第5話 その先へ


 だとしたら嬉しい誤算だ。

 同じスキルが合わさって上位のスキルにレベルアップする。

 それは獲得したスキルが被ってしまっても無駄にならないということ。

一気に効率が上がるし、意欲も上がる。

これが有るか無いかでは大きな違いだと思う。


 そうと分かれば続きだ。


 スキル奪取を再開した俺は、ウインドスラストを使い、次々と死体を撃ち落として行く。

 その度にスキルも増え、作業効率も上がる。

 気が付けば、数時間で百体以上あった全ての死体からスキルを奪うことができていた。


「ふぅ……思ってたよりも早く終わったな」


 俺は一息吐くと、改めて所持スキルの一覧を確認してみることにした。


 自分が使えるスキルは無意識下に記憶されていて、歩くことと同じように忘れることはないのだが、どれぐらい強くなったのか客観的に見てみたいと思ったのだ。


 スキルの表示を意識する。

 すると眼前に羅列された文字の塊が浮かび上がった。


[所持スキル]

 剣術・上級(武芸スキル) 槍術・上級(武芸スキル) 投擲術・上級(武芸スキル)

 斧術・上級(武芸スキル) 体術・上級(武芸スキル) 弓術・上級(武芸スキル)

 見切り・上級(武芸スキル) 連撃・上級(武芸スキル) 威圧・中級(武芸スキル)

 窃盗・初級(武芸スキル) 狙撃・中級(武芸スキル)

ブラスト(風魔法スキル・初級) ウインドスラスト(風魔法スキル・初級)

スラストファング(風魔法スキル・中級)

クリアランドテンペスト(風魔法スキル・上級)

 ファイアボール(火魔法スキル・初級) バーンブレイズ(火魔法スキル・中級)

 エクスプロージョン(火魔法スキル・上級)

 ウォーターバレット(水魔法スキル・初級) アシッドレイン(水魔法スキル・中級)

 メイルシュトローム(水魔法スキル・上級)

 アースウォール(土魔法スキル・初級) アースクェイク(土魔法スキル・中級)

 サンダー(雷魔法スキル・初級) ライトニングアロー(雷魔法スキル・中級)

 ブリザード(氷魔法スキル・初級) アイススピア(氷魔法スキル・中級)

ダークミスト(闇魔法スキル・初級) ブラックアウト(闇魔法スキル・中級)

魔法付与・上級(付与スキル) 強靱化・上級(付与スキル)

身体能力強化・上級(付与スキル)

測量・初級(生産スキル) 裁縫・初級(生産スキル) 料理・中級(生産スキル)

採取・中級(生産スキル) 死霊使い(特殊スキル)


 こうして見ると、かなりの量だ。

 死霊使いのスキルしかなかった時から比べたら恐ろしいくらいに。

 しかし、百体以上から奪った割には少ないと感じるのも正直な所。


 その理由は被りが多かった事と、ほとんどが初級スキルだった事にある。

 加えて、初級スキルは同名を二つ併せることで中級へとランクアップしたが、上級にランクアップするには中級が十個必要ということも大きく影響していた。


それと、おかしなことに光属性の魔法スキルが一切、奪取できなかったことも気になる。

 死体の中には聖職者クレリックもいたが、そこからはほとんどスキルを得られなかった。


 これは俺の推測だが、ヴァニタスから貰った力が邪竜が故に闇の色が濃く、光の力を受け付けないのではないか? という事。

 もう一つの仮説は、そもそも俺自身が死霊使いという闇属性の人間であるという事。

 若しくは、その両方の可能性も。


 とはいえ、一人でこれほど多くのスキルを持っている人間は他にはいないだろう。

 普通の冒険者は多くて五つくらいだからな。


 強さだけでいったら、俺はもう一流冒険者の域を超えているだろう。

 だが、復讐を為すにはまだ足りない。


アルバン達は、生まれながらに超級スキルやユニークスキルを持つ、いわば規格外の存在だ。そんな奴らに〝勝つ〟には、もっと強くならなければ……。


 いや、〝勝つ〟とかいう小綺麗なものじゃない。

 奴らを力で捻じ伏せ、恐怖と苦痛で支配する。

俺が味わった絶望を何倍にもして返すのだ。


 それには奴らを遥かに凌駕する圧倒的な力が必要だ。

 幸い、この腕にはそれを叶えるだけの力がある。


 俺は自身の骸腕を見つめ、ほくそ笑む。


「その為にも、まずはこの谷から脱出しないとな」


 死体は粗方、漁った。もうこの谷には用は無い。

 あとは上で、更により多くのスキルを吸収していくだけだ。


 問題はこの岩壁をどうやって登るかだが……。


 俺は谷底から岩壁を見上げた。

 遥か先に地上の明かりが見える。


 前に考察した通り、冒険者が邪竜討伐の為にやってきたルートがこの峡谷のどこかにあるはず。

その道を探しても良いのだが、これだけのスキルを得た今、そんな面倒な事をしなくても登れる方法があるんじゃないかと思ったのだ。


何かこう……魔法や付与スキルを組み合わせて、駆け上がれたりしないものか……。


 改めて、ずらっと並んだスキルを確認してみると――、


「ん……これと、これが、使えそうだな」


 目星を付けたのはアースウォールと身体能力強化のスキル。

アースウォールは地面から板状の土壁を作り出し、攻撃から身を守る魔法だ。

 今回はそのアースウォールを谷の内側の壁から水平に発生させ、そいつを足場にして、身体能力を強化した脚で駆け上がることにする。

シンプルだが、現実味のある方法だと思う。


 その案に決めると、実際に登る場所を確認する為に適当な壁に近付き、見上げてみる。

 遥か先に一点の星のような外界の光が見える。

周囲には魔法を発動した際に邪魔になりそうな障害物はない。


この場所で問題無さそうだ。


 そう思って、そこでスキルを発動させようとした時だ。

 何かを踏んでいる気がして、ふと足下に目をやった。


 横たわるように落ちている長い布。

 それは冒険者のものと思しきロングコートだった。

 しかも極最近のものなのか、然程劣化していない様子で解れや破けなど無く、新品に近い状態。


 勿体ないな……。


 そこで自分の腕に意識が行く。

 俺が今着ている服は、右袖が破けてしまっていた。

ヴァニタスに腕を持って行かれた際に袖ごと食われてしまったからだ。


 このまま地上に戻ったら、さすがにこの腕は目立つよな……。


 そう考えたら答えは決まっていた。

 俺はコートを拾い上げると、泥を叩いて羽織る。


 サイズはぴったりだ。

 形もなかなか格好いい。


 胸ポケットには手袋が刺さっていたので、それも嵌めてみる。


 こっちも丁度良い。

手も隠せるし、いいじゃないか。


 俺は襟を正して気持ちを切り替えると、ここを脱出する為の準備に取りかかる。


「よし、やるか」


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