大きなのっぽのロボ家電

たけすみ

ケース0:出荷前動作確認

 工場のクリーンルームに敷かれた畳6枚と据えられた安価な家具、まるで舞台の大道具のような景色に散乱した服類。


『任務設定:清掃と要洗濯衣類回収』

 マスクに作業服に作業帽のおじさんが、『私』の胸元の端末画面に入力し、可動状態オンを選択した。


 『私』は搭載された複合センサーと動作対象エリアの天井部に設置された全方位モニター型映像判定ユニットにより部屋の形状と状態を把握した。


 そして多脚駆動部を駆使して、充電ホルダーユニットから畳の上に一歩踏み出した。

 たちまち撒き起こるホコリ。胸部搭載の空気清浄機能が動作対象エリア内のハウスダストを検知。


「空気清浄機能をオンにします」


 そう音声出力し、『私』はまず目の前に落ちた靴下やズボン、ティーシャツなどを拾い集め、エリア内所定位置にある『回収目標地点:洗濯かご』に置いた。


 そうして床に落ちているものを取り除いた上で、尻尾部であるサイクロン式掃除機を稼働させる。

 これを使い、歩いたあとの畳の上のほこりを吸引する。


 天井の全方位モニターと空気清浄機能のセンサー情報を頼りに、動作対象エリアに指定された6畳の上をきれいにしていく。


 だが、それらを起動させっぱなしにするほどに、内蔵電力が減衰していく。

 一歩歩くごとに減る残電力量のパーセンテージ。


 動作対象エリアの掃除と空気清浄が完全に終了すると、残電量は66%ほどになっている。

 『私』は、

「指定されたお仕事を成し遂げました」

 と音声出力し、充電ホルダーユニットに戻った。


 稼働状態が自動でオフに切り替わり、センサー類の通電が切れる間際、おじさんの

「動作確認、よし」

 という声が聞こえた気がした。


 『私』は家事支援ロボット、商標名『セバスチャン』。

 これは、累計出荷台数300万台以上の、『私』たちの話だ。

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