第40話
1年前の冬、桜田は警視庁に呼ばれた。
理由は、世間を騒がせているアクロポリスの事だった。
桜田は不自然に思った。と言うのも桜田は2年前に警視総監を辞めたからだ。
「辞めた人間を呼んで大丈夫だろうか…?」
桜田は会議が始まる前まで考えていた。
約束された時間に警視庁に到着し、小さな会議室に入った。中に入ると、1人の男性警官が座っていた。
「陣内君!」
「桜田さん、お久しぶりです」
陣内は桜田に
「どうぞ、お座りください」
と向かいの席に座るよう促した。
桜田が席に座ると陣内はほっとしたように
「桜田さん、いらっしゃると思いましたよ!」
「どうしたんだ?疲れているように見えるよ」
桜田は心配そうに聞くと陣内は頭を下げ、
「もはや私の手に負えられません!お願いします!アクロポリスを解体させてください!」
「とにかく顔上げて。そうか…アクロポリス。まだそんな事してたのか⁉︎」
「桜田さんは警視総監に昇進される前から捜査していたと伺っております!我儘なお願いで申し訳ございませんが、もう一度お力を…」
陣内は悔しかった。自分が仕切ってからアクロポリスから被害を受けて亡くなった者が10人を超えていたからだ。
「でも、私は…」
「わかっております!無理にとは言いません!この件、考えていただけないでしょうか?」
陣内からそう頼まれ、桜田は考えた。
このままでは、悪い方向に行ってしまうと陣内の話を聞いて危機感を持った。
「わかった。やるよ。まず時間がほしい!」
桜田は陣内をまっすぐ見た。
陣内は何かを感じ、
「わかりました」
「なるべく早くどうするか答えを出すよ!」
桜田はそう言った。
その帰り道、桜田は悩んだ。どうすればいいのか。
帰宅してからも桜田は考え続けた。その姿を見た桜田の妻の民子は
「そんなに悩まなくても。きっといい案が出ますよ」
と励ました。
「ありがとう」
桜田はお礼を言った。
ふと、TVを見た。TVでは、ワイドショーが放送されていた。その中の特集コーナーで二度と同じ罪を起こさないように生活している元囚人の事が放送されていた。
「これだ!」
桜田は叫んだ。
「え?何が?」
民子はキョトンとした。
「大きな声を出してしまった。ごめん」
「いいんですよ!何かいい案が浮かんだんですね」
「そう!浮かんだんだ!」
桜田は笑顔で言った。
翌日から桜田は昔の伝手で刑務所や学校に連絡した。その中で更生の余地がある者を選んだ。桜田が選んだのは、男女8人だった。桜田はすぐ陣内に連絡し、4日後会う事になった。
その4日後、会議室で陣内と話した。
「桜田さん、けっこうユニークなアイディアですね…。犯罪者と学校の問題児を集めるなんて…」
「いや〜実は心配なんだけどね」
「でも、更生できる者ばかりですよね?だったら大丈夫じゃないですか?」
「よかった。そうだ。写真あるんだ」
桜田は鞄から8枚の写真と資料を取り出し、陣内に渡した。
陣内は写真と資料を見ながら
「なるほど…。最初の彼、ちょっと石原裕次郎に似てません?雰囲気が」
陣内にそう言われ、桜田は写真を見て
「そうかなー」
「あ!次の彼、目が三船敏郎に似てますね!この彼女は美空ひばりを彷彿させます」
「陣内君、感想が」
桜田は暫く陣内の様子を見ていた。だが、ある事が桜田の頭の中で閃いた。
「強盗してた彼は勝新太郎にどことなく似てますし、このマラソン選手だった彼、新聞で見た時から笑った顔が坂本九に似てるな〜って思いましたよ!後、結婚詐欺の彼は先代の林家三平をイケメンにした感じだし、タバコを吸ったり学校でよく喧嘩してた男の子はどことなく三波伸介に似てます!そして、保健室によく行ってた女の子は『瀬戸内少年野球団』の時の夏目雅子に似てますよ!」
陣内は桜田に気づき、
「すみません…」
「いいんだよ。それより閃いたんだ!」
「閃いたとは?」
「彼らの組織名だよ!」
「なんですか?気になります」
「8人のスターだ!本名は出さず、偽名をさっき君が言ってたスター達の名前にするんだ!」
「え!なんだか凄そうな感じがします。けど、素人がアクロポリスを解体できるでしょうか?」
「そうだよね…」
桜田は悩み始めた。
そんな桜田を見た陣内は
「だったら警察学校のカリキュラムを取り入れるのはどうでしょう?」
「陣内君、それいいね」
「それでいきますか?」
「そうしよう!」
こうして8人のスターが誕生したのだった。
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