【第20話】アリシアさん乱心する
自分に取り憑いた夢魔退治を試みた私が、何故かアリシアに助けられてしまったその夜の出来事。
真夜中に彼女一人を帰らせるわけには行かないから…ということで、アリシアをそのまま私の部屋に泊めることになったのだけど…。
この部屋にはベッドは一つ。当然、お嬢様である私のベッドはキングサイズと言うレベルに大きなものだし、アリシア一人増えたとしても余裕で二人とも広々眠れる大きさ…ではあるものの、それはそれとして、自分が大好きな相手と同衾なんて!!!
心臓が爆発して死んでしまうんじゃないかと心配になってしまう。
でも、ここであんまり動揺するのもおかしいではないか…。だって私たちは女同士で、なおかつ親しい友人なのだ。一緒に寝るくらいでそこまで大騒ぎしたら…不自然だと思う。…多分そう。
だから私は出来る限り平静を装って、彼女を自分のベッドへと招いたし、アリシアも少しだけ緊張したような面持ちで、お邪魔しますって言ってから、私のベッドの中へともぐりこんだ。
灯りを消して、真っ暗な部屋の中、おやすみなさいって二人で言い合った後、私はとりあえず目を閉じてみたけれど、バクバクと煩い心臓のせいで少しも眠りに落ちることができなかった。このままじゃ朝まで一睡も出来なさそう…なんて思いつつ、天井を眺めていた時だった。
「…エリス…。もう寝ちゃった…?…」
アリシアの心細そうな声が聞こえた。
「…起きてますわよ。…眠れませんの?」
「うん…。何だか寝付けなくって………」
「…あんなことがあったのですものね…(わたくしは寝ていただけですけれど…)」
「本当だよぉ…。エリスが無事で良かったけど…」
「か、返す言葉も御座いませんわ……でも、それを言ったらアリシアだって、結構無茶をしたようなものじゃありませんの…。無事で良かったですけれど…」
「…だ、だってぇ… 私だって必死だったんだもん…」
「…でも…助けてくれてありがとうね、アリシア」
「…!… うんっ…!」
アリシアの声が、何となく嬉しそうな色を帯びたのがわかった。それに私もついつい嬉しくなってしまった。
「ところで、その…エリス、あのね…」
「…?……どうしましたの?」
「…エリス、あの夢魔に酷いことされてない?大丈夫だった?」
「…へ。……え、えぇ!? な、ど、どうしてそんな…」
「だ、だって……その夢魔って…嫌らしい事をしてくるんでしょう?」
「…ま、まぁ…それは……」
私は言葉に詰まってしまう。
あの夢の内容を話すのも羞恥プレイに他ならないが、相手がアリシアだということがまた、より恥ずかしさと決まり悪さを増してしまうことになった。
なんとか誤魔化そうとする私の気持ちも無視してアリシアはぐいぐい問い詰めてくる。
四夜にかけて私が夢の中で何をされたのか、洗い浚い話させられてしまった。
ううっ…純真無垢なアリシアにこんな話を聞かせるなんて凄まじい罪悪感が……。
アリシアは私の話を顔を赤くしたり青くしたりしながら聞いている。
「…怖かったよね。大変だったね…」
上体を起こした状態で、ベッドの上二人並んで話をしていたのだけど、アリシアはこてっと頭を私の肩に乗せるように寄りかかって、そうぽつりと言った。
「…不愉快な思いはしましたけれど、そのお陰であんまり怖いとかは思いませんでしたわ」
肩に感じる彼女のぬくもりと、心遣いが何だか温かい。
心配しないで と言いたくて私はそんな風に返す。アリシアは、そんな私の気持ちをわかっているのだろう。またそんなこと言って…みたいに、ちょっと困ったように笑った。
「…私だったら、そんなのとっても怖いと思ったの…。誰かわからないような人に身体に触れられたり、その…えっちなこと…されちゃうなんて…」
「……アリシアが助けてくれたから、そ、そこまでのことはされませんでしたし…」
「むー…」
「ど、どうして納得いかない顔をしてますの?」
大丈夫だという私の言葉にアリシアは何処か不満げで、そこまで言うなら…みたいに、何故かムキになった様子で身を乗り出してきて、私のことをベッドの上に押し倒して、覆いかぶさるみたいな体勢になった。
「え、え、え、ええ…???????」
表情こそ大真面目だが、暗がりでもわかるくらい、アリシアの色白の頬は赤く染まっている。
「あ、アリシア?」
「だって、こんな風なこと、されちゃったんでしょ?」
そのまま彼女は私に顔を近づけると、私の額や耳朶や首筋に、ちゅっちゅっと唇を落としていく。
「え、な、アリシ…あ、なっ…、えっ? ふぇっ?」
私は自分が何をされているのか、全くわからない。
頭が追いつかない。
ただ、彼女の柔らかい唇が押し当てられる感触に心臓と意識が飛び出しそうになる。
なんだこれは?
なんなんだこれは??
私はまだ夢を見ているのだろうか??
夢魔はあの男じゃなくてアリシアなんじゃないのか??
アリシアはサキュバスなの???????
ここはもう夢の中ではなくて、身体だって自由に動かせるはずなのに、私は身動きが出来ない。…できないと言うよりはしたくないのかもしれない。
だって例えこれが夢でも、それなら覚めないで欲しいとすら考えてしまったのだ。
「…んっ、ん…」
私の身体の上では、アリシアが熱っぽい吐息を漏らしつつ、私の髪や頬にキスをしていて、きっと私はもう実は死んでるのかも知れないと思った。
それがどれだけの時間行われていたのか、私にはちょっとわからない。
恐らくそこまで長時間ではなかったと思うのだけど、私にとっては永遠にも思える幸せで、そしてわけがわからない時間だった。
自覚はなかったけれど、実は波佐間悠子は凄く徳の高い人生を送っていたのかもしれない。そうでなければきっとこんな風な人生を経験はできなかったはずだ。
途中から考えることを放棄した私が、鼻血とか出てたら嫌だな…とかぼんやり考えるくらいまで達観した気持ちになってしまった頃、私の耳にはアリシアの、何処か見当外れに得意げな…でもちょっと恥ずかしそうな声が聞こえてきて、この至福の時間は終わった。
「…ほ…、…ほらぁ…!そんな顔して!やっぱり怖かったんじゃない…!エリスったら強がりなんだから!」
アリシアの目に私がどんな風に映っていたのかはわからないが、きっと魂が抜けきった表情に見えていたに違いない。
私はもう何もわからなくなってしまっていたし、結局予想通り一睡も出来ないまま朝を迎えることになったのだけど、その隣でアリシアは一人満足した様子でのん気に熟睡していた。
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