ちょっぴり意地悪王子の溺愛事情

林檎の木

プロローグ

俺の未来の“妻”が男に取り囲まれている。

物語に出てきそうな王子は男装をしている婚約者が屈強な男性に取り囲まれている事に気が付くと歩きだした。


「最後くらい全員で風呂に入ろうぜ」

「拒否。ゴリラとの雑魚寝、大浴場は趣味ではない」

籠瀬王国の王宮騎士団の僻地での合宿が終わり。

全員で都市に帰る前に大浴場で汗を流してから帰ろうという話になった。

180㎝越えの屈強な男ばかりの集団で、ただ一人。

167㎝と華奢で黒の短髪のかつら、ブルーの瞳を黒のコンタクトで隠した輝く笑顔の“少年”だと思い込んでいる彼女に団員達は誘い。勿論、女であることを隠している彼女はキッパリ拒否。


「ゴリラってお前な。確かに俺らはゴリラに似てない事はないが。お前ほどではないが、それなりに女子から人気もあるんだぞ」

「お前が女みたいにヒョロヒョロなだけだ。最後くらい、裸の付き合いしようぜ」

―――俺の女に触れるな。

お前ら、全員始末するぞ?

数人が彼女の肩に腕を掛けた時だった。


「そいつの性的対象は男だが、ゴリラの裸は目の毒だ。欲求の対象外だ」


妙な止め方をする王子に彼女はため息をつく。

その人物は少年に見える彼女が女であることを知っていて。

彼女が女だと気が付いた後は、溺愛を開始した婚約者であり彼女もちょっとドSで煩悩の塊であるが想いを寄せる人。

彼は常に冷静沈着な指導力、統率力、一騎当千の対戦能力も高く。

圧倒的な存在感と、その優れた容姿から“魔王”と異名を取る次期国王。#籠瀬魁吏__ろうせかいり__#皇太子殿下。


「静真が見たい裸は”俺”だけだよな?これは、王子命令だ。返事を知ろよ?」

私は誰の裸にも興味はないわ。

それにこんなくだらない質問に”王子命令”って。

権力振りかざす場面を間違えている。

口をパクパクさせるのだが・・・。

「さぁ、二人でシャワーを浴びよう」

185㎝の筋肉の鎧で固められた体に抱きしめられ、167㎝と女性としては高身長であるが華奢な体はすっぽり収まり逃げ出せず。

おとぎ話の主人公のような綺麗な顔立ちに近づけられれば、男性経験のない彼女の鼓動は早くなる。

「変態、痴漢、露出大魔王」

急接近してくる顔を静真は両手で押し拒否をするのだが。

周囲から見たら、美しい王子が可愛い少年を口説いてじゃれているようにしか見えない。

「酷いじゃないか。一国の王子に向かって暴言は・・・」

魁吏はそこで言葉を切ると、静真の耳元に自分の唇を近づけた。


「#静真__しずま__#静真公爵令嬢。王子を侮辱することは婚約者であったとしても、断罪に値する」

断罪。

つまり・・・。打ち首!

やられかねない。

どこまででも低い。

奈落の底からの囁きのような声に硬直する静真を魁吏はお姫様抱っこで持ち上げた。

「ちょ!お嫁に行けなくなる」

本当にシャワーを2人で浴びる気なのか。

後、半年しなければ自分は成人にならず結婚はできない。

恋人とはいえ、そういう行為は結婚してからと貞操観念の強い静真は暴れるのだが。

「責任は取る」

しれっという王子に静真は大人しくすると。

周囲は王子が少年をからかっているだろうと思いげらげら笑いだした。

「お嫁じゃなくて。お婿の間違いだろう」

「静真は生まれて来る性別間違えたよな。女だったら顔も綺麗だし、好みの男もつれただろうに」

しかし、その笑いは直ぐに国王陛下。

魁吏の父親の登場によって消えて行った。


「25歳になり多種多様な婚約者を用意し、最近、ようやく一人の女性に決めたと思い安心したら。あんな少年にうつつを抜かしおって。ぶっ潰してやる」

息子の”婚約者”と”少年”が同一人物だとは思わず忌々しそうに国王は言うと国の行く末を案じて拳を握りしめた。


***

「綺麗だ」

王子専用の小屋で静真は黒のかつら、黒のカラーコンタクトを外すと。

金髪の長い髪にブルーの瞳が美しい少女にその容姿を変える。

シャワーを浴び、脱衣所に行くと淡いピンクの体のラインをだすドレスだけおいてあり。

バスタオル1枚で魁吏の前に現れる勇気も度胸はなく。

仕方が無いわねと思いながらドレスを身に纏うと、洗面台のお化粧セットが目に入る。

ドレスからはほのかに胸の谷間がのぞき、化粧をしていなくとも似合ってはいるが・・・。

物足りない。

さっとメイクをして部屋を出ると、半身裸で汗を拭き涼んでいる魁吏の姿が目に入った。

この1週間は男ばかりの合宿に参加をし、男の上半身など見なれたが。

それは広場や、食堂など開けたところで複数人いたから何も思わなかっただけで。好意を寄せる男性のソレには意識をしてしまい目を逸らせた。


「おいで」


魁吏はそんな恥ずかしそうに眼を伏せる静真にドキッとするような笑顔で手を差し出すが、当然彼女はその手を取ることはなく。

ふいっと後ろを向く。

「何を照れている?」

「照れていません。ま、真っ平な体に抵抗が無いだけです」

「そうか。では、仕方ないな」

魁吏はそう言うと、椅子から立ち上がり彼女の後ろに立つとそっと後ろから抱きしめた。


「お前は俺の顔、体系が好みで、性格も尊敬に値するのだろう?ついでに、知的生命体の中で一番性的欲求も沸くと言っていた。少しずつ抵抗を付けていこう。協力する」

それは飲み会でベロベロに酔った際に静真が言い放った言葉。

「うるさい」

「本当に俺の未来の妻は口が悪い。しかし、そんな所も愛している」

甘い言葉を囁く彼に静真は口を尖らせる。

「・・・私の方が愛しているわ」

視線を逸らせる彼女に彼は唇を近づけると、大人しくそれに応じるように顔を向けるのでそっと重ねる。


彼女が女であることをみんなが知るのは、この夜の話。

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