第25話『特権行使』


「校長先生、もう一つだけ質問いいですか?」



「なにかね?」


 

「この学校には選択授業がありますよね? 色んな科目の中から自分の学びたい授業を選んでそれを受けるっていうやつ」


「うむ、あるな。それがどうかしたかね?」


「その選択できる科目の枠を一つ増やす事は出来ますかね? あぁ、もちろん限定的特権を使っての話ですよ?

 というのも、俺は補助魔法のヘイストについてもっともっともっと学びたいんですよ。科目の中にそれがなかったから魔法を選択しましたけど、本当に学びたいのはどうすれば俺自身がもっと速くなれるか。それだけです」



 そう。

 俺は魔法の選択授業を選びはしたが、それは単純にそれくらいしか学びたい物がなかったからだ。


 だが、自分で選択授業の枠を増やせるなら話は別だ。


 そして、これは法律に違反した願いでもない。

 なぜなら俺は『選択授業』という科目はそのままに、その中身である学ぶ範囲の拡張をお願いしているだけだ。


 それに、選択授業にて選べる科目の一覧には剣術だの魔法だの槍術だの色々な物があった。学校としても今更一つくらい増えた所でそこまで負担にもならないだろう。


 そんな俺の願いは――


「ふむ……科目の追加に関しては問題ないだろう。しかし、ヘイストのみを学ぶ授業の追加となれば少し難しいかもしれないな」


「そうなんですか?」


「うむ。仮にヘイストのみを学ぶ授業を追加する場合、我々はまずヘイストについて学ぶというところから始めなければならない。なにせ、その分野に精通している人間など本学校には居ないのでね。つまり、必然的にヘイスト授業担当教師は君よりヘイストに精通していない者となるだろう」


「なん……だと?」



 まさかの教員不足。

 ヘイストに精通している人間が居ないとは……いや、そんな気は少ししてましたけどね?

 それでも、ハッキリそう口にされると中々に辛いなと思ってしまう俺であった。



「ゆえにヘイストの授業を追加するにしても、それは授業と言うより研究といった意味合いが強くなる講義となる事だろう。そこでビストロ君。私から提案なのだが、追加する科目をヘイストの授業ではなく補助魔法全般にしてもらえないだろうか?」


「補助魔法全般?」


「うむ。君のおかげで私の補助魔法に対する認識が変化したのでね。研究する価値があるものと判断した。

 ――そこで話は少し変わるがビストロ君。君は自身のヘイストを伸ばす為にヘイストのみを更に学びたいとのことだが、それは少しばかり視野が狭いのではないかね?」


「というと?」


「他の補助魔法などからアプローチを試みるのも面白いのではないかと私は思うのだよ。案外、君のヘイストに良い影響を与えるかもしれないぞ? 幸い、補助魔法を教えられる教員には心当たりがある。君のヘイストほど際立ってはいないがね」


「ふむ――」



 少し考える。

 確かにそれは面白いかもしれない。

 ヘイストの修行ばかりしている俺だが、最近は修行をいくら続けても成長しているという実感が全くない。だからこそこの学校に来たのだ。

 

 それならば校長の言う通り、他の補助魔法などからアプローチを試みるのも面白いだろう。

 それは俺一人じゃ出来ない事だし、十分受ける価値のある授業だ。


 なので――


「――それでよろしくお願いします」


「承った。限定的特権に従い、選択授業にて選べる科目に補助魔法を追加しておこう。幸い、一年生の選択授業は二日後だ。それまでにはなんとか調整できるだろう」



 ――よしっ!!

 どうにかしてこの学校に通う意味を見出せたぞ!


 屋上でマリアさんに根負けした事もあって、辞めるのは少し心苦しいと思っていたからな。


 これで本当に俺のヘイスト、もとい俺の速さが更なる高みに至れるのなら万々歳である。



「あの……」


 そうして俺が喜んでいる中、クロネさんは小さく手をあげて校長に話しかけていた。


「む? どうしたのかねクロネ君。君もここで限定的特権を使用するのかね?」


「いえ、クロネはそのまま持っていようと思います。この限定的特権って一回使ったら消滅しちゃうんですよね? 校長先生、さっき『限定的特権を一つ進呈しよう』って言ってましたし」


「鋭いな。その通りだとも」


「分かりました。それと、もう一つだけ質問いいですか?」


「なにかね?」


「限定的特権を使って誰かがクロネを退学にしようとしたとき、それに対抗する形でクロネも限定的特権で自分の退学をなしにすることは可能ですか?」


「無論、可能だとも。むしろその使い方がもっともメジャーであるな」



 ――なるほど。

 限定的特権を使われて退学にされそうになっても、同じように持っている限定的特権を使えばそれを無効にできるという訳か。

 この学校でどれだけ限定的特権を得る機会があるのかは分からないが、限定的特権による攻撃を防げるのが同じ限定的特権のみであるならば、使わずにそのまま保持しておくのが賢いに決まっている。



「それならやっぱりクロネは限定的特権を使わずにそのまま持ったままにします」


「そうかね。――では、これにて表彰式は終了とする。生徒諸君も疲れたであろう。本来であればクラス毎に帰りのホームルームがあるとは思うが、本日はこの表彰式をもって解散とするとしよう」


 そう言ってきびすを返す校長。

 生徒たちも多くが『やっと終わった~』などぼやきながら、疲れた様子で地下広場から出ていく。


 そんな中――



「待ってください」


 クロネさんは去ろうとする校長の背中に静止の言葉を投げかける。


「限定的特権について聞きたかったのは確かですけど、それはオマケです。もう一つだけ。ちょっとした質問があるのと、その答えによってはお願いしたいことがあるんです」


 そこまで言ってようやく校長がクロネさんの方を振り返る。


「ほう。限定的特権の方がオマケとはね。いいだろう。ではまず、そのちょっとした質問とやらを聞こうか」


 そんな校長の許しを得て。

 クロネさんはそのちょっとした質問とやらを口にするのだった。



「先ほどビストロ君の特権で作られることになった補助魔法の科目。それはビストロ君だけのクラスじゃなくて、希望するなら誰でも受講することが可能という認識でいいですか?」


 ん?

 クロネさん……そんな事を聞いて一体どうするつもりだ?


 そう俺が疑問に思っている間にも話は進んでいく。


「もちろんだとも。順調に行けば明日には補助魔法科目の告知をするつもりである。そして、受講を希望する者は名乗り出てくれば受け付ける予定だ」

 


 その答えに満足したのか。

 クロネさんは小さくガッツポーズをとり。



「では、名乗り出る事にします。クロネもその授業を受講したいです。そして――」



 そう言ってクロネさんは校長の方ではなく俺の方に目を合わせて。

 


「お願いしますビストロ君。クロネを……クロネをビストロ君の弟子にしてください!!」


「………………は?」


 ちょっと何を言っているのか分からない事を言い出すのだった――

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