第22話 共闘

 ブーブーブー。

 ここでスマートフォンが震えるが、見てもいいものか悩む。


「スケルタルドレイクのステータスを送ってくださり、ありがとうございます」


 と、浅岡の影。

 なるほどな。無償で提供とは粋な事を……彼らに感謝しなきゃだ。

 彼らはドラゴンの骨みたいな巨体ことスケルタルドレイクの情報を持っていた。

 50階以降のモンスターは有償の情報でも記載されていない。

 だが、父のギルド「屠龍」を始め、50階以降に踏み入れたギルドはいくつかある。

 一般の有償サイトに記載されていないからといって、情報がないわけじゃないのか。ギルド同士の繋がりが増えれば、今回のように情報を融通してくれるかもしれない。

 俺も浅岡もモンスターの鑑定を行うことができないからな。

 

 スケルタルドレイクのステータスは後でじっくりと見ればいい。

 今は……奴らを仕留める!

 

「みんな、行くヨ。発動『ワルキューレの行進』」


 古めかしいギターに似た楽器を構えたポニーテールの女の子が指先で弦を弾く。

 すると、彼らの持つ武器がぼんやりと光るオーラに包まれたのだ!


「行くぜ。吸血鬼どもは頭を潰せば動かなくなる。いいか、首を斬ったからといって安心するな!」


 ツンツン頭が長柄のハンマーを先頭の吸血鬼の頭に向け振り下ろす。

 ハンマーは吸血鬼の首を飛ばし、そのまま床に打ち付けられ、吸血鬼の頭をぐしゃぐしゃに潰す。

 あの男、速い。

 プロテクトスーツと呼ばれるライダースーツに重要部位を護る金属板がついた重い装備だってのに、何て機敏な動きをするんだ。

 筋肉質であるがゴツイというわけでもない彼が、あれほどのパワーを誇るのにも驚愕する。

 

 俺はと言えば吸血鬼の群れをすり抜け、ようやくスケルタルドレイクに届く距離まで迫った。

 スケルタルドレイクは直立する恐竜みたいな骨で、とにかくでかい。

 過去に戻ってから色んなモンスターと戦っているけど、今のところこいつが一番巨大だ。高さが10メートル近くあるんだぜ。

 一戸建て家屋の二階部分より高いくらいかな……。

 だけど、俺との相性は抜群。

 

『グラアアアアア』

『恐怖耐性(大)でレジスト抵抗しました』 

 

 スケルタルドレイクらは挨拶とばかりに全身を震わせ、三体同時に咆哮する。

 レジストできれば咆哮中は完全なボーナスタイムだ。時間にして数秒であるが、十分。

 見えているぜ。フェイタルポイントが。

 右脚の踵より少し上に光る赤い点を睨む。

 いくら巨体を誇っても、足元にフェイタルポイントがあるんだったら容易い。

 しかも、咆哮というボーナスタイムのおまけ付きなんだからな。


『スキル「エイミング」を発動しました』


 狙える位置にあった二体にはナイフを投擲。エイミングの効果で正確にフェイタルポイントを穿つ。

 残り一体は全速力で足元をくぐり抜け、直接ナイフを突き立てた。そいつも咆哮が終ると同時に光の粒と化す。

 

「姿を隠しているのは魔法か?」

「兄さん。魔法じゃないと思う。魔法だったら姿を隠すことと、ナイフで攻撃することが両立しないヨ」

「不思議なもんだな。投げたナイフは見えるなんて」

「きっと、影兎の彼は『職業持ち』じゃないカナ」

「マジか! 姿を隠し、一撃必殺……忍者とかアサシン?」

「さあ。私に言われても」


 ツンツン頭と女の子は兄妹だったらしい。

 うちと同じだな。なんて変な感想を抱く。

 二人とも呑気に喋っているなと思ったけど、俺がスケルタルドレイクを倒しきると同じくらいで吸血鬼の群れを仕留め切ったらしい。

 なので、彼らは今、隣り合って俺の戦いについて感想を述べているというわけだ。

 

「見事な腕前だった。掃討感謝する」

「こちらこそ。ホライゾンの敦賀つるが兄妹、そして精鋭の方々の戦いぶり、感服しました」


 ツンツン頭の謝辞に浅岡の影が応じる。

 確かに彼ら、特にあの兄妹は父の組んでいた合同パーティと比べても頭一つ抜けていた。

 

 ツンツン頭が腕を組みポニーテールの女の子に問いかける。

 

つむぎ。姿を隠した影兎の彼はどれほどと見ている?」

「兄さんほどじゃない……でも、スピードなら兄さんに迫るくらいカナ?」

「そうか。影兎は二人と聞く。もう一人がそこの影だろうが、どうだ?」

「ううん。影の方は実体がないヨ。アドバイザー役じゃないかな。彼はソロよ」

「ソロでここまで来たってんのか。どうなってんだ彼の体力は」

「モンスターを倒すと回復するみたいダネ」

「ならこのままソロで進んでもらうか?」

「難しい。彼の今の実力だと57階……くらい」


 俺の能力を分析するなら俺のいないところでやってくれないものかな。

 ポニーテールの女の子――紬は「彼」と断言していたし、俺がモンスターを倒すことで体力が回復することも見抜いている。

 彼女の「能力」で俺を「見た」のかな。


「『見えて』いるなら隠しても仕方ないか」

「変なお面」


 声を出し姿を現すと、紬が俺を指さしけらけらと笑う。


「俺たちの姿はどうか他に公開しないで欲しい」

「なら姿を現すべきじゃなかったな」


 ツンツン頭が肩を竦めた。

 しかし、彼は白い歯を見せ破顔する。


「嫌いじゃないぜ。そういう奴。みんな。影兎の二人のことをSNSにアップしたりするなよお」

「俺ら京介さんみたいに抜けてねえから、大丈夫だって」


 最初にボヤいていたスキンヘッドが茶化す。

 なんだかいいギルドだな。

 俺のギルドのイメージってよくあるファンタジー物語にあるようなならず者の集まりというイメージだったんだよね。

 金次第で裏切ったり、内部抗争で死人が出たりするような……でも現実は違った。

 アルバイトしか経験してない俺が言うのもなんだけど、ギルド組織というのは会社組織とサークルの間くらいなんじゃないかな。

 同業者とは出会うと挨拶するし、お互い礼節を持って接する。言葉遣いが荒い人もチラホラいるけど、そこは職業柄ってやつだ。

 このギルド……浅岡の発言からすると「ホライゾン」かな?

 ホライゾンも父のギルド「屠龍」とかと同じで、俺たち新参者の「影兎」であっても同じギルド仲間として協力して当たり前だという姿勢だ。

 なんだかいいよな。こういうのって。

 

「町田のパーティに入口を塞いでもらいたい。一階のモンスターなら一人でも余裕だろ。だが、下るのに手間取る」

「全員で降りた方がいいんじゃないカナ?」

「いや、そもそもこのインスタントピラーからモンスターが外に出ているんだよな。だったら、こいつを消すのが手っ取り早いだろ」

「無理だよ。このまま全員で登るならクリアもできるかもだけど、何度も休憩しなきゃもたないヨ」

 

 彼らも俺と浅岡と同じ考えみたいだな。町田というのはあのスキンヘッドのことみたい。

 元を絶つにはインスタントピラーをクリアしなきゃならない。彼らが入口を護ってくれるというのなら――。

 

「俺にクリアさせてもらえませんか?」

「有難い申し出だが、無茶してあんたに死んで欲しくない」

「俺と浅岡なら……行けます」

「う、うーん」


 同業者として彼は俺の無謀を諫めようとしてくれていた。

 俺たちの功績を横取りしようとしやがって、などという後ろ暗い気持ちからではないことは鈍い俺でも分かる。

 彼の気遣いに「最悪、彼らを無視して勝手に上層階へ向かおう」としていた自分の気持ちを恥じた。


「いいんじゃなイ? 影兎くんに一階まで来てもらっても過剰だし。私も行くヨ」

「ちょ。お前まで」

「安心して。影兎くんが無茶をしようとしたら、私がちゃあんと連れ戻すからネ!」

「ったく。分かった。分かった。道は分かっているし、俺一人で体力も持つ。行って来い。そんなわけだ。影兎。紬と一緒に挑戦してみろ。ただし、クリアが必須じゃない。生きて帰れよ」

「ありがとう」


 彼らに会いに来てよかった。

 絶対にクリアしてみせる。

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