第17話 弥生は少しだけ欲張りたいみたいです……。

 弥生は深々を頭を下げた後、すぐさま命令を下した。まるで命令も命令する相手も最初から決めていたように……。


「四番の方。私を家まで送ってください」

「え? 弥生。そんなんでいいの? 別に家まで送るくらい命令されなくたってするわよ?」


 エリカの言うことはもっともだ。そもそも最初から俺が家まで送り届けるつもりだし……。


「では、手を繋いで……なんて。……すいません。何でもありません。そんなの、ダメですよね……」


 まぁ、手を繋ぐくらいどうってこともない。


 接吻しろだ、胸を揉めだに比べたら、可愛い命令。そんなに縮こまって謝ることでもない。


「弥生がいいなら、それでいいんじゃね。それじゃ、行くか」


 立ち上がって、四番と書かれた棒をテーブルに置き、弥生に手を差し伸べる。

 少し躊躇いがちに彼女が俺の手を取った。


「げっ! 四番ってユキなの?」

「何だよ、エリカ。誰が四番でも、夜道を女だけで歩かせるわけにもいかないし、どうせ俺もついて行くんだ。むしろ、丁度いいだろ」

「でも、手を繋ぐのは……」

「お前ら姉妹も、しょっちゅう繋いでるじゃねぇか」


 ……などと悠長に会話をしていたら、あいていた右手をヒナに握られてしまった。


「そーそー。手を繋ぐくらい普通、普通」

「何だよ、ヒナ」

「ヒナも送ってくの。ユキにぃが心配だもん」

「いいけどさぁ。少しは兄の力を信じろよ。夜道くらい、なんでもないって」

「ちゃんと信じてるよ? でも、念のため監視員は必要なので」


 何を監視するんだか知らんが、どうにもヒナは付いてくる気のようだ。


「しっかたないわねぇ。なら、私も行くわよ」


 今度はエリカが弥生のあいていた手を握る。


「え? じゃあ、お姉ちゃんも行くー」


 最後にアヤ姉がヒナの手を握り、全員が繋がった。


「結局、全員で行くのかよ。まぁ、いいけどさぁ」


 こうして、俺たちは若干カオスを感じる状態のまま弥生を家まで送り届けることになった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 よく「みんなで手を繋ごう」みたいな歌詞があるが、公道でやるのは、あまりオススメしない。なぜなら、だいぶ他人様の迷惑になるからだ。


 横一列で手を繋ぎながら歩く高校生の集団を周りはどう思っているんだろうか?

 まぁ、大方アホの集団と思われているんだろう。そして、俺が中央にいる訳だから、俺がアホの首魁と思われているに違いない。


 だが、少し待って欲しい。


 どちらかと言えば、アホの首魁は端っこで、よくわからん発言をしているアヤ姉だ。


「いや〜、それにしても、ヒナちゃんを通してユキくんの温もりを感じるね〜。……あったかーい」

「アヤお姉ちゃん。たぶん、それ全部ヒナの温もりだよ?」

「違うよ? 今、ユキくんの体の熱量がヒナちゃんに移動してるの。で、それがヒナちゃんを通してお姉ちゃんまで届くの。つまり、これは間接的にユキくんの温もりなんだよ?」


「ユキにぃから貰った温もりがアヤお姉ちゃんのとこに行っちゃってるってこと? んん〜っ。難しいすぎて、ヒナわかんないよー」

「だからね。こういうことなの——」


 ヒナじゃなくても、アヤ姉が提唱する温もり伝播理論は難解すぎて誰もわからんだろう。俺だってわからん。


(まぁ、アヤ姉たちは放っておこう……。そんなことよりも——)


「なぁ、弥生。実は少し気になることがあるんだけど、聞いてもいいか?」

「はい? 何でしょうか? 何でも聞いてください」


 俺が気になっていること。それは——。

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