第36話 スキル「エイミング」を発動しました
50階まで共に登った経験から30階くらいまでなら、父と琴美がそれぞれソロでも問題ないと感じていた。
事実その通りで、二人とも30階のモンスターでもサクサクと倒している。
父はモンスターの装甲が薄い部分を的確に攻撃して戦っていた。さすが熟練の探索者の貫禄である。
一方琴美はモンスターを上から押しつぶしてミンチにしていた。
「琴美。重力に色って付けることができる? あと、発動してから力場をそのまま維持できたりするのかな?」
「やったことないですが……出来ます!」
「それと、常にその防具を軽くするために重力を使っているんだよな。同時に二つまで重力を操ることができるの?」
「三つまで行けます!」
「分かった。ちょっと考えたことがあるんだ。指示するから試してみてくれるかな?」
「はい!」
モンスターの頭上に出てきたのは透き通った紫色の雲のようなものだった。
これが見える形にした彼女の重力。
『スキル「エイミング」を発動しました』
『スキル「エイミング」を発動しました』
『スキル「エイミング」を発動しました』
『スキル「エイミング」を発動しました』
『スキル「エイミング」を発動しました』
連続で迫りくるゴブリンキャプテンのフェイタルポイントに狙いを付ける。
次の瞬間、紫色の雲から細い柱が伸び次々にゴブリンキャプテンの左胸を貫く!
残るハイゴブリンシャーマンらも同じく紫色の雲から伸びた柱によって光の粒へと化していった。
「一つの重力の塊で、何も一匹だけを仕留める必要はないだろ?」
「それは先輩だからできる技であって」
「重力の塊に色を付けたり、装備を浮かせたり何てことができるんだ。一つの塊を分割することだってできるようになるって」
「練習あるのみですね!」
「そうさ」
彼女のスキルは重力を操るもの。
紬の魔曲のような「開発」は必要ないみたいだ。
重力を紫色の雲のように見せるのだって、初めてだと言っていた。
重力は発想次第で応用が利き、複数の技を操ることができるAランクスキルにも匹敵するスキルだと思う。
「こればっかりは試してみないと分からないけど、重力の攻撃力は50階のモンスターでもぺしゃんこだった。何階のモンスターまで耐えることができるのか楽しみにしている」
「当たらなくなってくるんじゃないかな、と思ってます」
「押しつぶすのは琴美が操作するからかな?」
「その通りです!」
「そこで、もう一つ試したいことがあるんだ。モンスターが登場するまで待とう」
お遊びで更に一つ試したいことがあるんだけど、後から彼女に伝えよう。
「色は別のものにした方が見ている仲間に伝わりやすいから……今度は別の色にしてもらえるかな。出す場所は自分の前に壁のように」
「はい! 重力の向き先はどちらにすればいいですか?」
「上か下のどっちか。下の方がいいか」
「分かりました!」
「あ、最初は俺の前でもいいかな」
「出しますね!」
俺の前に青色の壁が出来上がる。高さは二メートルくらいかな。透明なので向こう側もバッチリ見える。
今度の敵はゴブリンスナイパーとレッドキャップリーダーのコンビだった。どちらも弓を使う。
さっそく矢が飛んできたけど、壁に触れたら矢が床に向かいバラバラに崩れ去る。
「こんな使い方があったんですね!」
「三つまで同時に重力を操ることができるんだろ? こっちの方が防具を軽くするより使えそうじゃないか?」
「はい!」
「そして、今回の敵は遠距離だけだから俺の意図したことは難しいかもしれないけど、斬りかかってくる敵が壁に触れるだろ。すると下に落ちる。つまり、この壁に拘束されるわけだ。そうしたら、頭上に出している紫の雲で貫けばいい」
「それならどれほど素早い敵でも攻撃を当てることができますね!」
二つの重力を操ることでで、防御、拘束、そして攻撃までこなすことができるのだ。
もう一つ重力を操ることができるので、不測の事態に備えることもできれば、サポートに使うこともできる。
たとえば、そうだな。俺の前に壁を出して護ってもらうとかだってできるだろ。
紬のスクリーンに比べると何でも防御できるってわけじゃないけど、物理攻撃なら完封できると思う。
魔法や状態異常、ブレスなんかはモノによっては突き抜けてくるかもしれない。要検証である。
『スキル「エイミング」を発動しました』
『スキル「エイミング」を発動しました』
青い壁から柱が伸び、二体のゴブリンを貫いた。
「壁用の青でも倒せるんですね……」
「同じものだからね。重力の向きも下向きだろ」
「確かに、そうです」
「うん。あと一つ試したいことがあってさ。上向きの重力で浮き上がることができるかな?」
「できると思います。浮いた場合は加減が難しそうです」
「頭をぶつけちゃうか」
「はい。それに浮くだけじゃ、戦えませんよね。飛べないと」
「移動も困難なのかな。エイミングと組み合わせるとかしなきゃ難しいかあ」
残念。
彼女の重力で飛行できないかなあと思ったけど……浮いて緊急回避くらいならできるかもくらいだな。
パチパチパチ。
父が拍手を送ってくれた。
「考えたな。蓮夜。一つの物事に囚われちゃいけないと改めて理解した」
「エイミングのスキルがあったから、ひょっとしたらと思ったんだよ」
「俺のスリーアローエクスプレスは蓮夜に使うと、『化ける』。だが、俺が無防備になるのがネックだと思っていた」
「重力の壁は万能じゃないかもしれないよ。父さん」
「そうかあ。敵によっては……ってやつだな。試行錯誤、創意工夫が必要。何とも探索者らしい。面白くなってきたな」
シャキッとした父には未だに違和感しかない。
探索者としての彼はこれが普通なのだけど、俺にとっての彼は自宅でだらけている人だからなあ。
父の能力を俺に試すことも、やっておきたい。
「父さん、俺を強化してみてくれないか?」
「もちろんだ。順番に試しておこう。それと、蓮夜のスキルで俺たちにも使えそうなものがあれば試そう」
「分かった」
「試すのがある程度終わったら、登るか」
「うん。休憩した後でね」
「上に行けばお前に任せっきりになってしまって悪いが、頼むぞ」
「俺が誘ったんだし。任せてくれ」
グッと親指を立てると、父が白い歯を見せる。
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