第002話 戦乙女《ヴァルキリー》学園

「あれが婆ちゃんが教えてくれた学園都市ビブリオラ……」


 視線の先に見えてきた巨大な壁を見てポツリと呟いた。


 僕――レイ・アストラルは、山奥に婆ちゃんと二人で住んでいた。


 でも、先日その婆ちゃんが亡くなってしまった。


 婆ちゃんからの遺言で、学園都市ビブリオラにある戦乙女ヴァルキリー学園のマリンダという人を頼るように、と言われたので山を下りてきた。


 麓の村くらいにしか出掛けなかった婆ちゃんに知人がいたこと自体驚きだった。


 戦乙女ヴァルキリー学園は、僕くらいの年齢の人が沢山集まって一緒に勉強する場所だと聞いている。


 そして、学園都市ビブリオラは、戦乙女ヴァルキリー学園があるからこそ大きくなった街らしい。


「うわぁ……」


 街の入り口に近づくと、その巨大な壁の威容と、人の多さに感嘆してしまった。周囲が巨大な塀で覆われていて、かなり遠くまで続いていることが分かる。


 こんなに大きな建造物は見たことがない。


「この水晶に触れてくれ」

「分かりました」


 見張りの人の指示に従って透明な玉を触ると、玉は青く光った。


「通ってよし」


 あの水晶で犯罪者かどうか判別してるんだ。婆ちゃんも似たようなの持ってたっけ。


 街の中に踏み入れると、さらに人が多くなり、目が回りそうになる。


「あ、あの、すみません」

「あ、はい。どうしました?」

戦乙女ヴァルキリー学園ってどこにありますか?」

「それならこの道を真っすぐ行けば、すぐに分かるわよ」

「ありがとうございます」


 道行く人に尋ねると、その人は親切に道を教えてくれた。


 僕は言われた通りに大通りを歩いていく。


 それにしても僕と同じ男が少ない気がするけど、気のせいかな?


 すれ違う人の多くが女性。それも綺麗な人が多い気がする。それとも街って女性が多いものなんだろうか。


 それに僕が見たことのない店がたくさん並んでいる。麓の村にはこれほど沢山の店はなかった。


 暫く歩くと、城壁とは別の大きな建物が見えてきた。


 道を教えてくれた女性がすぐ分かると言っていた意味が分かる。あれが戦乙女ヴァルキリー学園に違いない。


「凄い……」


 城壁も凄かったけど、中に見える建物はまるで本で見た城のように大きくて、思わず見惚れてしまった。


「おい、そこのお前。ここに何の用だ?」


 呆然と眺めていたら、武装した女の人に声を掛けられた。


 街の見張りと同じようにこの学園にも見張りが居るのかもしれない。


 その女性は僕に厳しい視線を向けていた。


 婆ちゃんに教えられたように、できるだけ丁寧に挨拶をする。


「あ、こんにちは。初めまして。僕はレイ・アストラルと申します。ここで働かせてもらうために来ました」

「はぁ!? お前は何を言ってるんだ?」


 おかしなことを言った覚えはないのに、その女の人に変な顔をされてしまった。


「えっと……何かおかしなことでも?」

「ここは生徒も教員も職員も全て女性しかいない。男は中に入れないぞ?」

「え……」


 僕の質問に対する女性の答えを聞いて言葉を失う。


 婆ちゃん、そんな話聞いてないよぉ……。


 てっきり僕でも働けるのかと思ったら、最初で躓いてしまった。


 でも、ここで簡単に引き下がるわけにはいかない。僕にはここ以外伝手がないんだ。


「あの、この手紙をマリンダさんという方に渡していただけないでしょうか?」

「はぁ……そんなもの……」


 僕は肩掛け鞄から婆ちゃんの手紙の入った封筒を取り出して差し出した。


「…………この封蝋は!?」


 嫌そうな顔で受け取った女性が手紙を見て突然表情を変える。


「あ、あの~」

「君はもしかしてカトレア様のゆかりの者か?」


 恐る恐る声を掛けると、彼女は急に言葉遣いを変え、僕に視線を向けた。


「あ、えっと、確かに婆ちゃんの名前はカトレアですけど……」


 婆ちゃんのことは良く知らないけど、昔何かあったのかな?


 女性が婆ちゃんの名前を呼ぶ時に尊敬の感情が籠っているように見える。


「なんと!? まさかあのカトレア様にお孫様が居られたとは……うむ。これは通しても問題あるまい。マリンダ学園長の所に案内しよう」


 返事を聞いた女性は少し考え込んだ後、ニッコリと微笑んだ。


「ほ、本当ですか?」

「うむ。カトレア様の親類ともなれば、何よりも優先される。お前たち、連絡を入れておけ。ここは任せたぞ」


 良かった……まだ希望はありそうだ。


『はっ!!』

「ついて来てくれ」

「わかりました」


 僕は先導する女性の後を追った。


 あれ?……マリンダ学園長って言った?

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