り越した呆れで満ちた口調で彼女に尋ねかけた。

 一歩の疲れた表情と進展しない状況に退屈と苛立ちを見せるサブリナの姿に、コールマンは更に楽しそうに話し続けると、野球の審判のストライクのポーズように腕を振って会議室の扉を指さした。すると、彼女の言葉と同時に扉が開き、一人の小柄な隊員が飛び込んできた。


「会議中失礼します!外回りの寺岡さんから応援要請来てます!」

「はいはい、解りましたよ」


 その小柄な隊員は活気のある女性であり、黒い髪を肩口で短く切りそろえ、白い肌に七三分けのような前髪から見える額に汗が輝いていた。

 その隊員の急ぎながらも正確な報告にコールマンは適当な相槌を打ちながら席を立ち上がった。


「それでは、初仕事……いえ、見習いです。行きましょうか」

「えっ、初仕事って?同僚とかチームとか、あと直割とかそういうのは?」

「現場でお願いします。捜査官は不足してるんですから。事務員は多くても、捜査官は本当に困ってるんですよ」


 立ち上がったコールマンは、女性隊員の報告に席で身構える一歩と型に手を置き首を回しながら立ち上がるサブリナへ両手で出入り口を指さしながら急かした。そんな彼女の言葉に一歩は何時の間にか流れに任され良くもわからず仕事をさせられそうな状況を覆そうとした。

 だが、その努力も虚しくコールマンは一歩に冷酷な一言を叩きつけ、サブリナは一人で出入り口へと向かおうとし始めた。


「そんな無茶苦茶な!」

「行くぞ小僧、このムカつく悪魔に何を言っても聞かん。一度こうなったら、仕事を完遂するまでだ」

「えっ、コールマンさん、アンタ悪魔なの!」


 どうにもならない状況に驚愕しながら天を仰ぐ一歩をサブリナが手を引いて会議室の外に歩ませた。その最中のサブリナの一言に一歩はわざわざ会議室の外に出たのに再び顔だけ会議室の中に戻して尋ねかけた。

 だが、一歩にコールマンが返事をする前に彼の驚く顔は扉の向こうに消えていった。


「今の礼儀のない発言は無視してあげますけど、"あくまで"私は上司ですから早く部下には仕事をして欲しいんです。事情も教えてないですけどね」

「この…通信機みたいなやつ、持ってきますよ!」

「どうぞ、貴方の名前は貼ってありますから」

「ほら、急げ!」


 コールマンはテーブルに片手を付きながら会議室の向こうで忙しなく仕事へ向かっているであろう一歩とサブリナに軽く声を張って話しかけると、一歩の困惑しながらも必死に状況に適応しようとする声が響いた。

 その一歩の声にコールマンが返事をする頃には彼らの声も遠くなり、何時しか会議室の中には静寂が訪れるのだった。

 そして、その静寂の中でコールマンはゆっくりと立ち上がり一歩達を追おうと部屋の扉へ歩き出した。


「さてと、行きますか。まぁ何とかなりますかね、"悪魔"だし」

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