第42話 原初の塔・病 ボス戦 その2
ブシュウウウ。
空気が抜ける音がして、腐臭漂うナーガの全身から煙が上がる。
目、目が!
『
『猛毒に犯されました』
な、何い。全身に激しい痛みが走る。
全身が酸を被ったかのようだ。みるみるうちに露出している肌が溶けて爛れ、服からも煙が上がる。
爛れた肌は自動回復(大)の効果で回復し、せめぎ合っていた。
回復しては爛れ、回復しては……のため、刺すような痛みがまるで引かない。
こ、こうしちゃおれん。
「発動 ログハウス パーティメンバーに権限共有!」
木の扉が出現する。
権限共有は父が気づかせてくれた。モンスタースキルも通常のスキルと同じで認識次第で思わぬ使い方ができたんだ。
謎空間へ繋がる扉の開閉は俺にしかできなかった。しかし、権限共有を宣言することで父と紬も自由に出入りできるようになる。
「紬のスクリーンを煙が越えて来る前に早く!」
「蓮夜。一時的にスリーアローエクスプレスが途切れるかもしれん」
ボス部屋に入った時点で紬はワンタイムではなくソニックスクリーンの方を出現させていた。
何があるか分からないからと、念のために持続性のある壁にしておいてよかったよ。
同時に父からも、全員の敏捷を強化してもらっている。
それもあってか五本首の竜の時と異なり、腐臭漂うナーガの「腕の振り」が見えたのだと思う。
いや、この状態でも五本首の竜の動きが見えるかは怪しい。
父と紬が扉の中に入ると、ガクンと自分の反応速度が落ちたことを感じ取った。
これに加え、痛みのため更に反応が鈍くなっている。
「ぐ、ぐうう」
だが、猛毒と俺の回復力が拮抗しているようだ。これなら、行ける!
奴のフェイタルポイントを探す。そして、エイミングで仕留めればいつも通りだ!
こつん。
その時、俺の頭に何かがぶつかる。
「ありがとう。紬」
それは使わないからとログハウスの中に仕舞っていたゴーグルだった。
装着すると煙が目に入らなくなる。
「いい感じだ。これなら、目を開けていられる! 助かったよ」
強化されずとも、彼らは出来る限りのサポートをしてくれる。それだけで、自分が一人じゃないと感じることができるってもんだ。
「前回」と同じ轍は踏まない。そう、頼れる仲間と共にこいつを打ち倒すんだ!
進む。
靴が脱げ、靴下もみるみるうちに腐食し素足になる。
それでも関係ない、歩みを止めず奴の右脇をすり抜け――。
ガン!
見えない何かに弾き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がる。
そこに腐食液の追い打ちが来たが、身をよじり何とか回避できた。
腐臭漂うナーガの何かに攻撃されたはずだけど、全く見えなかったぞ。
せっかく奴の真横まで来ることができたってのにまた戻って来てしまった。
問題ない。体は動く。痛みが激し過ぎて打撲の痛みが分からないのが難点だな。
どこかの骨が折れていても気が付くことが出来ん。
ペッと口から血を吐き出し前を睨む。
バタン。
その時、後ろで勢いよく扉が開く音がした。
「発動 『ソニックスクリーン』」
「蓮夜。待たせたな。『スリーアローエクスプレス』 敏捷 そして、視力。更に、自己回復(大)強化!」
お、おおおお。
爛れる速度を回復が上回った。痛みもチクリとした程度かな程度だ。
『猛毒を克服しました』
脳内にメッセージが流れる。
チラリと後ろを見たら、なるほど、そういうことかと理解した。
扉を全開に開き、父が指一本だけ扉から出して謎空間との境界を覆うようにソニックスクリーンが張られている。
扉一枚分の空間を埋めるだけならソニックスクリーンでも可能というわけか。
父の強化も謎空間から「外」に出ているから有効になる。
すげえ。こんな短時間で対策を思いつくなんて。これまでどうして思いつかなかったのか不思議なくらいだよ。
いや、それもそうか。ここまでの道のりはレベルを上げる必要があった。
ログハウスの中の謎空間にいてはレベルを上げることができない。空間的に断絶しているから、こちらと繋がりがなく経験値が入らないんだ。
これはキャンプスキルを吸収して一番最初に試した。紬と一緒にね。
中に引きこもったままレベルを上げることができるなら安全じゃないか、って具合に。しかし、現実は甘くなかったってわけだ。
再チャレンジと行きますか!
腐臭漂うナーガの真横を通過しようとすると、奴の尾のうち二本が横向きに飛んできた。
さっき俺を弾き飛ばしたのは尾の一撃だったのか。
今度ははっきり見える。
大きく横へ。強化された俺のスピードでも間に合わない。
切り裂くのはナイフじゃ無謀。一階のゴブリンの装甲でさえ貫けないからな。
ならば、これだ!
下半身に力を入れ、腰を落とす。
ゴツン!
鈍い音がして、左右から俺の脇腹を尾が叩く。
「ごふ……」
アバラが肺に刺さってるな。口内に血が溢れてきてやがる。
構わず奴の後ろへ回り込んだ。
カッと目を見開きながら、溜まった血液を吐き出す。
この時既に骨が折れた痛みは完全に無くなっていた。我ながら自分の化け物ぶりに変な笑いが出てきそうだ。
フェイタルポイントは……見えねえ。
後ろではなかった。
ならばどこだ。
その場で高く飛び上がる。
頭上……も違う。
残すは脇の下と床に引っ付いているところのどっちかか。
腐臭漂うナーガが体の向きを変える。いつまでも俺に後ろを取らせておくものかってか。
向きを変えながらも尾が襲い掛かって来るが、今度は待ち構えていたので体を反らすだけで回避することができた。
向きを変える程度だったらさすがに「下」は見えないか。
動かぬなら動かす!
一息に腐臭漂うナーガに手を前に出すと触れられる距離にまで肉薄する。
寄らせるものかと尾が一斉に襲い掛かって来て、至近距離のため躱すことが叶わず真上に吹き飛ばされた。
そこへナーガの右拳が振り抜かれ、折りたたんだ左腕にヒットする。
小枝のように吹き飛ばされた俺はドスンと地面に肩を打ち付け這いつくばった。
ドクドクと全身から血が流れ、ごふっと大量に吐血する。
脇の下を見ることも叶わなかったし、踏んだり蹴ったりだよ……。
「や、やはり……簡単には……いか、ない、か。次善の、策……だ。発動 『鳴動、血、脈』」
流れ出た血が集まり、大剣を形作っていく。
頭がくらくらするが、もう痛みが抜けていた。父の強化の効果は凄まじいな。
使えねえと思っていた鳴動血脈だったが上書きしなくてよかった。
「発動 『分身』」
俺の影が生まれ、影も同じく大剣を構えている。
その時、俺の動きへ合わせるかのように物悲しい旋律が流れてくる。
「発動 『静寂を願う夜想曲』 数秒だけしか無理そう……」
有難い。
剣を構えた俺に対してだけ腐臭漂うナーガの尾が来るが、先ほどより遅い。
体を倒して尾を回避し、下から上へ剣を切り上げる! 横並びになった影も正確に俺の動きをトレースした。
ズバッ!
ナーガの左右の腕を大剣が切り落とし、元の血液となって消失する。同時に影も姿を消した。
『ガアアアアアアアア』
胸を反らし悲鳴をあげる腐臭漂うナーガ。
見えた! そこだ!
左の脇の下に赤い点がある。
腰のホルダーに納めたダガーを握り、力一杯投擲!
「エイミング」
正確にフェイタルポイントにダガーが突き刺さる。
腐臭漂うナーガは光の粒と化していった。
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