シーン2 名前のない青年


警官  名前が、ない…?


青年  はい…。


警官 (溜息をついて)嘘はつかないようにとお願いしましたよ…。


青年 (真面目に)嘘なんてつきませんよ…。


警官  だったらね、名前のない人なんているわけないでしょう。


青年  お巡りさんには在るんですか…?


警官  当たり前でしょう。あなたねえ、これじゃ無くし物以前の問題ですよ。


青年  それ、お巡りさんはどうやって手に入れたんです…?


警官  それって、どれです。


青年  名前です…。


警官  私はね、遊んでる暇はないんですよ…!


青年  僕は真剣に聞いてるんです…。


警官 (ウンザリしながら)親からもらったんですよ…。


青年  貰ったんですか…?


警官  だからそうですよ。あなただってそうでしょう。


青年  いえ…。僕は貰ってませんよ…。


警官  そんなわけないでしょう。例えご両親じゃないとしてもね、誰かはあなたにお名前をあげているはずですよ。


青年  でも…。あげると言われたことがありませんから…。


警官  いや、私だってね、あげるあげたなんてわざわざ言われたことはないですよ。ご家族はどちらに?


青年  誰もいません…。


警官  ああ…。そうですか…。でもね、どなたかからは呼ばれてきたものがあるでしょう。もしかしてお忘れになっているんですか?


青年  それ…。貰ったことになるんですか…?


警官  もちろん、そのために必要な手続きなんかもありますよ。しかしね…。


警官の背後にナースがやってくる。


ナース すみません、お巡りさん。


警官 (不機嫌そうに振り返り)なんですか…!


ナース(恐れて)あ、いえ…。なんでもありません…。すみませんでした…。


警官  あ、いやこれは…!ちょっと取り込んでいたものですから、つい…。


ナース お忙しそうですから、またにしますね…。


警官  いやいや…!大丈夫です。大丈夫ですよ。


ナース いえ…。いいんです…。


警官  いや、本当に。大丈夫ですから、ね。


ナース よろしいんですか…?


警官  ええ、ええ。どうされましたか?


ナース あの…。

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