第15話 弥生を協定に参加させてやって下さい……。

 弥生は顔色を一つも変えることなく言い放った。


「では、その協定に私も加えていただけませんか?」


 地球上で我が家の時間だけが止まる。


「な、何言ってんのよ! ダメよ! ダメに決まってるじゃない!」


 最初に動いたのはエリカ。エラい慌てようで机をパンパンと叩いている。


「弥生ちゃん、ゴメンね。これは……その……ユキくんをシェアするって協定だから……。仲間外れにするとかじゃないのよ?」


 次にアヤ姉が動く。断ってはいるものの、なんとも浮かない表情だ。


「え……? なんで?」


 最後にヒナが呟いた。俺を含めた四人の視線が弥生に集中する。

 そこで弥生が無機質な表情を崩した。


「……あの……すいません。ただの冗談です。忘れてください」


(……なんだ、冗談か)


 ホッと一息。


 たぶん自分の冗談で、これほど場が緊迫するとは思っていなかったんだろう、弥生が沈んだ表情をしてしまっている。


 見ていると、何だか申し訳ない気持ちになってきて、それを吹き飛ばすため俺は大きく笑っていた。


「ハッハッハ! なんだよ〜。ビックリさせるなって。弥生も冗談が上手くなったなぁ」

「も〜、ユキってば何言ってんのよ〜。むしろ下手でしょ、下手。弥生もいきなり驚かせないでよね?」


 俺に合わせてエリカも笑い出し、一転、場の空気が和み始める。

 少し変な空気になったが、これで一安心だ。


「すいません。たまには冗談でも、と思ったんですが、どうやら私には向いていないみたいですね」

「そんなことないよ。こう、ニコ〜って笑いながら言えば伝わると思うよ?」


 手本を見せるようにアヤ姉が笑顔を作れば、真似するように弥生が薄く笑う。


「出来てますか? 笑うのは苦手なので自信がないです」

「出来てる! 出来てる! すっごく良い笑顔になってるよ〜」

「いやいや、もっと口角を上げた方がいいんじゃないのかなぁ? こんな感じで〜」


 せっかく良い感じの笑顔だったのに、ヒナの奴が手を伸ばして、弥生の口を無理やり持ち上げたせいで、美少女の微笑が台無しになってしまった。


「なんで、お前は人の顔面すぐ弄るんだよ。やめなさいって」

「えーっ。善意なのにー」

「善意なら何してもいいわけじゃねーの」

「ユキさん。気にしないでください。むしろ、楽しいくらいなんです。仲の良い姉妹が出来たみたいで……。私は一人っ子ですから……」


 今度は作り笑いなんかじゃなく、弥生が目を細め、口角を上げている。


(この感じだと、さっき三姉妹協定に参加したいって言ってたのも、あながち冗談ってわけでもないんじゃないか? ただ、もっと三姉妹と仲良くなりたいってだけなんじゃないのか?)


「なぁ、三人とも。弥生を三姉妹協定に加入させてやったらどうだ? 俺をシェアするって話は、この際、脇に置いておいてさ」

「え? ユキさん……」


 まさか、そんな提案が俺から出るとは思っていなかったんだろう、弥生が目を丸くして俺を見つめている。


「ほら、弥生は人に気を使うタイプだろ? 冗談なんて言ってたけど、きっと本当はもっと三人と仲良くなりたかっただけなんだよ。……まぁ、お前らがどうしても嫌だって言うなら仕方ねぇけど」

「ユキにそう言われちゃうと……。私だって弥生のことは大好きだけど……」


 普段は少し騒がしいけど、エリカは素直で良い奴だ。

 それに、ヒナやアヤ姐だって弥生を邪険にするような悪い人間じゃない。


「まぁ、ユキにぃのことは別って言うんなら、ヒナは反対はしないよ? ……ヒナも弥生のお姉ちゃんが大好きだし」

「そうね。お姉ちゃんたち、ちょっと弥生ちゃんに可哀想なことしちゃってたのかも……。ゴメンね? 許して?」

「……二人とも良いのね? ……なら私が反対したって意味ないじゃない。三姉妹会議は多数決が原則だもん」


 三人の意見がまとまった様子。何だかんだ言っても、やっぱりコイツらは優しい。


「よしっ! じゃあ、決まりだ! 弥生も今日から三姉妹協定の一員だな! ということは、もうウチの家族みたいなもんだな!」

「……本当に良いん……ですか?」

「コイツらが良いって言ったんだから、当然、良いに決まってんだろ」


 戸惑う弥生に大きく頷けば、アヤ姉も、ヒナも、ニコリと笑って同じように頷いてくれた。


「あの……。不束者ふつつかものですが……宜しくお願いします」


 弥生が立ち上がり、大きく頭を下げていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「……で、良い感じで話がまとまったのに、まだやるのかよ」

「当ったり前でしょ。王様ゲームはまだ終わんないわよ? 次は恥ずかしがらせてやるんだからっ! 覚悟しなさいよ、ユキ!」

「はいは〜い。じゃあ、皆、引いて下さ〜い」


 目の前で当然かの如くアヤ姉が束ねたアイスの棒を差し出している。


 どうやら、もう少しゲームは続くみたいだ。

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