第12話 勝負の富士樹海
「嵐のようだったな……」
「坂本先輩の妹が同じ高校だったとはね」
坂本兄は浅岡が中学の時の二つ上の先輩で、能力者だった。
その先輩はあっけらかんとした性格で自分が能力者だということを隠そうとしていなかったらしい。
高校に入ったらギルドに入るとも公言していた。
浅岡が中学二年の時にスキルに目覚めてしまい、彼が知っている唯一の能力者だった坂本兄に相談したんだそうだ。
坂本兄はランク測定を受けたり、スキルについてのアドバイスをくれたりと色々と手を焼いてくれたのだって。
「そういう経緯があって、僕のスキルがフェイクセンスだと知っているんだよ」
「妹にも喋っちゃったってことか」
「(先輩から)妹に言ってもいいかと聞かれたから、妹にも口止めしてくれるなら、と伝えたんだよ。先輩の妹も能力者になったとかで」
「なるほど……え、彼女も能力者なの?」
「そうだよ。特に隠してもいない。ギルドにも所属しているからね」
「ギルドに所属しても俺たちのように公開しない選択肢もあるよな」
「彼女のギルドはメンバー公開しているから、まあ、どんなメンバーがいるんだと公表した方がギルドの宣伝になる」
「う、うーん。宣伝するメリットが……」
「宣伝しない方が希少なんだよ。動画やスポンサー契約で資金を集めることだってできる」
なるほど。
その発想はなかった。
影兎の方が希少だという浅岡の言葉をようやく理解する。
俺も浅岡も家族に養ってもらっている立場で生活費がかからないから、ギルドで得たお金は全て装備につぎ込めるだろ。
だけど、ギルドってのは会社と同様なんだ。
社員を抱え、その人たちの生活と装備を整えなきゃならない。更には規模が大きくなると事務所経費や事務処理など内勤も必要になって来る。
青い宝石が主な収入源だとしても、より多くの資金を集めることができるに越したことはない。
知名度があがれば、動画の視聴数も増えるし、スポンサーもつく。
となると積極的にギルドを宣伝していこうという方針になる。
「影兎が目立った理由も少し理解できた気がする」
「蓮夜も中二心をくすぐられるだろ。メンバーの公開をしていないたった二人しかいないギルドが、連日インスタントピラーをクリアしていたらさ。しかも昨日は30階だ」
「30階って中々のもんなのか?」
「そうだとも。安全に行くならAランクが一人か二人にBランクをサポートに数名付けるくらいの規模感だね。Bランクだけだと六人くらいいても少しでもミスしたら大怪我する程度だよ」
Aランクって確かどこのギルドも取りあうとかだっけ……?
父はAかBランクだったと思う。実のところ父のスキル名も知らないんだ。
小さい時には父の仕事について聞いたことがあったけど、この年齢になると何だか気恥ずかしくて。
入院したこともあり、面と向かって父に仕事のことを尋ねたら心配されそうで藪蛇になりかねない(またピラーに行こうとしているんじゃないかってね)。
「う、うーん。あまり考えないことにする。俺はただインスタントピラーをクリアすればいい、だったよな」
「その通りさ。それで今日はどうする?」
「できるだけ高くまで登りたいけど」
「そのことだけど、昨日で最低限の30階クリアを達成した。だから、もう一つの手が使えるようになった」
「よくわからん……」
「君はただピラーに挑戦すればいい。それだけさ」
「お、おう」
◇◇◇
富士樹海にあるインスタントピラーは「原初の塔・死」に近いこともあってかある種の観光地みたいになっていてげんなりした。
浅岡情報によると、このインスタントピラーが生まれてから三年近く経過しているそうだ。
これ、クリアされてしまうと逆に困る人が出て来るんじゃ……なんて変な事を考えてしまった。
今のところインスタントピラーを放置していて何か被害が出たという話を聞かないし、原初の塔も同じくである。
俺個人の考えとしては、誰も原初の塔やインスタントピラーに挑戦しなくなったら何かしらの大災害が起きるんじゃないかと恐れているんだ。
ピラーの中って何だかゲームみたいだろ。誰かによってつくられたシステムに思えてならない。
もちろん作ったのは人類じゃなく別の何かであろう。
だったら何かしらの目的があるはず。ピラーと共に人類にスキルがもたらされた。まるでピラーに挑戦しろとでも言わんばかりに。
なので、創造主の思惑通りにピラーに挑戦しているから何事も起こってないだけなんじゃないかって。
観光地化している富士樹海のインスタントピラーも結構な頻度で探索されている。
クリアできないことはないと思うのだけど、50階を越えるインスタントピラーがクリアされることは稀なんだってさ。
日本最強パーティとやらで挑めばすぐクリアできそうなものだが、最強パーティでピラーに挑戦したのはたったの一回。原初の塔・死の記録更新したときだけだと言うのだから驚きだ。
ギルドはそれぞれ思惑があるから、何か理由があるんだろ、たぶん。
「熱!」
「君もたいしたタマだよ」
できたてのたこ焼きは熱すぎた。
そんな俺に浅岡はあきれ顔である。
「浅岡がまだ時間があるから屋台で食べてればいいって」
「食べたら僕らも準備しよう」
「ひょっとして、観光地化していることも見越していた?」
「もちろんさ。中堅ギルドの合同イベントとなると見物人は必ずいる。観光地化されてれば尚更だよ」
「インスタントピラーがクリアされちゃったらどうなるんだろうな」
「どうもしないさ。喜びこそすれ非難される謂れはない。インスタントピラーは次から次へと生まれるのだからね。放っておくとどこもかしこもインスタントピラーだらけになるよ」
「その発想はなかった」
正直、浅岡が屋台エリアに連れ出してくれたことに感謝していた。
いよいよ、父の救出と気を張っていたからね。
俺たちは火曜日に富士樹海入りして、今日で二日目だ。
条件を満たしたとかで影兎は単独で富士樹海のインスタントピラーにエントリーしている。
単独でエントリーするクリア実績を保持していない場合には合同での参加になっていたところだ。
この場合、パーティで行動しなきゃならなくなる。
浅岡の「もう一つの案」とは単独エントリーのことだったのだ。
おかげで一人で動くことができる。
そんなわけで合同ギルドイベントはスルーして、インスタントピラーにエントリーし中に入った。
一人コッソリと行動するために必須だった欲しかったスキルを月曜日のインスタントピラーで得ることもできたしな。
浅岡が高い階層に挑むより、欲しかったスキルがあるんだろ? と言ってくれて。無事取得することができた。
「周囲に人はいない。今のうちに」
二頭身の影が俺に助言する。この影は浅岡のフェイクセンスで作られたものだ。
影は彼と同じように喋り、視界を共有している。
合同イベント開始まで確かあと1時間。さすがにまだ誰も入場して来てはいない。
『スキル「
『スキル「
自分では何ら変わったように見えないが、隠遁は俺の姿を隠してくれる。
忍び足は歩く時の音を完全に消してくれるのだ。
匂いと熱を誤魔化すことはできないけど、離れたところから他のパーティを観察している分にはまずバレない。
後は万が一の時のことを考え、マスクを被る(浅岡の助言)。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます