第38話 いざ。アメリカ!

 一週間後、俺たちはアメリカのグランドキャニオンまで来ていた。

 もちろん、グランドキャニオンに観光をしに来たわけじゃあないぞ。ここには「原初の塔・病」があるのだ。

 アメリカは日本の倍くらいの探索者がいる。更に青い宝石の報酬が良いことと軍用装備を購入し装備することが認められているので世界中から探索者が遠征に来ていた。

 探索者にとってメッカとも言える場所がアメリカ……とのこと(浅岡情報)。

 そんなアメリカにある原初の塔だと言うのに閑散としていたことに驚いた。

 何でも、国土が広いだけにモンスターが出て来る危険性のあるピラーの数も日本の比じゃないので、その対応に追われているらしい。

 出現してから7年以上経過したインスタントピラーを全てクリアした後には5年以上経過したものを壊滅させる計画だそうで、原初の塔へ探索者が戻って来るまでにはまだまだ時間がかかりそう。

 俺たちにとっては、人がいない方がやりやすい。入口で日本のマスコミが数名待ち構えていたけど、隠遁を使ってスルーし原初の塔・病の中に入った。


「風花さんにお願いした方が良かったんじゃないカナ?」

「蓮夜は紬ちゃんがいいんだって。すまんな。蓮夜。父同伴で」


 勝手なことを言っている紬と父のことは無視して、ロビーから続く回廊へズンズン進む。

 悩んだ末、塔・病に単独で挑むことを断念し、父と紬について来てもらうことにしたんだ。

 ソロで過去の未来にクリアした時以上の能力を獲得できる見込みもなかったし、父が強く自分も行くと主張してくれた。

 そして、一人連れていくのなら最大人数である四人パーティを組んでもいいだろうとなり、紬にお願いしたわけだ。

 残り一枠空いているけど、これ以上の人員増加は必要ない。

 一緒にレベル上げをした琴美を連れて行くかどうか検討をしたが、命を失う危険性もあるこのチャレンジと彼女がいなくては切り抜けられない場面がないことから誘うのを止めた。

 あと、日下風花を誘うことは検討さえしていない。

 まあ、いろいろあって。うん。

  

「一気に70階まで登る。そこで、父さんのレベルを上げながら100階まで行く」

「その後は120階くらいまで登ってから休憩だっけ?」

「うん。そのつもりだよ。食糧は二日分」

「了解ー。紬ちゃんは70階まで何もしなくてもいいのカナ?」

「あ。中に入っておく? その方が体力を消耗しない」


 キャンプを発動し、扉を開ける。

 「いいのかナー」と迷う紬の背中を押す。


「父さんも70階まで休んでおいて」

「いや。万が一もあるだろ。バックアップする」

「分かった。ありがとう」

「俺が言えたことじゃないが。もっとリラックスした方がいい。今回でクリアまで行かずともいいんだからな」


 ポンと父に肩を叩かれ、「うん」とぎこちなく頷く。

 浅岡の影は今回もいない。ずっと一緒だったから、いないとなると寂しいものだな。

 彼がいてくれたから、いつも平常心で挑むことができていたんだなと改めて思う。

 今回も父がいてくれなかったらと思うとゾッとするよ。


 ドンドン。

 何だ何だ。さっきからうるさいな。

 キャンプで出した扉が内側から叩かれている。ちゃんと寝ることのできるスペースはあるはずだけど。

 扉を開けると紬が勢いよく顔を出す。

 

「この扉。蓮夜くんしか開くことができないんだヨ。キミのことだから忘れてたでしょ?」

「う、うん」

「電波も届かないし。私を閉じ込めたことを忘れちゃわれそう」

「う……」


 ズバリ指摘されぐうの音も出ない。

 父が大袈裟に肩を竦め、トントンと自分のスマートフォンを指先で叩く。

 

「浅岡くんが繋がるようにしてくれただろ。グループチャットなら繋がる」

「だったら大丈夫だネ。私も先に聞いておいたらよかったヨ」

「聞いているものだと思ってた。うちの愚息が迷惑をかけた」

「いえいえー。用があったのは滝さんだったのだー」


 「これ」と紬がゴツイ銃を扉の外に差し出す。

 父がこの前使っていたリボルバーは俺の想像する銃そのものだったのだけど、こっちはなんか持ち手のところが長くて銃身も分厚い。


「邪魔だったか。蓮夜のサポートにと思ってな」

「こんな銃持ち込んでいいの? 軍用じゃないの?」

「日本だとリボルバーまでだが、ここはアメリカだ。せっかくだからと思って、M4を仕入れてきた」

「い、いつの間に入れたんだこれ……」

「食糧を積み込む時だな」


 しれっと言う父に今度はこちらが呆れてしまった。

 M4と言う銃らしい。


「蓮夜は銃のことは全く知らないのか」

「銃弾は3階のゴブリンどもにさえ弾かれるし……」

「まあな。スキルの威力を乗せずらい武器ではあるしな。弓の方がまだ使える」

「父さんの強化なら銃でも有効なんだよね」

「まあな。俺が使っても、アーミーナイフの方が威力は高い。だがな。弓には無い利点もある」


 M4を掴み、ニヤリと笑う父。

 まあいいか。彼は彼で俺のために動いてくれたんだ。文句なんかない。

 

「一応。父として息子が恥をかいたら困るから、言っておく」

「ん?」

「M4というのは銃の種類じゃないからな。こいつは自動小銃だ。アサルトカービンとか呼ばれている」

「自動ってことは連射できる銃ってこと?」

「まあ、そんなところだ。日本に持ち込むことはできないし、米軍から借りることになるから、後で返却が必要だ」

「俺は今まで通りダガーとナイフで行くよ」

「低層階専用だと思ってくれ」


 分かった。父なりの遊びだなこれ。単にアサルトカービンとかいう銃をぶっぱなしたかっただけに違いない。

 あの顔はおもちゃを与えられた子供そのもの……。

 それくらい気楽に行けってことを行動で示したかったのかもしれない。

 

 弛緩した空気の中、前衛に俺、後衛に父で探索を始めた。紬はキャンプの謎空間の中である。


「父さん。知っていると思うけど、原初の塔は階ごとに壁の色が変わる」

「俺も二回くらい原初の塔・死に行ったことがある。厄介だよな」

「確かにモンスターの系統によって特徴があるから、面倒かも。俺にとってはメリットも大きいけどね」

「お前の場合は色んなインスタントピラーに行く手間が省けるわな」


 軽い調子で受けごたえする父。

 彼に釣られて俺もすっかり緊張が吹き飛んだよ。


「父さん。待て! 撃ちたいのは分かるけど、まだ一階だろ。他の探索者もいるんじゃない?」

「撃とうとしたんじゃない。確かめていただけだ」

「どうだか」

「言うようになったじゃないか。ほら、モンスターが出たぞ」


 なんて感じで1階を進み、どんどん登っていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る