第21話 ワセダアリーナの戦いって話(前編)
舞台両脇から現れたイスや机などの備品群、その数は100を超えているように見える。
その全てにラインがあり、全てを操っている、そう考えること自体が異常だが、あの少女であれば可能なのかも知れないと特別な眼を持つ隆は考えていた。
「空中に留まっているな」
リュウジが目の前の状態を口にすると、隆は頷いた。
「そうですね、ただ、どうやら準備が出来たようですよ、きます」
備品群に繋がっていたラインが一斉に震えるのが見えたと同時にこちらに向かってくる。
カノはそれを見て、3人の前に出て、両手を前に突き出す。
「カノ!」
コースケの叫び声と同時にカノの前方3mあたりで飛んできたものが止まっているのがわかった。
「私の範囲内に入ったモノを強制的に止めます。それが壁となって後から来るモノはこちらには届かないはずです」
カノが言っていることの理屈はわかるが、リュウジと隆は改めて目の前の出来事に驚く。
自宅でのコーヒーの一件は目撃したが、リュウジはコースケと呪術以外の力を見るのは初めてであり、隆は目の前でラインを強制的に切られている現象を初めて視た。
カノの言うとおり、一定の範囲からはイスや机などが一切入ってこないのを見て、コースケは自分のことのように興奮していた。
「すげー!カノ、ほんとすげーよ!」
それらが止まっている影響でカノを中心とした半径3m程度の半円が目に見える。
「これが須堂さんの力か、むっ!」
リュウジが何かに気付いたのとほぼ同時に隆が大きな声を出す。
「奥から攻撃が来ます!」
備品群がドーム状に固まっているが、その隙間から隆の眼が光る何かを捉えた。
「うむ、こっちはわーの出番だ」
そういうとポケットから石を取り出し、結界を展開するリュウジ。
ドーム状に展開しているカノの力に影響されずに光が届くが、結界により弾かれる。
物理と呪術、どちらに対しても機能する防御が出来上がった。
どの程度この攻撃が続いたか、周辺に散らばるイスや机の残骸が物語る。
物理と呪術の二段構えの防御は確かに強力だが、懸念をコースケが口に出した。
「何か、やり返せねぇかな」
隆は眼、コースケは耳、リュウジは防御に特化した呪術、カノはサイコキネシス。
唯一可能性があるとするとカノだった。
そしてそれはカノ自身もわかっていた。
「何か、考えます」
眼前には半円上に折れ曲がった机とイスが幾重にも重なり、既に壁として機能できる状態になっていた。
「須堂さん、無理はしないでほしいが出来ることがあるなら、頼む」
リュウジは自分の無力さを感じながらもカノに伝える。
カノは思案したあとに隆に声をかける。
「九葉さん、今の攻撃ってどこから来たかわかりますか?」
「奥の舞台、その中心あたりです」
隆の言葉のあと、カノはリュウジに目を向ける。
「リュウジさん、舞台方面にこの前視えるようになった結界のようなものを展開することは可能でしょうか?」
リュウジは驚いた顔をカノに向ける。
「できる、よし!」
ポケットから石を取り出し、前回と同じく結界を展開するリュウジ。
舞台上で結界が機能するとぼんやりと光が収束する。
その様子を見て隆は口を開く。
「どうやら人型ではないみたいですね、私の眼だといつもの少女に視えたのですが」
その疑問にリュウジが答える。
「力の源という意味では九葉さんが正しいだろう、そう視える眼を持っているからな。ただ実体がない今の状態だと」
そう言ってリュウジは舞台を再度見る。
「はい、実体がないということは今がチャンスです」
隆の発言に被せるようにカノが伝える。
「効くかわかりませんが、私の力で閉じ込めます」
カノが両手を広げ、集中する。
隆の眼には、その攻防がはっきりと見えた。
舞台全域から徐々に狭まる力の壁、それに抵抗するように光からは無数のラインが延びる。
カノが展開する壁から外にラインが出ることは出来ないようだ。
それに伴い、備品群に繋がっていたラインは全て途絶えていた。
「攻撃がやんだな、カノが何かしてるんだろうけど」
コースケは両手を前に出しているカノと舞台を交互に見る。
「あぁ、今は声をかけるなよ」
リュウジも同意する。
その中で隆だけはカノの力がただの超能力という枠を超えているのではないかと疑問が生まれていた。
「机やイスと繋がっていたラインが切れています。中心にある力を須堂さんの力で囲んでいる、そんな状況です」
隆はリュウジとコースケにわかるように話をするが実際の光景は暴れまわる無数の触手に対して、それを上回る力でねじ伏せ、閉じ込めようとするものだった。
隆にはそれをどう説明するべきか言葉では現せなかった。
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