第10話 劇場としごき

中央都市では9歳になると職場見学と名付けられた親の仕事場を見学する日がある。

どんなことをやっているのかわかる年齢、そういうことだろう。

そう、9歳、思春期の前夜祭と言われるプレ思春期に突入するぐらいの年齢だ。

前世で言ったら小学校3~4年生。

「ふぬーー」

私のか細い喉からこの声が出ているのか、そう思うほどの力強い声だ。

「ほら、アルテス、まだまだよ」

母に連れられ、やってきた訓練場でスパルタの如き訓練を受けている。

占い師に会ってから2年後、7歳になった時からこの訓練は始まった。

私の魔力が人よりも多いなぁと感じていた母が改めて日に日に魔力が強くなるのに気づいて、父に話したのだ。

「アルテスの魔力は一般の人の何倍も多いの、だから生きていく上で魔力の扱いは必須条件よ」

「というか何でそんなに魔力があるんだい?」

「それは…きっと私たちの子供だからよ!」

「あぁ、神よ!アルテスを授けてくれてありがとう」

そんな夫婦のやり取りの後、事ある毎に訓練場に来ては母から訓練と言う名のシゴキを受けている。

それに私の神はヲタク神、両親が祈っているのを想像すると少し怖い。

全力ヲタ芸をしているゴブリンの前に跪き、祈りを捧げる両親。


7歳からだからもうここに通って2年目か。

最初は優しかった母も前世の知識があり、飲み込みの早い私に魔法の知識をこれでもかと教え込む内に、この場所に限り、本当の師弟のような関係になっていた。

前世の知識様様だよ、ラノベの力は偉大だって痛感してる今日この頃、作者の皆様、ありがとう、おかげで私は生きていけます。

この世界の魔法は少し特殊で生活魔法を基礎として、攻撃魔法に昇華できるかで職業も決まるようだ。

私は魔力感知、魔力操作を含めた生活魔法全般を1年経たずに修得し、現在はなぜか体力の底上げとして魔力をまとって絶賛筋トレ中。

「母様、9歳の娘のお腹の上に乗るのはどうなのかと」

「この時間は師匠と呼びなさい、気分は悪くはないわね。そして昔を思い出すわ」

そう、私は今ブリッジのような体勢でそのお腹の上に母が座っているのだ。

母は母で、あの時は私も師匠をぶっこ、、、いやいや、師匠とは違う、私はアルテスに魔法の何たるかを、、、そんなことを虚ろな瞳でぶつぶつと呟いている。

そこまでの想いがあるなら同じことを娘にしないでほしい。


「はい、今日はここまで」

「はぁはぁ、ありがとうございました」

「それじゃ帰りましょうか」

そう言うと浄化魔法を使って母は私の汚れを綺麗にする。

この魔法、ラノベを見ていた前世ではとても憧れてた、使えるようになったときは感動と感激で叫んだものだ。

でもね、やっぱりお風呂に入りたい、ゆっくりつかりたい、半身浴しながらネトフリ見たい。

そんなことを考えながら母と2人で父の職場に向かう。


両親は占い師に会ってから精力的に活動している。

父は劇団について劇場支配人さん、劇団員とやり取りを増やしているようだ。

母は劇団の花形として演技、そして魔法演出に、より磨きをかけている。

もちろん私も日々のシゴキと自主訓練と学習、個人的な人脈作りに勤しんでいる。

この世界は15歳で成人だ、きっと15歳になったら両親は私を正式に劇団の仕事に就かせるだろう。

それまでにやれることをやらないとね。

それと転生者ってことも神様から言われてることも伝えていいのかわからないから両親にはまだ伏せてる。

オッカケ神に言われた同郷のセレネは私にとっても大切な存在になる予感がしている、今どんな状況かはわからないけど助けが必要なら私ができることは何でもするつもりだ。

さっさと両親に伝えて地方都市に行って探すということも考えたけど成人前の子供は制限がとにかく凄く多いことがわかったのだ。

特にこの人間族の中央都市は都市の外に出るのも通行証含めて手続きがかなり大変で未成人だと余程のことがない限り通ることは出来そうになかった。

地方都市は都市長によって毛色がだいぶ違うらしいけどこの中央都市は王族が直接管轄している為、入出時は一番審査が厳しい、でも入ったら他の都市に比べて生活は高水準で約束されているし、セレネが居るというスラム街のようなものもない。

早く成人になりたい、でもやれることはやらないと成人になった時に足りないものが見つかるのが怖い。

そんなこんなで今はやれること、調べられることに全力で取り組んでいる。

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