第28話 年下だからってあんまり揶揄わないでください……。

※幸村視点(一人称)に戻ります。


 俺たちの合コンは、盛り上がっていないというわけでもなく、だからと言って、陰気な感じでもなく、なんとも微妙な塩梅だった。


 まぁ、友人Pの奴が異常に一人で盛り上がっているし、Pが楽しんでるのなら上手くいってると言えなくもない。


 ……そんなことを考えていたら、俺の隣に座っていた元女子バスケ部の近藤先輩(女子サイドの幹事でPが土下座して合コンを頼み込んだ相手だ)が俺に耳打ちしてきた。


「ねぇ、斑鳩いかるがくんってさ、彼女いるの?」


 彼女なんているわけがない。というか、いたら合コンに来ちゃダメなんじゃないか?


「いないっすよ。残念ながら彼女いない歴イコール年齢っすねー」


 先輩に耳打ちで返せば、さらに彼女が俺の耳に口を近づけてくる。

 彼女いない歴イコール年齢ならドキドキするところかもしれないが、申し訳ないことに特に何も感じない。こんなの三姉妹で慣れっこだ。


「じゃあさ、私、斑鳩くんの彼女に立候補しちゃおっかな? 知ってる? 初めては年上の方が良いんだよ?」


 流石は大学生。展開が早い。だが、急にそんなことを言われても困ってしまう。


「あー、いやー、そのー」

「いいじゃん。私と付き合おうよ。彼女いないんでしょ?」

「まー、あれっすね。どうなんすかねぇ?」


 告白されたのなんて初めてのことで、どう答えたものかと真面目に思案していたら、タイミングが良いことに歌が終わり、盛大な拍手が小さな部屋に鳴り響いた。


(取り敢えず、助かったか?)


 ……と思ったんだが。


「なんかさぁ。意外と斑鳩くんって優柔不断ってやつ? もっと男らしいのかと思ってた」


 ゆ、優柔不断……っ! 言葉の刃物が心にザクーっ! 俺は致命傷を負った……。


「……俺としては真剣に考えてただけなんすけど」


 まぁ、真剣に考えてたと言っても「どうやって穏便に断るか?」をだが……。


「でもさ、付き合うほどの魅力が私にはないんでしょ? 顔にそう書いてあるよ? だったらキチンと断って欲しいかなー。それともキープする? もしくは都合の良い女にするとか? 別に私はそれでも良いけど」

「…………」


 たとえ本人が良くても、倫理的に良くないわな……。


「……ごめん、ごめん。冗談だよ。本気にしちゃった? 斑鳩くんってば可愛い〜」


 さっきまで真剣な面持ちだったのに、一転して先輩がニヤニヤと楽しそうに俺を見つめている。

 どうやら先輩は俺を揶揄からかっていただけみたいだ。


(なんだよ……マジメに考えちまったじゃねぇか)


「何なんすか。揶揄わないでくださいよ。ビックリしたじゃないですか」

「あれれ? もしかして怒ってる? 可愛い〜っ!」


 先輩が俺の頭を撫で回してくる。俺は完全に子ども扱いで、先輩の手のひらの上で転がされている感じだ。


(まぁ、大学生からしたら高校生なんて子どもみたいなもんだろうし、仕方ないか……)


「男に可愛いはやめてくださいよ。ちょっと傷つくんで」

「えー。ホントに可愛いんだから、しょうがないじゃん」


 そんな感じで延々と先輩に頭をワシワシされていると、いきなりPに肩を叩かれた。


「幸村さーん? もしやカップル成立? なんだよ、チクショー。乗り気じゃなかったくせによ〜」

「違うって。俺は揶揄からかわれてるだけだ」

「へいへい。さいですか。俺ちょっとトイレ行ってくるからどいてくれ」


 いつもの調子で絡んでくるのかと思いきや、すんなり引いた。たぶん漏れそうなんだろう。


 俺が腰を引き、机との間に隙間を開ければ、素直にPはドアに向かって歩き出す。

 そして、Pがドアノブを捻り、ドアを少し開けた瞬間、ガンと外側から何者かに引っ張られたようにドアが閉まった。


「なんだ、今の!? あれっ!? 開かねーぞ、おい! ふぬぬぬっ!」


(今、外に弥生いなかったか? ていうか、確実にいた……。まったく、弥生の奴、こんなところまでわざわざ風紀を守りに来たのか……)


「はぁ? 開かないわけないだろ? たぶん引くんじゃなくて押すんだよ。どけ。俺が開けてやるから」

「いやいや、引くタイプだって。どう見ても引くタイプだって」


 Pに言われなくとも、それはわかっている。


 合コンを監視していたのがコイツらにバレたら弥生が気まずい思いをするだろうから、彼女が逃げる時間を稼ごうと思っただけだ。


「いいから、お前は少しどいてろ。今から押すからなー! よいしょー、どっこらしょー」


 たぶん俺は合コンメンバーから変な奴だと思われているに違いない。引くタイプのドアを必死に押す、なんて滑稽この上ない。ただのアホだ。


(そろそろ逃げたか?)


 そして、滑稽な姿を存分に見せつけてからドアを引き開けてみれば、無事に逃げられたようで弥生の姿は消えていた。


「な? 開いただろ?」

「『な?』じゃねーよ。お前、馬鹿だろ? いや、馬鹿そのものだな! バーカバーカ! やっぱ引くタイプじゃねーかっ! バーカ!」


 ここぞとばかりに馬鹿にしやがって……。ここまでPに馬鹿にされる日が来るとは思わなんだ……。


「いいからトイレにさっさと行ってこいや」


 「馬鹿に言われなくても行くよ」と嫌な返事をして、トイレに向かったPを見送りながら思う。


(弥生がいたってことは三姉妹アイツらも来てるんじゃないか? ……まさか乱入してこないよな?)

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