第25話 追跡(三人称視点)

※今回のお話は主人公不在のため三人称視点になります。


     〜三姉妹協定第三条〜


       外敵の徹底排除


 悪い虫が寄り付かないように一致団結してユキにぃを守ること!


◇◆◇◆◇◆◇◆


 鰐淵わにぶち主催の合コンが開催される当日の朝。

 斑鳩いかるが家リビングには三姉妹の姿があった。


 今、彼女たちは、都合四十二回目となる三姉妹会議を開催しているのだが、どうにも意見がまとまらず三人して考え込むように腕を組んで天井を見上げている。


 そんな静寂のおり、雛花ひなかがこう口にした。


「話は変わるんだけど、さっきユキにぃの部屋を覗いてたらね、なんかクローゼットから服を取り出して並べてたの。怪しくない?」


 本日、幸村ゆきむらは合コンのため、服を選んでいただけなのだが、彼女はそこに思い至らない。


 幸村が自分たちの説得を諦めたため、「ユキにぃは合コンに行かない」と彼女は勘違いしているのだ。誰もとは一言も言ってはいないのに……。


「ヒナちゃ〜ん? 許可なくユキくんの部屋を覗いちゃダメよ〜?」

「あ、アヤお姉ちゃんっ! それはゴメンなんだけど、今はユキにぃの話だよっ。ユキ兄の話っ! あのユキ兄が服選びしてるんだよ? 絶対なにかあるよっ」


 また尻でも叩くつもりか、彩花あやかが隣に座っていた雛花の肩を掴む。

 雛花も尻叩きは御免なのだろう、必死に話を戻そうとしていた。


「でも、たしかに変ね。ユキは服に興味なんかないはずだし……。まさか、デートっ!? アヤ姉……。ヒナ……。アンタたち、抜け駆けしたんじゃないでしょうね?」


 絵梨花えりかの推測は実情と近しいものではあるが、幸村が行くのはデートではなく合コンだ。


「してないよ! 抜け駆けなんてするわけないよ! それだったら、ユキにぃが怪しいなんて、わざわざ言うわけないでしょ!」

「わ、私でもないよ。お姉ちゃんだって抜け駆けなんてしてない!」


 どの口が「抜け駆けしない」などと言えるのか、といったところではあるが、さておき、三人が互いの表情を探り合う。


 そして、絵梨花があごに手を当て数秒、結論を出した。


「三人とも違うってことは、デートの相手は弥生ね。私たちがしっかりガードしてるから、ユキには弥生しか女友達がいないもの。それしか考えられないわ」


 実は、幸村に女友達がいない主な原因は、体臭ではなく、この三姉妹ガードにある。


『斑鳩幸村に接触すると大変な目に遭う可能性が高い』


 これが、年月を掛けて自然と成立した女子たちの間にある共通認識なのだ。


「なんで弥生のお姉ちゃんがユキにぃとデートするの? おかしくない?」

「それは、確かめれば、すぐにわかることよ」


 そう言って絵梨花はスマホを操作し、弥生へ電話を掛ける。

 その時、リビングのドアが開かれ、幸村が姿を現した。


「俺ちょっと出掛けてくるけど、絶対に俺の跡つけてくんなよ? 絶対にだぞ」


 言うや否や、返事も待たずに幸村はドアをパタンと閉める。

 タンタンと足音が遠のき、そして、バタンと玄関のドアが閉まる音。


「ちょっとエリカちゃん! ユキくんが出掛けちゃったよ!?」

「待ってよ、アヤ姉っ。今、弥生に電話してるからっ」


 そして、大体二十コール目あたりだろうか、やっと弥生との通話が繋がったのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 弥生から事情を聞いた三姉妹たちは、幸村が合コンをしていると思しきカラオケ店へガタンゴトンと電車で揺られながら向かっていた。

 もちろん弥生も引き連れて……。


「で、ユキが合コンに向かったっていうのは本当なのね?」


 絵梨花の確認に弥生が首肯しゅこうする。ほぼ確。そんな表情だ。


「ええ、おそらく。鰐淵わにぶちさんが可哀想なので行くことにした、と昨日ユキさん本人の口から聞きましたから。本当はエリカさんたちに言うなと口止めされていたんですけど……」

「も〜、行かないって私たちには言ってたのにっ」


 再三だが、行かないとは誰も言っていない。幸村は説得を諦めて黙って行くことにしただけだ。


「そう怒らないであげてください。ユキさんは下心があって合コンに行くわけではないんですから。やましい気持ちは少しもないと言っていましたよ? 私は、あの時のユキさんの真っ直ぐな瞳を信じています」


 ここで、二人の話に彩花が割って入る。


「でも、ユキくんに下心がなくても相手にはあるかもしれないよ? きっと相手は肉食系女子だと、お姉ちゃんは思うの。だって、合コンするような子たちだもの」


 彼女は幸村の身が心配で心配で堪らない、といった表情だ。

 まぁ、事実として、彼女は幸村が心配で堪らないのだか……。


「それはそうですが……。ところで一つお伺いしたいのですが、私たちは、ちゃんと合コン会場に向かっているんですよね?」

「大丈夫、安心して。私のスマホにはユキくん見守り機能が付いてるから」


 心配する弥生に彩花がスマホの画面を見せつければ、そこには、小さなお子様や年老いた両親の安全を守る目的で開発されたであろう、いわゆる見守りアプリが表示されていた。


「それは……とても……安心ですね……」


 彼女の幸村への執着心に、ほんの少しだけビビってしまった弥生であった……。

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