第12話 ついに、外の世界が見れました
恐怖のお食事タイムが終わってわたしがゲッソリしていると、あまった蜘蛛をバリバリとかみ砕きながらファブニールさんが満足そうに言った。
『食事も済んだし、そろそろわたくしの巣に帰ろう』
「えっ、ここがおうちじゃなかったんですか?」
『こんな狭いところにわたくしの体は入らぬ。ここはあったかさがちょうどいいから、タマゴを置いておくのに使っていただけ』
この洞窟、ドラゴンの孵化機だったんですね……?
『ほら、ふたりはわたくしの背にお乗り』
言うなり、ファブニールさんは長い首をゆっくりとおろしてくれた。ここを伝って背に乗れってことなのかな……!?
「し、失礼しま~す……!」
わたしはカラちゃんを抱っこして、そろそろとよじ登る。それから首の根本にあるちょうどいい場所に腰を落ち着けると、背中に生えていたでっぱりに捕まった。
『それではゆくぞ。しっかり捕まれ』
風のうなりを思わせるゴォッという羽ばたきが聞こえた次の瞬間、体が持ち上がる感覚がして、わたしは空の上にいた。
「わああ! すごい、こんな風になっていたんですね!」
「ピュイ! ピューイ!」
必死にしがみつきながら、わたしは叫ばずにはいられなかった。
――眼前に広がるのは、広大な緑の世界だった。
果てなんかないんじゃないかと思えるくらい、大きな森はどこまでもどこもまでも広がっている。晴れ渡る真っ青な空と、鮮やかな緑の森のコントラストはまるでドキュメンタリー映画を見ているよう。
これ、迷い込んだら二度と出られないんじゃ……そんなことを考えてわたしはぶるっと震える。
それから、視界の端っこに、人が暮らしていそうな町とお城が、ミニチュアのようにちょこんと見えている。
もしかしてわたし、あそこから連れてこられたのかな? わけもわからず馬車に押し込まれて周りの景色とか見ている余裕なんてなかったけど、こんな風になっていたんだ……。やっぱりちょっとヨーロッパっぽいっていうか、ファンタジー世界っぽい。あと、思ったより森の奥深くに捨てられていてちょっと傷ついた。
『巣はこちらだ』
そう言うと、ファブニールさんはお城とは反対の方向に向かって飛び始めた。バッサバッサと大きな翼が羽ばたき、ものすごい速さで下の風景が通り過ぎていく。わたしはあわてて、落ちないようにぎゅっとしがみついた。
『ほら、ついたぞ』
声とともに、ファブニールさんがゆっくりと着陸する。巣にたどり着くまでは、そんなに時間はかからなかったみたい。
「わあ……!」
わたしは周りを見渡して、また感嘆の声を上げた。
そこは、わたしが最初に放り出されたモザンドーラ魔森林とは全然雰囲気が違っていた。空気は澄み渡っているし、生い茂った葉っぱは青々としているし、チチチ……と高い鳥の鳴き声も聞こえる。青空もよく見えて清々しく、まさに『森林浴~』とか『リラクゼーション~』とかにぴったりな場所だったの!
「わたしが捨てられた場所とは、全然違う!」
『捨てられた? メグは捨てられたのか?』
聞かれて、わたしは事情を説明した。
この世界ではない国にいたこと、巻き込まれて召喚されたこと、それから役立たずだからと捨てられたこと。
『ふぅむ、それは災難であったな。まったく、魔法使いどもはいつもろくなことをしない。わたくしは昔尾を燃やされたことがあるから、魔法使いが大嫌いなのだ。見かけたら全員燃やすと決めている』
ファブニールさんはよっぽど魔法使いが嫌いらしい。瞳が残忍に光ったのを見て、わたしは震えあがった。よかった、わたし魔法使いじゃなくて……。
『まあ、わたくしの巣なら安全だ。ごくごく稀にいる、力のある魔法使いを除いては、大体巣にたどり着く前に他のモンスターたちに食べられるだろう。安心して過ごすとよい』
そう言って、ファブニールさんはくいっと顎で指し示した。その先にあるのはカラちゃんがいた場所より、ずっとずっと大きな洞窟だ。確かにここなら、ファブニールさんの体も入る。
『ほかに何か欲しいものがあったら遠慮せず言うのだ。人間は我らと違って、何かと物入りだと聞くからの』
「あ、あの……だったらひとつだけいいですか?」
わたしはおずおずと手をあげた。
『なんだ。言ってみよ』
「近くに、川とかあったりしませんか? その……水浴びをしたくて」
『水浴びか。女神の加護があれば、体はそう汚れないはずだが……』
えっ!? 女神の加護ってそんな効果があるの!?
わたしは感動に震えた。
さすが女神、なんて乙女心のわかる……! 女の子にとって清潔さを維持できるのって、実はものすごく大事だよね! 正直効果の中で一番うれしいかもしれない。
『まあでも、水飲み場はいずれ必要になるしな。ここから少しいったところに湖があるから、水浴びもそこですればよい』
「ありがとうございます!」
わたしは道を教えてもらってすぐ、湖に向かって歩き出した。
よかった~! 体は汚れないと言っても、服はびしょぬれになっていたから洗いたかったんだよね。
『メグてんてー、みじゅあびってなーに?』
「お水を使って、体をきれいきれいすることだよ。カラちゃんも洗ってあげるね」
わたしはカラちゃんと手を繋いで歩いていた。カラちゃんはわたしが湖に向かうのを見るとすぐについてこようとしたのだ。ファブニールさんにも許可を得たから、このまま一緒に水浴びをするつもり。
「――わぁ、すごい……! こんな綺麗な湖、見たことない!」
歩いた先で姿を現したのは、息を呑むほど美しい湖だった。
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