第10話 もしや俺の部屋ってそんなに臭いんですか……?

     〜三姉妹協定第五条〜


       騎士道的精神


 ユキと王様ゲームをする時はズルをせずに、正々堂々と戦うこと!

 ユキと一緒にゲームを楽しむことが何よりも大事!


◇◆◇◆◇◆◇◆


「あの〜、俺が王様みたいなんだけど……」


 おずおずと手を上げてみれば、「おーさま」となった俺に四人の視線と言葉が集中する。


「ユキく〜ん。最初だからって遠慮しなくてもいいよー。ガンガン行こー。ガンガ〜ンっ」


「ユキ! 変な命令出したらダメなんだからねっ。特にエッチなやつは絶対にダメっ。絶対にダメよ! 絶対に!」


「ヒナの番号は二だよ〜っ」


「最初はユキさんですか……。少し安心しました。エリカさんでしたら、何を命令されるか分かったものではないですからね」


「いや、一気に話し掛けないでくれよ……」

(今なんか自分の番号を申告してる奴がいなかったか?)


 同時に話し掛けられて、一瞬、脳がパンクしそうになったが、取り敢えず腕を組み天井を見つめながら考える。


(何を命令したもんか? まさか最初から王様になるとは思っていなかったから何も考えていない……。というか、そもそも、なんで俺がそんなことを真面目に考えにゃならんのだ?)


「ユキにぃ、早く〜っ」


 少し時間を使っただけなのに、ヒナがそう急かしてくる。せっかちな妹だ。


(まぁ、いいや。テキトーに命令するか)


「……じゃあ。そうだなぁ、二ば——」


 その時、トントンっとテーブルを叩く音が耳に入り、音のした方を見てみれば、なぜかエリカがテーブルの上に乗せた両手をカニのハサミみたいな形にしていた。

 そして、チョッキン、チョッキンと指を動かしながら、俺に視線を送ってくる。


「コホンっ……」


 実にわざとらしい咳払い。


「え? なに?」

「あ〜、コッホンっ!」


 よく分からんが、エリカは俺に何かを伝えようとしている。


(……もしかして、自分が二番だって伝えたいのか? いや、両手だから四番か? ……仕方ない。取り敢えず、二番と四番はやめておこう)


「それじゃあ、いちば——」

「あ〜っ! 目にゴミが入っちゃったよ〜。イタイ、イタイっ」


 今度はアヤ姉か……。


「一回、洗ってくれば?」

「それは大丈夫。痛タタ〜。にゴミが入ってるからが痛いよー」


 俺としては、一応、アヤ姉に気を遣ったつもりなんだが……。


(いったい何だ? 何のつもりだ? そんなに痛いなら洗ってくればいいじゃないか!)


 理解不能なアヤ姉の行動に困惑するも、その時、俺はハタと気づいた。

 アヤ姉のが一定のリズムを刻みながら開いたり閉じたりしていることに……。


——とん、とん、とん、ツー、ツー。

——とん、とん、とん、ツー、ツー。


 これは……まさかモールス信号か?


 ……解読してやりたいが、すまない。俺はモールス信号なんて知らん。


「え〜と、じゃあ、一番の人。俺の部屋からスマホ持ってきて……」


 俺のつまらない命令に場が盛り下がる気配を感じた。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 結局、一番は弥生で、彼女は命令を遂行するため俺の部屋に向かった。

 そして、いつまで経っても全然戻ってこなかった……。


「もしかしてだけど、ユキにぃのスマホ、見つからないのかな〜? どこに置いてあるの?」

「いや、普通に机の上にあるはずだから、すぐ見つかると思うんだけど……」


 リビングに来る前、自室の机でスマホを弄っていた覚えがあるから間違いない。


「たぶんユキくんのお部屋で失神しちゃってるんじゃないかな? たまに私でもユキくんの部屋に入るとにおいでクラっとすることあるし。慣れてない弥生ちゃんじゃ無理ないかも」

「……え? 俺の部屋って……アヤ姉が眩暈めまい起こすほど……臭いの?」

「そういう意味じゃないよー。良い意味で眩暈めまいがするだけだよー」


 眩暈に良いも悪いもないだろうに……。もしかしたら、アヤ姉の嗅覚が異常なだけなのかもしれないけど、かなりショックだ……。


(あとで消臭剤、買わなきゃな……)


「ちょっと俺が弥生の様子を見てくるよ。……ついでに窓を開けて部屋の換気もしてくる」


 弥生が部屋で失神していないことを祈りながら、俺は自室へと向かった。


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※現在の季節がわかるよう、第二話に一文挿入しました。現在は六月です。

             ——九夏なごむ

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