第15話 『不法侵入という名の家宅捜査』

          15.不法侵入という名の家宅捜査



「おい羊野、早くしろ。こんなのがもしばれたらまた始末書ものだぞ。何の連絡も入れてはいないから当然赤城先輩にも怒られるだろうし、なぜ無断でこんな事をしないといけないんだよ。ちゃんと相手にも断って堂々と捜索した方がいいんじゃないのか」


「そうなんですが、特に差し押さえによる令状を取る時間は私達には当然無いですし、もたもたしているうちに大事な証拠の品を隠されてもしたら正直堪りませんからね。だからこうやって抜き打ちで家宅捜索をしているんじゃないですか。私たちの意図が相手側にけとられないようにするための対策です。少なくとも犯人は二人は必ずいるんですから、その正体がまだはっきりしない以上こちらも手段を選ばずにしらみつぶしに探すのもまた一つの手ですよ。私が疑っていた岩材哲夫さんのお部屋の中はもう既に調べて来ましたが、犯人に繋がるこれといった物はありませんでした。ならもう一つの可能性から導き出された疑わしき探し場所はもうここしかないでしょ!」


「確かにそうだが、お前……用があるとか言っていたがまさか無断で岩材哲夫の部屋やこの場所に忍び込んでいたのか。でも岩材哲夫の部屋の鍵は一体どうしたんだ?」


「もうめんどくさいんでフロントの奥にあるという鍵の保管室の窓ガラスを外からかち割って鍵を開けてペンション内の全ての合鍵をゲットしましたわ。そしてこの部屋には鍵のような物はありませんでしたからすんなりと入れました」


「お、お前、なんてことをそれは不法侵入だぞ。確実に後で問題になる行いじゃないか!」


「まあ、幸か不幸かいいタイミングで岩材哲夫さんが行方不明になっていましたので、後で誰かが窓ガラスを壊したことにすればばれませんわ」


「たく、常識破りはお前の十八番だったな。まあ乗り掛かった船だ、俺も手伝ってやるぜ。もうタイムリミットまで明日の一日しかないし、そろそろ犯人に繋がる証拠でも見つけないとな。それに時間切れが来て狂人ゲームに負けたら、罪のない無関係な人達がそのペナルティーとして殺されるのは流石に避けたいからな。更には少しでも怪しいと思う奴がいたらどんな手段を使ってでも調べ上げて狂人・死伝の雷魚の正体を探ってやるぜ!」


「フフフフ、流石は黒鉄さん、飲み込みも理解力も順応性も高いですわね。その息ですわ。それに円卓の星座の狂人が関わる事件なら警視庁の上のお偉い方々がある程度の無茶は揉み消してくださいますから大丈夫ですわ。流石は優秀な日本の警察組織と言った所でしょうか。表も裏側も奥が深いです!」


 時刻は十六時五分。


 晴れだった空を雲が覆い、外の景色がどんよりと曇る中、勘太郎と羊野はペンションの隣に建つ沖縄の海を守る会、池間島支部と書かれてあるプレハブ小屋の二階の部屋の中にいた。その置かれてある男性用の荷物から大島豪の持ち物だと言うことが分かると二人はタンスの中や押入れの中といった所を物色し犯人に繋がる証拠がないかを世話しなく探し回る。


 部屋の中はこぢんまりとしていてあまり物はなかったが、何かの大量な書類や書籍。更には何日分かの着替えといった物がきっちりと整理されており、その慎重さと勤勉さを感じてしまう。


 そんなおじさん臭溢れる部屋の中で彼らの目に最初に飛び込んで来たのは、机の上に置いてあるノート型のパソコンである。


 当然吸い寄せられるかのようにそのノート型パソコンの電源を入れた勘太郎と羊野は大島豪が隠している……かも知れない……犯人に繋がる秘密のファイルがこのPCの中に隠されているのではないかと正直かなり疑ったが、残念ながらそのノート型パソコンの中を開く為のPINパスワードの番号を知らないので、ここは潔く断念をし別のルートから更なる証拠を探す事にしたようだ。


 そんな事もあり最初の段階で肩透かしを食らってしまった勘太郎と羊野は別のルートから犯人に繋がる痕跡や証拠を探るために気を取り直して部屋中を物色して回る。


「俺は、酒蔵の倉庫の中に落ちていた古谷みね子の名刺が流山改造に渡した名刺だという確証を得ることができたからお前の呼びかけにも特に不思議がる事無くここに来たんだが、お前は違うようだな。その感じだと、あの古谷みね子の名刺を見つけた時点で既に行動に移していたようだな」


「あの酒蔵の倉庫の中に部外者の古谷みね子さんが足を踏み入れていたなんてことはまずないでしょうから、誰かがちぎって捨てたと考えるのが普通です。でもそもそもあの酒蔵の中で名刺をわざわざ破いて捨てるような場所ではないですし近くにはゴミ箱のような物もありませんでしたから、名刺を破いてわざわざあの酒樽の前で捨てるのはシチュエーション的にも有り得ない事です。それに名刺をうっかり落としたのなら名刺はそのままの形で残っていないと可笑しいですから、やはり名刺が半分に破られていたと言うことは何かのメッセージ性が高い物と考えます。そしてその何かを知らせようとしていた人物は当然今も行方不明になっている人だと言うことが考えられます。となると、その名刺をわざわざ破いて捨てた人物は流山改造さんであり、古谷みね子の名前が書かれた名刺をわざわざ半分にちぎって酒蔵の倉庫の中の見えにくい所に置いたのも彼で間違いはないでしょう」


「でもそれは古谷みね子が犯人の仲間ではない時の話だろ。あの部外者お断りの酒蔵倉庫の中で古谷みね子が流山改造を襲ったかも知れないじゃないか。だから単純に流山改造が古谷みね子に関わる物をわざと落として犯人が誰かという情報を俺達に知らせようとしていたとも考えられるぜ」


「流山改造さんが都合よく犯人に繋がる物を持っていたらそうしたのかも知れませんが、そんな単純な物ではないと思います。だからこそその名刺の出所をから順序よく探し当てれば犯人に繋がる証拠が見つかるかも知れないと考えたまでですわ。まあ深読みしすぎて何も出て来ない事もあるかも知れませんが、まずは黒鉄さんが疑っているように古谷みね子さんから調べてみる事にしましょう」


「それで、犯人に繋がる証拠のような物は何か見つかったのか。大島豪や古谷みね子も充分に怪しいが、現在行方不明の岩材哲夫や、ペンションから逃走した鮫島海人も充分に疑わしい可能性はある。なにせ鮫島海人にはこれと言ったアリバイがないし、決定的な証拠とも言うべき犯人に繋がる品々が続々と見つかっているからな。これはもう疑う余地はないだろ。しかも彼は今もどこかに逃げているとの事だしな。それに引き換え岩材哲夫の方には犯人に繋がる証拠は特にないし、完璧なアリバイもある。前にも言ったが岩材哲夫をこの一連の事件の犯人だと思うならそのアリバイを崩さない限り白である事は変わらないと言うことだ。そこの所はどう考えているんだ。お前が岩材哲夫を犯人だと思うその根拠をいい加減に教えろよ。もう教えてくれてもいいだろ!」


 その勘太郎の言葉に羊野は白い羊のマスクを外しながら少し考えていたが、仕方が無いとばかりに大きく咳き込んで見せる。


「ゴホン、仕方が無いですね。黒鉄さんは本当に気づかなかったのですか」


「気づかなかったって何にだよ」


「ユーチューバーの池口琴子さんが自室の洗面所付近で倒れてお亡くなりになっているその現場に案内をしてくれた時に言っていたじゃないですか。日野冴子さんの死因は『溺死』だって。でもそれって可笑しいですよね」


「ん、何が可笑しいって言うんだよ?」


「だってこの情報を知っているのは第一発見者の池口琴子さんと赤城文子刑事、それに誰も入れないように現場の見張りをしていた沼川英二巡査に、私と黒鉄さんを入れた五人だけ何ですよ。この情報はみんなに口止めをしていて非公開のはずなのに岩材哲夫さんはなぜか浴室で亡くなった日野冴子さんの死因を溺死と答えていた」


「まあ、実際の日野冴子の死因は違うんだからただ当てずっぷに自分の感想を述べただけなんじゃないのか。何事にも思い込みという物があるだろうし……」


「そこです、そこに犯人でなくては知り得ない答えを知っていたからこそ岩材哲夫は日野冴子さんが死亡した死因が溺死だと思い込んでいた要因なのではないでしょうか。その思い込みによる言葉を耳にしたからこそ、岩材哲夫さんが犯人ではないかと思った最初の理由です。なぜなら池口琴子さんが最初に日野冴子さんの自室の浴室で彼女を発見した時に一階の大広間に戻ってきてこう叫んだはずです。『日野冴子さんが浴室で頭から物凄い量の血を流して死んでいる』と。この言葉は当然あの大広間にいた宿泊客の人達は誰もが聞いていた言葉だと思いますから、その死因は当然浴室で頭を打っての脳内出血と出血多量による死亡だと思うのが普通です。ですが岩材哲夫さんはなぜか日野冴子さんの死亡理由は溺死だと決めつけていた。浴槽の中で意識が混濁して溺死したというのならまだわかりますが、日野冴子さんが浴室で頭から血を流して倒れていると慌てふためきながら私たちに知らせに来てくれた池口琴子さんがそうはっきりと言っています。なのでその頭部損傷の情報を知らない岩材哲夫さんが最も疑わしいと思ったまでの事です」


「なるほど、確かに昨日日野冴子の事件が起こった時、岩材哲夫は時々厨房にその姿を消していた。その間、彼が本当に厨房の中で料理を作っていたかどうかは俺たちには知る由もないが、厨房の中にある裏口から外に人知れず回れば、あの銅線がむき出しの電気コードのトリックも人知れず仕掛けて実行をする事もできるし、その後は隙を見てその仕掛けを回収することも厨房にその姿を隠している岩材哲夫なら充分に可能という訳か」


「それに岩材哲夫さんがもしも犯人なら厨房の中から外に出ていた岩材哲夫さんは当然、慌てふためきながら現れた池口琴子さんの言っていたあの『頭から物凄い量の血を流して死んでいます』という台詞も聞いてはいなかったと言うことになります。なので谷カツオさんや花間敬一社長らが事情聴取の際は、日野冴子さんの死因は頭を打っての死亡だと皆がその想像を口にしている中、岩材哲夫さんだけが日野冴子さんの死因は溺死だと答えていた。つまりそれはあの浴室に水が溜まり、その後の電気ショックで気絶をしてその湯船で溺死をするというトリックを知っていたからこそ岩材哲夫さんは何も考えることなくそう答えた物だと推察されます。なので岩材哲夫が犯人である可能性が最も高いと思ったのです」


「確かに池口琴子が、日野冴子が頭から血を大量に流して死んでいると言っていたにも関わらず岩材哲夫はその死因が溺死だと思い込んでいた。という事は、そう思い込む要因や答えを最初から知っていたと言うことだし、池口琴子のあの発言を聞いていなかったのならその死因の読み違いも当然あるだろうな。だって犯人からしてみたら本来の計画では日野冴子は浴室の床に水を溜めてその水で溺死をさせて殺す算段だったはずだろうしな。それなのに思わぬアクシデントで日野冴子は浴室で変な角度で転んでしまい、浴槽のタイルの角に後頭部を強く打ち付けて即死をしてしまった。だから水で息を詰まらせての窒息死をする事はなかった。そしてその事実を知らずにその死因は溺死だと勝手に思い込んでいた岩材哲夫はもう一人の仲間にその事実を確認される事も無く何気なく即答で答えていた。だから彼が怪しいと判断した訳だな」


「はい、そしてその岩材哲夫さんと親しいつながりがある大島豪さんも当然一連の事件に深く関わりがあると思いましたからこのブレハブ小屋もついでに調べてみる事にしました。だってもしもあの破れた名刺が流山改造さんが持っていた名刺だというのなら、その名刺に名前が書かれていた古谷みね子さんの身辺を探れという流山改造さんのダイニングメッセージかも知れませんし、もっと深読みをするのならその近くにいる大島豪さんを調べてくれという関連づけたメッセージなのかも知れません」


「だが仮に岩材哲夫が犯人……いいや、あの円卓の星座の狂人・死伝の雷魚だと言うのならその完璧なアリバイは一体どうやって崩すつもりなんだ。彼には揺るがしようのない完璧なアリバイがあるんだぞ!」


「恐らくはそれがあの死伝の雷魚の正体に迫ることのできない最大の彼の強みだと思われます。そして私達の捜査網や監視があったにも関わらずペンション内から突如としてその姿を消し、その翌朝にはフナクスビーチ側の海で溺死をしていた金丸重雄を一体どうやって私達にばれることなく海まで運ぶ事ができたのか。その経路とトリックが未だに謎のままです」


「確かに、昨日の夜は俺達が総出でフナクスビーチ側に通ずる道路を全て塞いで監視をしていたにも関わらず、その囲いをかいくぐってペンション内の自室で寝ていた金丸重雄を海まで運んでいるみたいだからな。その移動方法が全く分からないといった所か。政治家の金丸重雄は犯人の手により一体どうやって、どんな手口で密かに運び出されたというんだ。本当に謎だらけの怪事件だぜ!」


「冷や汗を掻くくらいに脅威に感じている所を申し訳ないのですが、私達が今重点的に探しているある物を早く見つけてください。恐らくは彼も黒鉄さんと同じように持っていると思われるのですが」


「まさかあれを暗記しているから書いていないと言うことはないよな。もしそうならこの家捜し全てが無意味になってしまうぞ」


「いいえ、あれは必ずあります。もしも時の風化や何かのきっかけで忘れてしまったら大変な事になりますからね。だから大島豪さんは必ずあれに記録を残して置いているはずです」


「まあ、確かに心理的にももし忘れたら洒落にならないだろうから必ずどこかに記録を書いて保存はしっかりとしているんじゃないのか。スマホに内蔵されているメモ機能にとかさ」


「いいえ、それはないと推察します。大島豪さんは極めて神経質で生真面目で心配気質なアナログの人のようですから、柄系の携帯電話が壊れたらどうしようといつも思い悩んでいる黒鉄さんのように必ずあれを残しているはずです」


「はずですと言われてもなぁ……そんな物はどこにも……あっ!」


 クローゼットの中を探しながら数少ない上着のポケットを物色する勘太郎だったがその時硬く分厚く手にすっぽりと収まる長方形の形をしたある物を見つける。


「もしかしてこれがそうなのかな?」


 その手に握られていたのは長方形の形をした黒革の手帳である。その中には重要な顧客や数々の情報がびっしりと書かれてあるページが続くが、そのひっそりと数字が書かれてある一つのページに勘太郎は思わず着目する。


「あった、あった、やはり書いて残していたか。このノート型パソコンの中身を開く為のPIN番号を必ずどこかに残していると俺は信じていたぜ。人はもしもそのパスワードを何かの拍子に忘れたらどうしようという思いが必ずある生き物だから、どこかにその番号を記録をしているという俺達の勘が見事に当たったと言った所か。まあ、中にはそうした行いをしない豪胆な人もいるようだが、このノート型パソコンに重要な情報が隠されていると言うのなら、必ず別のどこかに形としてPIN番号は残して書いてあるという俺達の山が見事に当たったと言うことだな」


「大島豪さんは慎重でこまめで古いタイプの人間だと推察しましたから、必ずメモ用紙のような物に形として残してあると思いました。ですのでこの別荘という名のプレハブ小屋に不法侵入をしたのですが、私の考えが当たってよかったです」


「家宅捜索をするにしても赤城先輩を通じてわざわざ本庁に連絡をしてOKサインを貰ってからでないといけないからその分時間もかかってしまう。でもそんな暇は流石にないからこれでよかったのかもな。まあ、後で家宅捜査の申し出を実は本庁に申請していましたよと言えばなんとかごまかせるんじゃないのか」


「それは流石にごまかせないとは思いますが、この不法侵入のおかげでこの狂人ゲームに勝つ事ができるのですから多少の無茶は本庁のお偉方さんも目をつぶってくれると私は信じていますわ」


「警察が闇の秘密組織と戦う上で実行している国家権力たる闇の部分を信じるか。まあそんな話はともかくとして、この黒革の手帳に書かれてあるPIN番号を打ち込んでみろ」


 勘太郎の言葉に素直に従った羊野は黒革の手帳に書かれてあるPIN番号をノート型パソコンに入力する。するとノート型パソコンの画面が開き、すんなりと中に入ることができた。


「よし、後はそのノート型パソコンの中にある怪しげなフォルダーを探し出して一般会員の情報ではなく、その会員の情報が未公開の秘密の特別会員の情報をファイルの中から引き出すんだ。その暗証番号もこの黒革の手帳に記載されているから打ち込んでみろ」


 その勘太郎の言葉に従い羊野はカタカタと音を鳴らしながらパソコンのキーボードを叩いていくが一つのフォルダーの前でその打ち込みはピタリと止まる。


「これは中々に凝った仕掛けのようですね。このフォルダーには厳重なロックが施されていてパスワードで開くようですが、三回間違った暗証番号を打ち込んだらその時点でそのフォルダーの情報は消えてなくなりますし、更には二十四時間以内に常にこのファイルの中を開かないと自動的にその内容が削除されるような仕組みが組み込まれています。ではこのフォルダーを開くパスワードも入力しますね」


 羊野はにこやかにそう言うと再びキーボードをたたき始める。


「と言うことは例え警察にこのノート型パソコンが没収されてもお役所仕事の警察がこのノート型パソコンの中身を調べる為に中を覗いた時には自動的に情報が削除される仕組みになっているのか。でもそんなシステムを駆使してまで守らないといけない情報とは一体なんだ? まさか警察には到底言えない犯罪まがいの情報がこの中には詰まっていると言うことなのか!」


「ええ、どうやらそのようですわね。フムフム、なるほど、なるほど、そういう事でしたか。黒鉄さん、昨日あなたの聞き込みに対し、補足をするとか偉そうなことを言って揚げ足を取ったことはここで正式に謝らせて貰いますわ。どうやら私は死伝の雷魚が作り出す有り得ないアリバイトリックにまんまと騙されてしまっていたようです。なるほど、確かにこれはある意味最強のアリバイトリックですわね。こんな事をされては流石の私も、いいえ全ての警察も騙されてしまいますわ。まさかこんな型破りな有り得ない大規模な方法でアリバイを作り上げて来るだなんてまず考えないですからね」


「そうだな、たとえ考えついたって、まず誰もやらないよな。こんな方法は、まずアリバイを作る上で絶対に現実的ではないしな」


「でも実際にこれを成し遂げて私たちの目を欺いたのですから、この狂人・死伝の雷魚の強みは殺人トリックの方ではなく、このアリバイ作りの方が意外と要なのかも知れませんね」


「まあ、その殺人トリックに使用した金丸重雄を一体どうやってペンション内からフナクスビーチ側まで運んだのかが全く分からないがな。使用の各道路も、空も、沼地の水の上も、地下も通る事ができないのなら一体どこを通って狂人・死伝の雷魚は金丸重雄をフナクスビーチ側まで運んだというんだ。くそ、全くわからないぜ!」


「まあ、私はどんな方法で金丸重雄さんを運んだのかはなんとなくわかりましたがね」


「なにぃぃぃぃぃーー、わかっただと、それは一体どんな方法だ。もったいぶらずに教えろよ、羊野!」


「焦らないでくださいな、その答えは死伝の雷魚を釣ってから追々教えますわ」


「魚の姿を模した狂人なだけに死伝の雷魚を釣るか。中々に面白い発想だな。ならその大きな魚を釣るには当然餌となる撒き餌が必要だよな。その撒き餌は一体どうするんだ。どうやってあの狂人・死伝の雷魚を誘き出すというんだ」


「私に考えがあります。なのでこれから言うことを赤城文子刑事にも知らせてください。そんな訳でこれからが大きなお魚釣りの始まりですわ!」


「そうか中々に苦労と緊張感が絶えない楽しさ溢れる豪快な魚釣りになりそうだな。全く楽しい企画過ぎて武者震いが止まらないぜ!」


 勘太郎は近々現れるであろう狂人・死伝の雷魚との対決に、体をガクガクと震わせながら、立ちはだかる心の不安を勇気という名の意思で大きく振り払うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る