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 ――――駄目だった。


 周りには死体の数々が落ちている。

 目の前には青い髪の青年。――――元凶。


「もう何度目だよ。いい加減諦めな」


「……。」


「”そいつら”を助けるなんて無理なんだよお前には」


 そう言いながら近付く青年。一番近くの死体を蹴りながら語り掛ける。


「そいつの意思は絶対だ。"絶対"に意思を曲げない」


 近くにはフードを被った人物。性別すらも分からない。


「でも」


「それでも、今までで一番近付いた。元凶の貴方にも初めて会えた」


 鍵を握りしめる。


「またタイムリープか?知ってるだろそれはタブーだって」


「タブー?」


 少女の隣に居る男性が嗤う。


「そんなもの私が"破壊"する」


 ――――――――


「はぁ」


「どうしたんだい鞘架さやか


 溜息を吐く鞘架さやか。手にはティーカップを持っている。ここは某カフェだ。

 鞘架さやか刀架とうかはある人物と待ち合わせをしていた。


「惜しかったのに……今度こそいけると……」


「確かに。まさか元凶がアイツだったとはな。不意打ちさえ取られなかったらぶっ殺してやったのに」


 微笑む。アンタ、目が笑ってないわ。


鞘架さやかも知ってるだろ?私は」


「はいはい最強最強」


「むぅ。もふもふさせてやらないぞ」


「それは困る」


 刀架とうか――――本来の姿は九尾の狐の彼のしっぽはすごくもふもふしていて気持ちがいいのだ。いつも寝る時は枕にしているが安眠出来る。もう彼(のしっぽ)無しでは生きていけない。

 

「……お前らか俺を呼んだのは」


 そんな時待ち人が来たようだ。


「ああ、待ってたぜ念呪忍ねんずしのぶくん。……常盤知途贅ときわちとせの恋人」


「要件とは何だいきなり連絡が来たと思ったら……。しかも最高司令官の秘密ってなんだよ」

 

「やっぱこれいらない」


 そう言って飲んでいたコーヒーを返却口へ返しに行く鞘架さやか。おいおい毎回飲めないのに頼まないでくれ。金出すのは私なんだ。そして大事な話の途中で勝手にどっか行くな。あと寝る時枕にされると寝返りが打てなくて体が凝るからやめてほしい。


「おい」


「あ、ああすまん最高司令官の秘密な」


 最高司令官。公安警察の最高司令官は滅多な事で動かず職務室から指示を出していると噂の居るかどうかも分からない存在だ。噂によると本当は居なくて事件を起こしにくくするため、架空の人物として作られたと聞く。


「最高司令官はいるぜ。私の知り合いだ、なんなら会わせてやれる」


「マジか……証拠は?」


「これ。最高司令官の電話番号だ」


 手に持っているのは電話番号の書かれたメモ用紙。


「これをやる。ただし協力すると誓え」


「……断ったら?」


「断る理由なんてないだろ?お前彼女の敵討ちがしたいんだろ。」


「じゃあ先に連絡してみろよ。信じられるかそんなの」


 その時不意に刀架とうかの手が伸びる。首だ。

 しのぶの首に優しく触れた。


 その瞬間首が弾けた。

 一瞬の事で何が何だか分からなかった。痛みさえ感じなかった。

 ――――ああ俺死んだな。

 それだけがやたらと冷静に理解出来た。




 はずだった。


「あ、れ……?」


 弾けたはずの首が付いていた。普通に呼吸も出来るし声も出せる。勿論痛みなんて感じない。

 夢だったのか?それとも。


「"破壊"したんだよ」


 語り掛ける刀架とうか。その優しい話し方のわりに寒気がする。


「お前の首を破壊した後にその『事実』を破壊した」


 破壊……?


「私の『才能ギフト』だ。詳しくは破壊じゃないんだけどそういう事にしといてくれ。私の才能ギフトについては鞘架さやかにも教えてない」


「……無理やり服従させようってか?」


「そういう事だ」


「お前性格悪いな」


「ははっ、よく言われる」


 一瞬自分の持つ”猛毒”の才能ギフトで殺してやろうかと思ったが、なんだか格の違いを感じるしここで事件を起こしたら逮捕されるのは自分だ。

 そう思い留まった。


「ふぅ、ねぇねぇとーか。なんでコーヒーってあんなに苦いの?ガムシロップ入れたのに」


鞘架さやかにはカフェラテとかの方がいいんじゃないか?」


 そう言う刀架とうかの顔は慈愛に満ちていてさっきまでとは別人のようだ。

 この女……鞘架さやかはどうやってこの男を手懐けたのだろう。


「あ、しのぶ。今回の作戦だが……」


 ――――それで起きたのがあの人質事件だった。

『主人公』を誘い出すための作戦。

 どうやらこの二人組は主人公を仲間に引き入れたいらしい。

 詳しくは教えてくれそうな雰囲気になかった。

 刀架とうかに耳元で「また死にてぇか?」なんて言われたら聞くに聞けないだろう。


 まぁ、結局作戦は一人のイレギュラーの乱入により失敗に終わったのだが。


 ――――――――


「朝。」


「おはよう鞘架さやか。いよいよ今日だな」


 今日、×月×日某日。『主人公』を仲間に引き入れる日だ。


「私も付いていくよ。毎回あいつ……」


「まぁ、私に何かあったら貴方が助けてくれるでしょ?」


「……当たり前だろ」


「頼んだわよ。相棒」


 そう言って手をグーの形にしてこちらへ突き出す鞘架さやか

 全く君には敵わない。


 「勿論だ。相棒」


 その小さな手に自分もグーでタッチを返すのだった。


 ……まさか職員室から出られなくなるだなんて知る由もなかった。

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