ホムンクルス

紙巻 吸煙

第一章 小さな魔王

プロローグ 始まりの少年

「遂に…… 遂に出来た!!」

 街外れの山奥に佇む森に囲まれた木造建築のツリーハウス。

 その一軒家から響き渡る初老の声。

 彼は部屋に作った実験室の中で、一人の赤子を天に向けて掲げていた。

「お主の名は『ロスト』。わしの苗字『フューチャー』と合わせて『ロスト・フューチャー』としよう」

 ロストは産声を高らかにあげる。


 ──時が進む事、七年。

 一角を生やした二足歩行のウサギ型の魔物モンスター『ラビッツ』の後方を成長を遂げたロストが追い回している。

「おい、待ちやがれ! ウサギー!! 」

「ねぇ、まだその子追い回してるの?」

 横に倒れた丸太の上で退屈そうに座る、オレンジ色の長髪の少女。

「うっせぇ、コイツが俺の大事にしてた『懐中時計』盗みやがったんだよ!」

「大切な物ならちゃんと持ってなさいよ。お父さんの形見なんでしょ?」

「研究中に壊したら大変だろうが」

「まだ卒業試験の研究終わってなかったの? 今日がその再試験の日、って覚えてる?」

 ──ロストは足を止めて。

「──あっ!」

「だと思った。 早く行くわよ、遅刻する」

 丸太から少女は飛び降りると、傍らに置いていたロストのスクールバッグを手に歩き出す。

「待ってくれよ、『アミ』」


 長らく通っていたアカデミーの卒業式。

 同学年の学友達は次々に卒業試験である『魔術の自由研究』をクリア。

 残される所、卒業が出来ずにいたのはロスト一人となっていた。

 どうしても俺はこの研究で卒業がしたかった、俺の目的を果たす為にも。

 ロストは長テーブルの反対側に座る試験監督である、男性の担任『アルバス』と女性の副担任『マーブル』に向かい。

「俺の研究成果はこれだ! ──召喚サモン『ゴルバト』」

 腕を真っ直ぐ伸ばし、掌を床に向けて魔術を唱えると。

 床にルーン文字の羅列と何重かに合わさる星の模様の魔法陣が出現。

 魔法陣の中から蝙蝠型の魔物モンスター『サウンドバット』と猛禽類型の魔物モンスター『ブレイドホーク』を掛け合わせた合成魔物キメラが現れた。

「どうだ! この魔物は。ベースは『サウンドバット』だから大きさや形状などはそのままに、『ブレイドホーク』の特徴である鋭い鉤爪に四枚のブレイド羽。名前は俺が名ずける事で更に強化!!」

「へぇ、この子は『ネーム持ち』なのね。中々よく出来てるじゃない」

「確かによくは出来ている。今回は自身の魔力を消費して魔物に『ネーム』を与える事で更に強力にしてきた、までは良い。──だがしかし、全く言う事を聞かんじゃないないか!! その魔物は!」

 腕を組み瞼を閉じて考え込む様に座っていたアルバス。

 ──瞑っていた目を見開き、自身が制作した魔物に追い立てられるロストに喝を入れた。

「不合格だ! 不合格!! 出直してこい」

「まぁ、まぁ、落ち着いてくださいよ、アルバス先生。こんなによく出来てるじゃないですか」

「そうだぜ、アルバス先生」

 頭に止まったゴルバトが髪を食いしばるのを他所に、抗議をするロスト。

「──ダメだ! お前は魔物がどれだけ危険なものかを知らんから、そう言ってられるんだ」

「ん、だよ。──確かに魔物は危険だけど人間だって……」

 と、ロストが口走ると共に会場の空気が重くなり、静寂とかした。

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