第21話 いつもはベタベタに構ってくるのに、なんでこういう時だけは無視するんですか……?

 男子高校生が単独で部屋に籠って夜な夜な行う如何わしい行為の存在を、無垢なヒナに隠し通す事が出来た。

 これは全て、ヒナ同様にエリカも無垢であったおかげだ。


「そんな訳だから部屋に鍵くらい付けたいんだよ」

「ヒナはユキにぃが一人でキメ顔してても気にしないよ? 気にしないっていうか、見てみたいっ!」


「嫌だよ。あのな? ヒナが気にしない、とかじゃなくて、俺が見られたら嫌なんだって。恥ずかしいじゃねぇか」

「ぶーぶー。ユキにぃのけちー」


 よしっ! これで上手く話を誤魔化——。


「ふふっ。一人で『キメ顔探し』なんて、若い頃のお父さんと同じね。てっきりお母さんはユキちゃんが部屋でオナ——」

「母さーーーーん!!!」

「ど、どしたの、ユキちゃん!? 急に大きな声なんか出して」


(どしたの? じゃない! 何を娘たちの前で口走ろうとしてんだよ、母さんはっ! 叫んで無ければ危なかったぞ!)


「……ご、ごめん。なぜか急に母さんって叫びたくなっちゃってさ。何でだろうね。不思議だなぁ〜」


(ホント何で俺が叫ばなきゃならないんだよ。三姉妹会議って……疲れる)


「ユキちゃん……。もぅ、まだまだ子供なんだから〜。大丈夫よ。お父さんと違って、お母さんはどっかに行っちゃったりしないから」


 わざわざ母さんが俺の近くまで来て、優しく俺の頭を抱きしめる。

 高校生の息子にすることじゃないが、引き剥がそうと暴れても、余計にホールドされるだけだ。このままでいるしかない……。


 それに、どうせ少し待っていれば、アヤ姉が母さんを引っ剥がしてくれるはずだ。


「はいはい。いい加減、お母さんも子離れしましょうね〜」

「あぁぁ、ユキちゃ〜んっ」


 予想通り、アヤ姉が母さんを引っ剥がしてはくれたが、相変わらず、アヤ姉の表情は少し怖い……。

 言葉は柔らかく、口元には笑み。だが、瞳孔開き気味で、キチンと目が据わっている……。


「……ありがと、アヤ姉」

「いえいえ〜。ユキくんを守るのがお姉ちゃんの役目なのでー」

「え? ああ、うん」

(どちらかと言えば、アヤ姉は俺を攻めてくることの方が多くないか? 性的な意味で)


「じゃあ、ユキくんの意見も聞けたことだし、そろそろ決を取りましょ〜」

「……え? もう? あの、アヤ姉? 俺、まだ意見できた気がしてないんだけど……」


「では、ユキくんの部屋から鍵を取り外すことに——」

(……え? ……無視?)


「——賛成の人〜?」

「「「は〜いっ!」」」


「…………」


「反対の人〜?」

「……はい」


 こうして、今回も俺の意志は数の暴力によって軽く踏みにじられた。


(すぐに諦めた俺も悪いけど、この議決方式には欠陥があるんじゃないっすかねぇ?)


◇◆◇◆◇◆◇◆


 そして、翌日のお昼休み。


「——というわけでさぁ。ソイツ、結局、鍵を取り外されちまったらしいんだ。せっかく一番高い鍵を買ったってのに可哀想だよな〜」


 俺は今、学校で弥生に俺の身に昨日起きた事を、まるで友達に起きた事かのように報告している。

 弥生が教えてくれた解決策なのだから念のため作戦の失敗を伝えておこうと思った、という次第だ。


「そうですか。それは、その方も残念でしたでしょうね。ですが、それだけ愛されているという事ですし、あまり強く怒る訳にもいきませんよね」


「そうなんだよ。そこが問題なんだよ。アイツらに悪気はないし、何なら良かれと思ってるフシすらあるからな。……あっ! 念のために、もう一回言っておくけど、これは友達の話な」


「そう何度も言わなくたって、ちゃんとわかってますよ。友達の話ですよね、友達の。……でも、難しい話ですよね」

「まぁな。……あ〜、どうすっかなぁ」


 こうして、新たな解決策も見つからないまま教室で椅子を何となくキーコキーコと座りながら前後に揺らしていると、友人Pがニヤケ顔で俺たちに近づいてきた。


「幸村ぁ! 良いこと教えてやんよ!」


 どうせコイツの良いことなんてしょうもない事だろう……。


「なんだよ? ニヤニヤしやがって」

「聞いて驚け! わたくし鰐淵桃李わにぶちとうりは——」


 その後に続いたPの言葉に、俺は腰を抜かすほどの衝撃を受けることになるのだった……。

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