【短編】駄女神に依って被害を受けた俺の町 ~貰った異能で辛うじて生きてます…~

じょお

01 駄女神ハザード?(前編)

ここ数日の酷暑で体力ダウンして何となく思いついたネタを文章化してみたw

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- 序章 -


俺の住んでいる町は毎年夏は猛暑、冬は極寒に襲われている。春は花粉症を発症して過ごし難いし、秋が一番過ごし易い筈なんだが、暑くなくなって涼しくなったなぁ~と思ったらすぐに冬に入る。まるで収穫の秋、食欲の秋がすっ飛ばされた感じになる。尤も、この町は第1次産業なんて無いから関係ないっちゃ無いんだけどな…


さてさて、この異常気象の原因なんだが…有識者によれば大気内の二酸化炭素濃度が上昇しただの、オゾン層の破壊に依って紫外線の照射が増えたからだのいわれているが…実はそんなものは微々たる影響しかない。本来なら地球上の生き物を護る守護者たる神たちの怠慢に過ぎない。尤も神とはいえ、一神教の地域では何故か被庇護者たる人類に1人だけと決めつけられてあちらでは過労死するくらいに大変という話しなのだが…神だけに過労だけではトドメをさすことはできないので主にメンタルにきているらしい。尚、もっと思考を高速に加速して対処はできるらしいが、その分精度が落ちてしまうらしい。過去に干ばつが起きて恵みの雨を…との願いに対処した所、あちらこちらでハリケーンやらサイクロンやらが各地を襲って大慌てしたとかなんとか…神も万能ではないということか。


では、何故神の怠慢で酷暑や寒波が我が町を襲って来ているのか、だが。そんな外国の神さまの例を挙げておいてなんだが、日本には八百万ヤオロズの神…要は無数に神と呼べるモノが棲んでいる。無論、一神教の神さまみたいにスーパーな権能を全員が全員持ってる訳ではないが。足に触れて転ばすだけが唯一の力、とか。ツルツルの顔を見せて脅かすだけ…などなど、普段は妖怪と呼ばれているモノも実は低能力な神と呼ばれているのだ。人間の作りし道具が長く大事に使われ続け、時として何らかの力が発現して発生する付喪神つくもがみ…なんてのも、昔からある。尤も、科学が発達したこの時代には新規の付喪神は中々発生しないのだが…使い方も荒くて壊れればすぐ破棄する現代社会ではな(聞く所に依れば、代々大事に使い続けて100年程経過せねば力は発現しないらしい。物に依っては千年とか気の遠くなる年月を経ないと…など)



- 2階は40℃超え。自室は35℃超え… -


「…マジ暑い」


何もやる気が起きない。PC付けてたがやる気がマイナスになったので電源を落とす。いっその事、外の気温がマイナスになればいいのに…と思ったが実際そうなると色々面倒なことが起きそうなので我慢しておいた。ガラス窓なんかは30℃以上いきなり下がればあちこちで温度差で劣化してパリーンと壊れまくるだろうし、その近くに居た人が下手すれば怪我するし、ガラス屋は儲かるだろうけどいきなり窓ガラスなどが全損すれば雨になった日には窓ガラスが間に合わなかった家は、部屋中が水浸しになっちゃうだろうし…


「んあ?」


そんな益体も無いことをつらつらと考えてたら頭の中に響き渡る声が…多分聞こえてきた?


〈あの…怒らないで聞いてくださいね?〉


やや腰が低そうな女性の声だ。年の頃は20代前半といった所か?…まぁ、女性はその気になれば1オクターブ高くとか低くとか、男より歳を誤魔化す技術に優れているのだが…いや、うちの母ちゃんが電話に出ると、「何処のお嬢さんかっ!?」と思うような声で応対してるの聞いたことがあるんだよね…恐ろしかったよ、うむ!


「えっと…誰?」


取り敢えず周囲に声の持ち主が居ないことを確認し…自室の隣は外かリビングしかないんだけど、落ち着いて気配を察知すれば人が居るかどうかくらいはわかる。今は母ちゃんも出掛けてて誰も居ない筈だからな。


〈わ、私は…この町を守護する女神です。余りご存じの方は居られないようですが…〉


「…は?」


女神って…あ~、天照大神とかは女神の御姿で描かれることが多いから、別に女性の神が居ても不自然じゃないんだが…でも、特定の町限定の守護神ってのは聞いたことはないな。漫画なんかで特定地域を守護する影の守護者…なんてのはよくあるネタではあるが。あちらは異能を会得して鍛えられた「人間」がなっているものだしな。


〈そ、その守護者になって頂きたく、こうして念話を通じて語り掛けているのですが…〉


「念話って…やっぱりこれって頭に直接…」


〈えぇ。ですから、声に出して喋らなくても構いません〉


そうか。それでさっきの声に出してない考え…心の声も駄々洩れなんだ…


〈勿論常時ではなく、こうして念話で通じている間だけなので安心して下さいね?〉


全然安心できないと思ったが…まぁこれも筒抜けなんだろう…取り敢えず信じるしか無いかと思うことにする。


〈有難う御座います、昭咲しょうさくさん〉


名前は筒抜けなのか…プライバシーがどうのと思いつつ、


『ショウ、で構わない。知り合いからはそれで通っているからな』


〈では、ショウさんと…〉


何か硝酸みたいで嫌だなと思っていると、


〈あ~…で、ではショウとお呼びしますね?〉


本当、腰の低い、とても神さまとは思えない女神さまがご降臨…いや、声だけで姿も見てないので違うか…現れたのだった。



- 女神クーラーすげぇ! -


いや、なんつーか…女神さまの相談事があって顕現(相変わらず姿は見せてくれないが理由があるらしい)したんだそうだが…相談つってもねぇ…


「無茶苦茶暑くて無理!」


と突っぱねたら、女神さまパワーで室内どころか家中涼しくして貰えた…いやぁ~涼しいって最高!(ちなみに折角涼しくても家の外が暑いとすぐ熱くなるってことで、大体10mくらいは周囲も巻き込んで温度を下げたそうだ…どうせなら町全体とか上空1000mくらいまで下げられればいいんだけど、今は無理ってことだった)


「えーっと…25℃かぁ。夏日の気温だけど35℃からー10℃なら暫くは涼しく感じられるな!」


人間は慣れる生き物だ。余程冷え冷えとした室内でなければ慣れてしまう。逆に冷え過ぎるとブルってしまい、温かい場所を求める理不尽な存在でもある(生物としてはごく真っ当な反応ではあるが、冷えた部屋を用意した方から見ればそう感じるだろう!)


〈それでご相談なのですが…〉


おお、忘れてた。まぁ、こうして落ち着ける場所を用意して貰ったんだ。俺ができる範囲ならば対応するのもやぶさかではないが…無茶振りしなければな!


『うむ、守護者ってあれだろ?…闇の軍勢とかそんな輩から町を護らないといけないとか…そんなの無理!』


顔は笑って口からは拒否発言ができる男、ショウです!…いい換えればNO!といえる日本人だ。


〈あ…いえ、守護者といってもですね?…その…私にアドバイスをして欲しくてですね?〉


何か日本の神さまからカタカタ用語というか横文字を聞かされるって凄い違和感あるんだけど…つまり、相談か…最初にそんなこといってたような?


〈あ、はい…。取り敢えず、ですが…聞いて頂けますか?〉


『まぁ聞くだけなら…』


駄菓子菓子、世の中には聞いちゃ不味い物事なぞ、無数にあることを…聞いた後に絶賛後悔した。聞く前の俺を殴ってでも止めれば良かったと…



- 女神さまの相談事 -


〈では、外に漏れたりすると厄介なので…〉


すぅ…と視界が暗転して白っぽい空間に出る俺。よくラノベとかである神さまと出会うアレと似たような…


「ようやく会えましたね!…此処には生きてる方の場合、相手の承諾が無いと召喚できないもので…」


「いや、俺は承諾した覚えはないんだけど?」


彼女女神の容姿は一言でいえば某神話のアメノウズメのような踊り子スタイルだった。当人に名前を聞こうと思ったが、


守護者眷属になればわかるので是非!」


…と、やんわりと拒否られた。踊り子みたいな様相は女神と聞いて「天照大神」を連想していたが1つの町の守護をしているという所からランクが下がり、連想ゲームじゃないがアメノウズメが真っ先に思い至ってそう見えてると。眷属にならない限り、人々の想像でその神の御姿は如何様にも変わってしまう、らしい。


「成程なぁ…ある地域では善神であっても、ある地域じゃ邪神として扱われてる神さまもいるし、そういうものなのか…」


そういうものらしい。ちなみにこの女神さまの名は…


「どんな名前がいいですか?」


と、アメノウズメさんの顔でにっこりと笑顔だ。どうも運痴らしく、さっきから羽衣(に見える何か)に足を踏んずけてしょっちゅうスっ転んでいるんだけど。


(駄女神臭が凄いんだけど…大丈夫か?…この女神さま)


と、念話が切れてることをいいことに、怪しさ満点のこの女神に困惑と訝しさを隠せなくなっている俺だった…



「んじゃ仮名としてウズメさんって呼びますよ?」


服装と連想から一時的にだがそうとしか見えないのでそう宣言する。


「もっと親し気に「うずめ」でも構わないのですよ?」


身体的接触は無い物の、やたらとフレンドリーな話し方をしてくる。取り敢えず話が進まないので「相談事とは?」と先に進めることにする。


「せっかちな人ですねぇ…まぁいいです。この空間に居る間は外の世界の時間は停止しているので少々無駄なことに時間を費やしても問題無いんですけどね…」


確かにそうなのかも知れないが、人の身である俺自身は無限にお喋りに講じられても体力的限界というものがある。後、さっきからこの甘ったるい言動に胸がムカムカしてるんだが…別にムカついたという訳ではなく、生理的に合わないタイプの言動と思考タイプなんだ…事務的にならまだ我慢できるんだけどな。


「では、まずは眷属の儀を…えい!」


「ちょおっ!?…俺はなるつもりは…えええっ!?」


何故か強制的に眷属に…守護者というものにされてしまうショウ。何かが体に入ったという感じはするものの、見た目的には特に変わった所は認められなかった…否、変化した所が幾つか。特に目立った変化はその腹部だ。


「腹が…引っ込んでいる!?」


この白い空間が地球上と変わらぬ1Gの重力下であるとすれば、その変化は劇的だろう。


「力が…体が…」


ここ数日の酷暑で水分を取り過ぎたショウは水太りで出ている腹が更に膨れて、まるでビール樽のように目立ってしまい、筋力も低下。更には体力も落ちて割とフラフラだったのだ。


「ふふふ…あなたのお母さんにもいいことがありますよ?…ま、それは帰ってからのお楽しみということで…」


(まさかとは思うが、見た目はすっかり老人と呼ばれている母親にもか?…まさか、若返りなんぞしていたらご近所から何て思われるか…)


俺はすっかりこの異常事態に直面して、思考能力を奪われた如く動けなくなっていた。だが、これからが本番だというのに更に低下する思考能力。


「では、相談事をお話ししますね?…実は~」


女神の…否、駄女神の話しは冗長過ぎて全てを書こうと思えば数万文字では到底抑えられないだろう。要点を踏まえて書けば下記のようになる。



◎昔、外国の神に勝負事を持ち掛けられる(今でも年に数回はやってる模様)

◎勝負事はその都度変わるが…この駄女神「ウスメ」※は勝負事が好きな割にやたら弱く、毎回負け越しているそうだ…

※眷属になったら判明した名前(真名まなではないらしい)幸薄いからウスメなのだろうか?…と考えてたら本神ほんにんから頬を膨らまして無言で睨まれた…

◎負けた際に支払うのは金銭や宝物などではなく…その外国の国?と日本のとある町の気温の交換…ということだ。つまり、ここんとこの酷暑や極寒の有り得ない異常気象の主原因は…



「ウスメさま、日本…というかこの町を護る気、あります?」


びくん!…と肩が震える駄女神ウスメさん。いちいち庇護欲を駆り立てられるんだけどこれでも俺の住んでる町に死にそうな熱気や冷気を送り付けられてる原因だ。心を鬼にして質問を叩き付ける。


「あ…いえ、その…ごめんなさい!」


俺に謝られても困る。謝って異常気象などが止まるんなら幾らでも謝ってくれてもいいけど…。そんな小動物がぷるぷる震えてて思わず抱っこしていい子いい子してあげたくなるようなこの駄女神ウスメをどうしたらいいかなと考え込む俺。いや、もう、抱きしめたくてしょうがない心と必死に戦ってるだけなんだけどな…空気読めよ…俺の欲望よ!!(ちなみに大層なナイスボディなのでロリコンの疑惑は発生しないと思う)



- 取り敢えず、僅かながら神力とやらが与えられる -


「神力?」


べそべそと泣いていたウスメさんからそのようなモノが与えられた。眷属となった時に、人間としての体の性能が上昇しているんだけど、せいぜいオリンピック選手の身体能力を超えて幾らでも世界新記録を達成できる程度とか…(何それ怖いw)


「えぇ…これで、ある程度の異能と呼ばれる能力を行使できます」


通常、人間には物理的な筋力とか体力とかしか備わってない。本当に僅かに魔力みたいな異能の力が備わっているんだけど、それを外部に出して使えるような人間は、遥か過去には少なくとも全世界で数千人単位で居たのだが…魔女裁判とか研究の為とかで駆逐されて久しいということだ。現在でも生き残っているのは一族で徹底的に秘匿して生き永らえたその筋では有名な家系とか、国で保護された一部の人間。中には人外もいるらしいがそんな情報は普通は外部には出ないので一般的には知る者は居ない。


「異能…」


文字で書くと変な能力に見えるが、要は魔法とか超能力みたいなものだろうか?


「そうですね…1つはこんなことができますね」


ウスメさんは片手を上げて前方に固定。無論、その先は何も無いが…


ぶわぁっ!


一瞬で風が生まれて1秒程突風が吹いたと思ったら突如として止まる。


「一番合っている言葉を与えるなら…突風ウィンド、ですね」


ニコっと笑みを浮かべて「どうですか?」と褒め待ちをしている見た目踊り子姿の駄女神が居た。背後にはぶんぶんと揺れている尻尾が幻想できる程に…


「えと…そんだけ?」


持続時間が任意か、若しくは少ない労力で長時間持てば扇風機代わりにはなるかな?…そんなことを考えながら訊いてみる。


「えと…」


褒められるかと思ったが意に反して興味薄そうな反応だった為、風属性の魔法を幾つか披露するウスメ。最初の基本である突風ウィンドに続き、


風弾エアバレット


バスン!バスン!


風矢ウィンドアロウ


びゅばっ!びゅばっ!


「ショウの扱える風属性の魔法はこれくらいでしょうか…勿論、無指定で熟練度が高い場合はこれくらい…という見本ですが」


存外に1度も使用してない場合は発動すらできないんじゃない?…と陰口をいわれた気がして、


「じゃあ、ちょっとやってみてもいいか?」


…と、無意味とはわかりつつも反発心というかできない男と思われるのも癪なので練習してみることに…なった。



- ショウ、人生初の魔法を使う(ある意味、人類初かも?)そして壊れる神 -


「まぁ、魔法を使うといっても、今まで使ったことの無い力ですし、始めは私に触れて魔法を使うとどんな感じなのか?…を体験してみましょう」


…ということになり、絶賛えっちぃ恰好(踊り子の服であり、アメノウズメの神衣なので別にえっち目的の服ではない…と思う)に密着して、右手はウスメの右手首を。左手は左手首を軽く握っている状態だ。背中は豊かな双丘に接触しており、先程からむにゅんむにゅんと…


(あああああ!…沈まれ、俺の聖剣よ!)


と、直視されてないことを幸いにとそそり立っている愚息に羞恥を感じながら、ショウはウスメの魔法講座を受けているのだった…orz



「はい、じゃあ最初から行くね?」


「お、おお…」


突風ウィンド


極めてゆっくりと魔力を練り上げ、丁度背中の腰より上…丹田と呼ばれるへその下辺りが熱を持ち、そこから体を伝って魔法を発動する右腕を伝って手の平の先で魔力が魔法へと変換され、その手の平から数cm先で事象に置換されて発動する様が視て取れた。極力俺が真似しやすいようにとゆっくり突風ウィンドを発生するプロセスをウスメが説明しながら耳元で息が吹きかけられるので、顔を真っ赤に…ひょっとすると耳まで赤いかも…しながら頷きながら教授を得る。眷属となったからなのだろう。その言葉は耳にストンと入って来るし、魔力の動きなんかも何となく納得できる。


「じゃあ真似してみて?…大丈夫。これは風属性の基礎だしできなくても誰も笑うなんて居ないから!」


プライベートルーム私の固有空間だしね)


「う、うん…じゃあやってみる」


先程身を以て知った魔力の動きを思い出し、丹田に魔力を練るようにと意識しながら少々力を込める。初めてだし周りに敵が居る訳じゃないと思い、目を瞑って集中する。



(あれ?…確か目を瞑ってたよな、俺?)


目蓋を閉じている自覚はあるが、自分を中心に視界が「いきなり」展開される。


(これは…俺か)


視界は3人称視点よりはやや近くから自分を見下ろしている感じになっていた。幽体離脱直後の視界といったらいいだろうか…表現はホラーっぽくて申し訳ないが1m程斜め後ろから見下ろしている感じがそれに近い。ウスメはそれより離れて俺を観察しているようだ…あれ?こっちに気付いた?…マジに幽体離脱してんのか?俺…


(お、丹田辺りに魔力っぽい渦が発生したな)


尚、視界はワイヤーフレームぽい漫画的表現で表現されており、体内で何かが起こればリアクションとして表示が変化するようだ。今回は下腹に魔力の渦が発生した為、白っぽい渦がぐるぐる回っているといった感じに映っている。


(確か、それができたら体内を通して右腕に誘導、だっけ…)


そう思った瞬間、渦を巻いていた魔力塊がひゅるると体内に流れ出て…右腕に到達している。その間、こちらと僕の体の2箇所に視線を往復させているウスメさん。顔を見ると表情が線画な為に余りよく読めないんだけど…多分焦ってる?…てな状況なんだろう。これって不味いのかなぁ?


(さて、手の平に突風ウィンドの魔法陣を展開させて魔法を発動か…)


十分、手の平に練った魔力が溜まったのでいよいよ魔法の発動だ。魔法それぞれに魔力の適正な純度や量などがある。基礎的な突風ウィンドだとそろそろ適正量だと思うし純度はそれ程高くなくとも発動はできるだろう。眷属としてインストールされているのか、特に思い出そうとしなくとも魔法陣は即座に出せるようだ。


突風ウィンド


視界が元に戻り、目蓋を開く。自然と口に出したコマンドワードに突き出していた手の平の先に突風ウィンドの魔法陣が自動展開され、突風が基本の1秒間。風速1m程の威力で放出される。使用用途としては換気とか煙の除去など、生活魔法程度の弱装属性魔法にカテゴライズされている。ようだ…


(こんな知識すらインストールされてんのか…)


まぁ、知らないよりは知っておいた方がいいんだろうけど…問題は固まったウスメさんだな。


「あ~、次いってみますね?」


「…」


「返事が無い。唯の屍のようだ…」


超有名RPGの死体に話し掛けた際のシステムメッセージをわざわざ口に出してみるが、反応が無いので軽くぺちぺちと頬っぺたに触れてみる。


「う~む…まぁいいや」


やり方は似たようなもんだろうと、残りの風弾エアバレット風矢ウィンドアロウを練習してみようと思う。違いは何処にどんな形で魔力を練って展開するかと、魔法陣をどうやって展開するかくらいだ。見本を見ていた感じ、風弾エアバレットは指先に魔力を集中させて魔法陣は指先に展開させて単射から連射までをこなし、風矢ウィンドアロウは指先でも問題無いが基本は周囲に魔法陣を展開させての面制圧するように幾つもの一斉射撃がいいみたいだ。3つとも熟練度を上げれば色々アレンジができそうで面白いと思える…が、今は基本的な射撃の練習かな?



そして練習を始めて大体12時間が経過したと思う。この白い空間に居る間は確かに外の時間経過は無いのだろうけど、半日近くも放置ってどうなんだろう…まぁ、俺は風魔法の練習が面白くてそんなことは気にしないで猫まっしぐらともいえる程に没頭していたんだけどさ…お陰で、熟練度がトンデモないことになっていると思う。確認の仕方はわかんないけどなっ!w


突風ウィンド・微風・維持」


ひゅおおおお…


涼しそうな穏やかな風が背後から吹き続けている。そしてその発生源である魔法陣の数は、既に30を超えていた…


風弾エアバレット・自動継続・秒間10」


バススススススス…!


指定した通り、込められた魔力が尽きるまで展開した魔法陣から空気を圧縮した見えない弾丸が1秒に10発を吐き続けている。1つの魔法陣は凡そ60秒で効力を失っているようだ。発射タイミングも条件付与できる場合、恐ろしいブービートラップとなること請け合いだろう…尚、ショウは魔法陣が効力を失う前に連続で発動可能となっていた(クールタイムの短縮)


風矢ウィンドアロウ・30展開・秒間5」


びゅばばばばばっ!


一気に30個展開された魔法陣から秒間5発でややバラけながらも綺麗に面制圧できそうな不可視の矢が射出されていく。魔力視を持っていればその綺麗なアーチを描いた風の矢が地面に突き刺さる情景を見ることができるだろう。自動継続の付与はなされてないが、魔法陣に込められた魔力が消失するまで凡そ5秒。だが、150人の魔法使いが同等の風矢ウィンドアロウを発動するのと同義なこのアレンジ版は強力無比となることだろう…


「えっと…一体何がどうなって?」


「ん?」


振り向くと、ウスメがようやく目覚めていた。立ったままだとあちこち痛むだろうと、「突風ウィンド・微風・維持」を床?から上方向に掛けて、むっちり柔らかい肌が傷付かないようにとエアマットレスのように浮くようにアレンジして寝かしておいたのだ。勿論、紳士の嗜みとして変な所は誓って触れてないぞ?…彼女としても、まさに空中に浮いたような寝心地で夢から覚めない感覚を得ていたと…ま、まぁ悪夢だったら悪いことをしたかもだが…


「えと…何してんの?」


ウスメが何を今更?な質問を投げ掛けてくる。


「えっと…教わった風魔法の練習だけど?」


一応、熟練度の上昇度合いを見せた方がいいかなと思って、最強威力の「突風ウィンド」「風弾エアバレット」「風矢ウィンドアロウ」を披露することにした。今までは持続性に重きを置いた練習ばかりだったけどな。


「じゃ、今まで練習してた成果を見せるね?」


こくこくと無言で首肯するウスメに変だなと思いつつ、まずは突風ウィンドだ。


突風ウィンド・極」


流石にこの威力ともなると術者に影響が出るのだろう。魔力障壁が自動展開されて、風の影響から身を護ってくれるようになる。無論、ウスメと俺がその保護の対象だ。聞こえはしないのだが、敢えて表現するとすれば…


びゅごおおおっ!!!


…と、巨大な台風とか竜巻レベルの最早「突風」とはいえない災害級の風が放出されている。時間指定はしてなかったので大体10秒程で全魔力が解放され、効果時間が終了してやや暗かった白い空間が元の明るさに戻る。


「え………」


エアマットの上で軽くガクブルしているウスメ。そんな彼女を他所に、


「次行くぞ?…風弾エアバレット・極」


未だに展開されていた魔力障壁が重ねられて、音は響いて来なかったけど地響きのような振動が響いてくる。1発分の魔力しか込めてなかったので発射も1発だけ。恐らく、響いた砲撃音・・・は次のような感じじゃないかな?


ずどぉぉぉおおおんんんっっっ!!!


ほぼ、何処ぞの戦艦の主砲みたいな感じだろうと思う。所謂「耳栓してないと鼓膜が破れる」って奴だ。小柄な人間なら音圧だけで吹っ飛ばされてしまうって奴でもあるなw


「え?………」


既に体全体でガクブルして目から汗も流しているウスメ。体の各所からも汗が…うん、透けて見えそうで見えない。これが神衣クオリティーか…


「ラスト行くぞ?…風矢ウィンドアロウ・極」


ぶわっ…と巨大な魔法陣が展開される。先程は説明を省略していたが風弾エアバレット・極の魔法陣は直径50cm程の大きさだ。まだ個人で展開するなら無理の無い大きさだと思う。突風ウィンド・極は手の平より大きいが更に小さい直径20cm程。寧ろ、そんな小さい魔法陣から台風だの竜巻だのの強風?を吹かせる方が現実的ではない気もするが。まぁ、ホースを指で摘まんで放水口を小さくすると勢いよく水が噴き出る例もあることだしそんな理不尽なことではないと思う。


「…発射」


こいつだけ、発射のタイミングは自由にできる。他の2つはコマンドワードを唱えたタイミングが発射のタイミングでディレイなどの遅延魔法か、魔力を練り始めるタイミングを見計らわないと効果的な着弾のタイミングを取り辛いと思うのだが…


ご…


魔力障壁の外側で巨大な…直径2mの魔法陣から矢というには太すぎる、逞しい柱がカッ跳んで行く…音速を越えた時点で地響きが鳴り響き、腹の底に重低音がずんと来る。無論この魔法も魔力障壁が展開される為、これで3重となる…訳ではなく、最初の1枚目は効果時間を過ぎていたので2枚張られている状況だ。


「な…なんだこりゃ~っ!?」


ウスメさん、壊れました。あれ?…俺、何かしちゃったか、な?



- 涙目のウスメ、次の魔法を授ける… -


「…はっ!?」


あれから15分程が経過。幼児がダダをこねるが如く、幼児退行したウスメが我に返るまでの時間だ。思ったより精神構造が強靭なようでホッと息を吐くショウ。このまま壊れたまま、例えば何億年も幼児退行した神を世話し宥めながら生きていかなきゃならんかと恐怖していた所だ。見た目美人でも、流石にそれはノーセンキューである。


「…今、何か妙なこと考えてた?」


「いえ、何も…」


俺は石。俺は道端の路傍の石…と念じながらウスメの目を見詰める。ぽっと頬を染めて視線を外すウスメに、ショウは内心ガッツポーズを取る。


「ま、まぁいいわ…次の魔法だけど」


(えぇ~!?…まだあるのぉ~!!)


ヘロン…と萎えるショウだが、まぁ覚えておいて損は無いだろうと折角の女神のご教授だと真剣な眼差しで説明を聞くのだった…その目が死んだ魚のようであろうとも真剣なのは変わらない!w



「…と、これくらいかしらね?」


今回も基礎の3種類ということだ。1つは「水出しウォーター」唯、水を出すだけの魔法で飲み水の代わりにも打ち水の代わりにもなる。万が一という時には魔力さえ残ってれば水に困らないので役に立つ魔法だろう。1つは「水球ウォーターボール」だ。風弾エアバレットの水版で水の質を弄らないと、ほぼ水鉄砲レベルの嫌がらせにしかならない。炎属性の敵に有効かと思って質問したら、


「敵性生物だったら基本の水球なんて瞬時に蒸発して役に立たないわよ?」


と反論された。どうやら先程の風魔法みたいに熟練度を上げないとダメらしい。そしてラストだが…「水矢ウォーターアロウ」という、水球に比べれば貫通力に特化した攻撃魔法らしい。無論、熟練度を上げないと貫通するどころか表面でぱしゃっ!と粉砕される未来しかないそうだ。


「ここで訓練してれば「今日はここでお終い!さぁさ帰った帰った!!」いいんじゃないか…と。えぇ~?」


白い空間では、何故か魔力が無尽蔵に吸収できるし、先程の戦略級ともいえる威力の初級魔法ですら放とうが壊れない特殊空間。訓練には丁度いいと思ったのだが…


「…で、相談事って?」


「…あ゛!」


肝心の相談内容が未だ口にしてないことに気付くウスメこと駄女神。いや逆か…この町…神落逢かみおちあいの町の守護の女神さまだ…えぇ、まぁ、予め書いてあったカンペを丸ごとどん!と手渡されて、後で読んでわからなかったら質問して!…と一方的にそういわれて帰されたんだけどね…我が家へと。



- 地上へ無事?…に帰還す -


「はぁ…折角いい遊び場ができたと思ったんだけどなぁ…」


体感で12時間程。水を生成する水出しウォーターがあったので、取り敢えず喉が渇くこともなく、念じればトイレも出るし食事も摂れるあの空間はチョー便利だった…それなりに魔力は吸われたけどね?(実は教わるまでもなく、眷属の基本情報に載ってたんだよね…まぁ心優しい俺は素直に頷きながらご教授されててやったけど!)


「まぁいいか…つか分厚いな…辞書かよ?」


薄めの辞書くらい分厚い紙束を見てうげーっとなるショウだが、何故か表紙を捲ってざーっと斜め読みしていたら全て頭の中に入ってしまった。


「は?…え?…」


そして最後のページには1枚のカードが収まっていた。丁度電子マネーカードとかキャッシュカードくらいの大きさで少々分厚い金属製のカードだ。


「なんだ?これ…」


カードの収まってたページには使用説明が書かれていた。



【は~い!あなたの敬愛するウスメさんですよ!】


するもしないもあの白い空間に居る間、ご当神とうにんが殆ど意識失ってたし。殆ど会話らしい会話をしてなかったしなぁ…あ、まぁ魔法を授けてくれたことに関しては感謝してるけどなっ!


【このゴッドカードは全てのページを読み終えた後に解放されます。ご苦労様ぁ~パチパチパチ☆】


へぇ~…あれで全部読んだことになるのか。まぁ頭の中には入ってるみたいだし問題は無いのかな?


【さてさて、このゴッドカードは何と!】



【ラノベなんかによくある冒険者ギルドカードと同様の機能を有してます!】


ふぅ~ん…パラジウムカードみたいな使用上限無制限のクレカじゃないんだ…残念。でも、自分の大雑把なステータスを見れるとかお金を預けられるとか身分証明書の代わりになるとか色々盛沢山の機能があったような…どんな機能があるんだろ?


【いちいち細かく書くとかなり面倒なので、最初に有効化されてる機能だけ抜粋して書いておくのでよく読んでおいてね☆】


よく読んでおいてね☆…じゃねーよ。まぁ、最初から使えない機能を知ってても役に立たないのはわかるけどさぁ~…えーと何々?


「1.自身のステータス表示(眷属ランク含む)」


本当にあるんだな。尤も、こちとら冒険者じゃないんでランク表示があっても意味無い気もするけどな…って眷属ランクって?


「2.常時簡易ステータス表示」


えーっと…名前、年齢、性別、契約神名、眷属ランク、最近の行動記録欄(裏面)が表示される機能です…と。ほほう…自動更新されるんだ。ステータス表示は詳細情報表示って機能かね?


「3.眷属として職務を全うした時に得られる報酬関係」


これ、何も説明受けてないんだよなぁ…。まぁ仕事をこなせば報酬が発生するのはこの世の常識だし?…まさか無償奉仕…ってことはないよな?えーっと…「契約神からの依頼をこなし、無事にこなせば報酬を得られる」…と。まぁ当然だよな。んで…「依頼を完全にこなせずとも、契約神が納得していればペナルティは発生せず。その逆ではペナルティが発生することもあり得る」…ま、まぁ仕事ってのはそういうもんだけど。死んだ場合は死亡保障とかあんのかね?…さっきの魔法習得とか考えると命のやり取りとか、最悪有り得るかもだしなぁ…俺、こういっちゃなんだが就職浪人なんだよな…。保障も無しにそれはどうかと思うんだけど…「報酬は金銭、物品、その他の何れかで支払われる」と…う~む?よくわからんぞ、その他って??…で、金銭に限ればこのカードに降り込まれて自由に使えるのか…プリペイド式クレカみたいなもんか?


「4.眷属当人が死亡した時の扱い」


えーっと…「ご家族がご健在の場合は残高が所持している銀行口座に振り込まれた後、消失します」…なんていうご都合主義のびっくり機能。まぁ、死んだら金なんて6銭くらいしか必要じゃないって聞くしな…(三途の川の橋渡し料金)…って、今時銭貨なんて何処にもねーわ!


つらつらと説明書を読んでいると、どうやら母親が帰宅したらしく、玄関のドアの鍵が開けられる。


がちゃがちゃ!…バタン!!


強めに閉じられる「ドアに何かあったか?」と思わされていると、一気に若返った声で


「ただいま~!」


と声が掛かる。あの駄女神のいったことはホラでも何でもなく、有言実行したということか…俺の腹も引っ込んだしな。


「お帰り」


取り敢えず声だけ返す俺。ペットの犬猫じゃないんだし、喜び勇んで母親に飛びつく趣味なぞ持ってないし。母親は特に気にするでもなく、夕飯の準備に入ったようだ。そして俺は辞書紛いの分厚さに書かれていた内容を思い起こす。



「えーっと…あぁ、矢張り外国の砂漠近くの守護神から勝負を吹っかけられて…か」


そんなギャンブルでクッソ暑い日々を強制されてるなんて人間側としちゃあ堪ったもんじゃない。どうせならクッソ寒い季節なら温かい日々を過ごせそうなもんだが…


「兎に角、暑いのは我慢できないからなぁ~。寒いのは毛布に包まってれば何とか我慢できるんだけど…」


流石に肉布団は脱げなかったからな。いや、そんなことをすればスプラッターな毎日になるし下手をすれば死んでしまう。


「死んでしまうとは何事だっ!?」


と、何処ぞの神官さまも怒ってらっしゃると…いや、それは某有名RPGか。死んだ仲間を棺桶に入れて練り歩く様が実にシュールだったなぁ…そんな棺桶、何処に隠してあったのかは永遠の謎だしな!w


話しが347度くらい逸れた(ほぼ1周してないか?)


ま、それはさておき。念話とやらでウスメさんを呼び出す。使い方は簡単で、


「ネンワ>ウスメ」


と念じればいいらしい。記号の部分は別に要らないらしいけどな。


〈はい、こちらウスメです〉


『あ、ショウですが…』


〈現在多忙につき念話に出られません。お急ぎの方は発信音の後にご用件を吹き込んで頂けるようお願いいたします…ぴーっ〉


『留守番電話かーいっ!!』


俺は思わずキレてしまい、最大音量…否、最大精神強度でぶちかまし、後日(大体1箇月くらい)ウスメさんに怒られるのであった…教訓…何事もやり過ぎは良くない。


━━━━━━━━━━━━━━━

…あ。何故主人公が貰った異能で生き残っているのか、その辺が描けなかった!w

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